いわゆる天使の文化祭 (創元推理文庫)

【いわゆる天使の文化祭】  似鳥鶏/toi8 創元推理文庫

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夏休みも終わりにさしかかった文化祭目前のある日、準備に熱の入る生徒たちが登校すると、目つきの悪いピンクのペンギンとも天使ともつかないイラストが描かれた、大量の貼り紙が目に飛び込んできた。部活にちなんだ様々な恰好の〈天使〉の貼り紙を不思議に思いつつも、手の込んだ悪戯かと気を抜いていた葉山君だったが──。波瀾万丈で事件に満ちた、コミカルな学園ミステリ・シリーズ第四弾。
うわーーっ、そういう事だったのか!! 全然気づかなかった!! やられたーー!!
今回の構成は、ほんとにギリギリまでまったく仕掛けられたギミックに気づいていなかった上に、空間の差異について気づき、明かされたあとも時間の差異についてはさらに後になるまで気が付かなかった、という二段に別れたスマッシュヒットを食らってしまい、完全にノックアウトさせられてしまいました。完璧にやられた!!
いや、違和感はあったんですよ。なんであの人達、葉山くんのことを知らないんだろう、とか、なんで葉山くんは音楽室の場所がわからなかったんだろう、とか。そんなふとした違和感は各所で感じていたにも関わらず、さしてそこで思考を深く潜らせるでもなく流してしまったのは、それだけ物語の登場人物たちの活動の方に気を取られていたのと、伏線のさり気なさなのでしょう。違和感と言っても、後になって振り返ってみれば、というくらいの引っ掛かりでしたしね。ミステリーを読むなら、そんな些細な違和感こそが肝だというのに。たとえ論理的に謎を解けなくたって、直感で謎の構造に気づくくらいはしないといけないのに。くぅ、ここまで綺麗に騙されるなんて。ええい、気持ちいいなあ、もう。

にしても、柳瀬先輩の多芸っぷりが、もはや犯罪レベルなんですが。なにその声帯模写。もうコナンくんの変声器レベルなんですが。葉山くんも冷や汗流してますが、この人がオレオレ詐欺やったら、幾らでもむしり取れるぞ?
そんな相変わらずの自由奔放縦横無尽の豪快な女首領っぷりを見せつけてくれる柳瀬先輩ですが、今回もんのすごい乙女の顔を見せてくれちゃったりして、大満足です。いやあ、まさか葉山くんのあの行動に、あんな激烈な反応を見せるなんて。いつもの大胆不敵さは何処へ行ったんだ、というくらいに初心な一面を見てしまいました。この人、いつも攻め攻めなだけあって、受けに回るとほんとに弱いな。防御力ゼロなんじゃないか?
とまあ、いつもの強引さだけじゃなく、弱った葉山くんの心を抱きしめるような優しさも魅せつけることで、メインヒロイン枠を独占して大暴れしているかのようだった柳瀬先輩でしたが、そうは問屋が卸さない。
そう、ついにあの娘の再登場です。
翠ちゃん、来たーーーー!!
さすがは伊神さん譲りのバイタリティ。直球ですよ、直球。ちょっと強引に振り回す先輩としての役得を満喫する柳瀬先輩に対し、此方は有能な行動力決断力判断力に満ち溢れた、その上で健気で一途でワンコのように忠実な、完璧すぎる後輩という枠組みで対抗してくるヒロイン・翠の登場で、なにやら俄然盛り上がって来ました、うん。やっぱり柳瀬先輩に対抗できるのって、この娘だけだわ。役者が違う。
惜しむらくは柳瀬先輩が三年生で、翠ちゃんが中学三年生。翠ちゃんがこっちの高校に入ってきたら、ちょうど柳瀬先輩は卒業してしまっている、というところでしょう。柳瀬先輩、その辺ちょっと危機感あるようで、翠に牽制しかけてましたけれど、本気で卒業までに関係ちゃんとしておかないと、翠に持っていかれかねないぞ。実際、前作では一時的にとはいえ葉山くんに別の彼女出来た事もあったわけですし。

しかし、今回のもう一人の主人公とも言うべき奏の危なっかしさは、ちょっと絶賛したくなるくらいでしたね。智くんがちょっと鬱陶しいくらいに心配するのも、傍から見てるとよくわかりますよ。この考える前に行動してしまう性格は、首輪つけておきたくなる。もう見てて危なっかしくて仕方がない。人の話は聞かないし、すぐに自爆するしw ここまで見ていてハラハラさせられてしまうキャラも珍しい。親しい人なら、なおさら心配でしょう。智くんのこと過保護だって奏は思ってるようですけれど、もっと自分を省みて反省すべし。智くんは、これ苦労しそうだなあ、うん。

やはり長編となると、作者の構成力がピカピカ光る読み応えある作品になりますねえ。描写も丁寧で、場の雰囲気も今回は文化祭の準備期間ということもあって、学内が盛り上がっているお祭り的な空気感も素晴らしいもので、何よりキャラも立っているために、登場人物を追うだけでももちろん楽しく面白いのですが、やっぱり肝はこの構成だと思います。この仕掛に引っ掛けられて謎を明かされた時の、やられたー! という感覚はほんと、気持ちいいですからね。ここまでうまくやられることはそう数あることじゃありませんから、良いものを読ませていただきました。うん、面白かったーー!

似鳥鶏作品感想