眠らない魔王とクロノのセカイ (GA文庫)

【眠らない魔王とクロノのセカイ】  明月千里/閏月戈 GA文庫

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「私がお前と血の契りを交わしたのは、純然たる事実だ」
「待て! 人前で紛らわしいことを言うな!」

 自分の“ルール”を作り出す、異能力『世界<ワールド>』と、それを操る能力者『世界使い<ルーラー>』が存在する現代。

 高校生・神木凪夜は“魔王”と名乗る少女と出会う。
「私の名は禍刻クロノ。いずれこの世界を統べる『魔王』のひとりだ」

 クロノの巻き添えで、殺された夜は、彼女とともに街中で起きている『神隠し』の事件を追う。

『正義』を捨てた少年と、正しい『魔王』を目指す、孤独な吸血鬼の少女との、異世界交錯<クロス・ワールズ>学園ファンタジー開幕!
嘘と真実を巧妙に操り、如何にゲームを支配するかを競う心理戦がメインだった前作【月見月理解の探偵殺人】から打って変わって、異能バトルをメインにした真っ向勝負の作風となった本作【眠らない魔王とクロノのセカイ】。てっきり、明月千里さんなら次回作も性格悪そうな捻くれたミステリーを送り出してくるかと思ってたので、このストレートな作品にはちょっと驚いた……のだけれど、ん? ん? んん? いや待ってくださいよ、そう簡単に真っ当な異能学園モノと捉えていいのか、これ? 少なくとも導入編である第一巻では異能力『世界<ワールド>』は直接的な武力として扱われていたけれど、ラストで主人公がやった能力の使い方は心理的な効果を武器にして相手の思考を誘導する、いわばゲームを支配する展開だったと言っていい。そもそも、夜の能力はまさに攻撃力ではなく、純粋にインテリジェンスによってより威力と効果を発揮する、馬鹿では役に立たない能力だ。他にも、仲間となるだろうキャラたちの能力も、攻撃力に乏しい補助系・支援系の能力であることを考えると、以降の展開は思いの外頭脳戦重視の攻防になるんじゃないだろうか。そうなってくると、まさに明月千里のフィールドである。まあ実際はどうなのか、それこそ次巻を読まなければわからないけれど。
それに、バトルのシーンとは別に、クロノの身の回りのあれこれについては、巧妙にリードがしてあって、この辺は実に「らしかった」。てっきり、クロノが頻繁に夜のもとに訪れてくる理由について、それこそ夜が想像していた通りだと読んでるこちらもまったく疑っていませんでしたし。いや、違和感みたいなのはあったんですけどね。この微妙な違和感を漂わせつつも疑いを抱かせない、というバランスが真実を伏せておいてココぞという時に開いてみせる手法においてどれだけ絶大な意味を持つか。この辺りの匙加減の感覚が冴えてる人が扱うミステリー要素は大概面白いんですよね。その点においては、明月さんは実に「相変わらず」でした。
さらに、単純なボーイ・ミーツ・ガールかと思ってたら、最後の最後にどんでん返しが待っていましたし。これの味噌はクロノも夜も両人とも事実を知らないってことです。知らないからこそ、余計にその再会と絆は純粋で価値あるものとして輝くことになる。忘れていても、知らなくても、それでも二人はこうして再び手を繋ぐ。随分とまあロマンが込められた話じゃないですか。好きですよ、こういうの。

前作に比べて更に良かった点は、キャラクターの立ち方でしょうか。特にサブヒロインにあたるだろうカナカとハルは存在感をバシッと示してくれましたしね。カナカなんか、日常サイドのお為ごかし役かと思いきや、実は全方位型の天然弄られおバカキャラという正体を表して以降は、コメディパートで殆ど無双状態でしたし。
白羽先生なんか、師匠役としてはもう類を見ないほど「手遅れ」だったりするしw これだけ人材が揃っていると、日常パートも映えるってもんですよ。
いずれにしても「本番」は次回からでしょうし、先々どんどん盛り上がることを期待したいと思います。