ケモノガリ4 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 4】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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少年よ、ローマを目指せ。殺人のために!!教皇が危篤状態に陥っている。そのニュースは全世界を駆け巡り、多数の信者がローマへ押し寄せていた。騒乱の中で暗殺のチャンスを伺う"ケモノガリ"赤神楼樹。標的は次期教皇最有力候補のヴァレリオ・ロベルティ、殺人クラブのメンバーである彼の息の根を止める! 自称CIAのシャーリー、人間の脳を移植された生体兵器イヌガミを引き連れ、ローマのホテルに潜伏する赤神。だがクラブの調停者アストライアにより突然ホテルが爆破され、新たな殺人ゲームの開始が告げられる。聖都バチカンは完全に包囲された――!
楼樹くんの精神面でのタイトロープが半端ない。こと実践面での無敵っぷりは周知の通りなのだが、彼の強みはむしろその鋼鉄の精神だったと言っていい。その鋼のごとき硬く冷たく揺るぎのない強靭な意思こそが、肉体を牽引して標的をずんばらりんと狩り倒していたのでした。ところが、今度の敵はその楼樹くんの揺るがないはずのケモノガリの精神を揺さぶってくる戦術に打って出てきたのです。
そもそも、彼の鋼鉄の精神というものは、人間とケモノの狭間に立っているからこそ成り立っているもの。人間として破綻しながらも人間として壊れず、ケモノのごとき殺意を燃やしながらも心までケモノに堕ちきらない。そんな絶妙のバランスの上に立っているからこそ、赤神楼樹は人の心を持ったケモノとして活動できているわけです。そんな彼がもし、人の心を失えば、或いはケモノの本分を忘れて人に戻ろうとしてしまえば……それは彼の破滅を意味してしまう。
この物語が凄いのは、主人公が人間としてのマトモな心を取り戻すことが、愛情に身をゆだねることが、そのまま主人公がゲームオーバーになってしまう、という制約を課しているところでしょう。普通なら逆ですよ。非人間的だった登場人物が人らしさを手に入れることで、より意味のある強さを手に入れる、というのが王道といえば王道の展開なのに、赤神楼樹が置かれた環境はそんな優しくぬくもりに満ちた展開を一切許してくれない。過酷で残酷で冷酷な、ただただ暴力によって物事が決してしまう状況においては、人である事は弱さ以外の何者でもなく、弱さはすなわち死に直結している。しかし、同時に一切の人間性、人の心を失ってしまえば、それは彼が戦っている相手と同じ存在になってしまう。彼が戦う理由、行動原理そのものが破綻してしまうという、綱渡りのような精神面のバランス感覚を要求されているわけです。
そこをまあ、イヤというほど攻めてくる攻めてくる。
まさにこの時のために、これまでこの手段はとっておいたのでしょうね。赤神楼樹の最愛の人、あやなを人質に使うという手段は。
まさか、また再びこうしてあやなが出てくるとはなあ。いずれ何らかの形で登場するだろうとは思っていましたけれど、このタイミングは想像していませんでした。第一巻以来の本格登場のあやなでしたが……やっぱりこの娘こそが真ヒロインだわ。
赤神楼樹という異常な殺人者をそのまま受け入れた女性だけある。覚悟が尋常じゃない。たとえ離れ離れになったとしても、彼女には楼樹くんと共にあり続けている、という気概が感じられる。共に在り続けるってのは、
楼樹くんがやっていることを全部承知した上で、彼が負うであろう負債も苦痛も、彼の行動の結果のすべてを共に背負うということ。だから、彼のせいで自分がひどい目にあっても動じない。そりゃもちろん、怖いし辛いし、彼が心配でたまらないのは当然です。でも、彼を待つと決めた時点で、それは最初から覚悟していたものだったのでしょう。彼のために苦しむ覚悟、彼を苦しめる覚悟を彼女は日常の中に置き去りにされながら、ずっと保ち続けていたのです。彼女の覚悟は、あのアストライアをして、恐ろしい人だと言わしめるほどでした。
こりゃあ、敵わないわ。あやながこのあやなで在り続ける以上、楼樹くんにとっての絶対者は揺ぎ無く彼女で在り続けるでしょう。残念ながら、他の娘がはいる余地は微塵もありませんね、これ。そして何より、このあやななら、楼樹くんを幸せに、誰もが思い浮かべる通りの幸せを与えてあげられるんじゃないだろうか、と思わせてくれる何かが、彼女にはあったんですよね。これまでは、どんな形で決着するにしても、血に塗れすぎた主人公にハッピーエンドなんてシロモノは存在しないと考えていたんですが、その考えを覆すほどのナニカが貴島あやなのはあったのです。ほんと、大したヒロインですよ。

ローマ中を巻き込んだ破壊と暴力のデスゲームは、この四巻で終わりきらずにそのまま五巻に続きます。表紙を飾ったヒロインのセシリアは、今回は特にこれといった活躍をしないまま、というか楼樹くんの足を引っ張るよう配置された役でしたが、次回はなんらかの重要な役割を担うのでしょうか。

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