吼える魔竜の捕喰作法 (HJ文庫)

【吼える魔竜の捕喰作法】 内堀優一/真琉樹 HJ文庫

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国を守護する《魔法騎士団》を易々と蹴散らす巨大な竜。しかしそれは、一人の青年によってあっさりと倒された。あまりに強すぎるその男・タクトの正体は――皆が畏怖する竜を狩り、その肉を美味しく食べてしまう《下町の肉屋》だった! そんな彼に丸め込まれ、肉屋でバイトをさせられることになった劣等騎士の少女・シェッセの運命やいかに!?
はい、ボクっ娘きましたーー! しかも、男勝りだったりイケメンだったり、ボーイッシュだったりするボクっ娘ではなく、むしろ逆に可憐で素直で庇護欲をかきたてるタイプの実に女の子らしい女の子なボクっ娘である。ボーイッシュなタイプのボクっ娘も嫌いじゃないんですけれど、私はこういう女の子らしいボクっ娘も大好きなんですよ、うん。ツボったツボった。
この作品の面白いところは、そんなヒロインであるところのシェッセを主人公に据えたところでしょう。実のところキャラの配置だけ見ると、タクトが主人公で周りに様々なタイプの女性陣が集っているという典型的なスタイルなんですよね。タクトの竜狩りの相棒である無口な小動物タイプのリュカ。肉屋の主人でタクトの雇い主である変態のクーミエ。そして魔法騎士団のエリートで文武両道の才女であるカティア。そして、とある理由から落ちこぼれ扱いされているものの、努力家で性根の真っ直ぐなシェッセ。と、こんな感じでヒロインの配置は常道を歩んでいる。のですが、主人公であり視点の主である人物をタクトではなく、シェッセにしているために、物語の見える景色がぐるんと大きく変わってくるのである。さらに、シェッセが主人公になることで、リュカやカティアといったほかのヒロインたちとの人間関係もタクトではなくシェッセが中心になるために、タクトを介するのではなくみんなシェッセとダイレクトに友情を育んでいくことになるんですね。そして、タクトが教導役を担うことで、ある制約を課せられ不当な扱いを受けながらも、コンプレックスに負けずに努力を続けていたシェッセの閉ざされていた道が開かれていく、という成長物語にもなっている。
素直で純粋で、でも負けず嫌いで弱音を吐かずに歯を食いしばって頑張っている子が、きちんと報われる成長物語って、それだけで素敵じゃないですか。一生懸命過ぎて笑顔を浮かべる余裕もなかった娘が、新しい触れ合いから自然に笑えるようになる話って、それだけで素晴らしいじゃないですか。
タクトって、主人公格としては最近珍しいくらいの野生的なマッチョ系なんですが、こういう配役だと頼もしい限りですよね。生真面目なシェッセをからかうのも、やりすぎて叱られるのも、良い意味で息抜きになっていますし。

とはいえ、それだけのシェッセの成長物語、というわけでもないんですよね。主人公でありながら、ちゃんとシェッセはお姫様的なヒロインとしての役割も、物語の本筋の方で割り振られている節がある。彼女の才能が開花していくことは、同時に神話として伝わり、この異世界における信仰となっている伝承に直接関わってくる、というスケールの大きな話に繋がっているのである。どうやらタクトは、既に真実を概ね承知した上で行動しているようですし、その意味でも主人公には成り得なかったのかな。全部知っているということは、物語の方向を決定づけるであろう大きな選択を前にした決断や決意を担うのではなく、主人公に託す立場にあるわけですし。
実際、冒頭に記されている神話と、ラスト近辺で匂わされた神話とは異なる真実を照らしあわせてみると、どう見てもシェッセが選択を迫られる状況ですし。

デビュー作が現代劇ということで、ファンタジーに移ってどうなることかと思いましたが、相変わらず人間関係の微妙な揺らめきの妙は変わることなく、さらに女主人公というのが思いの外ハマった感もあり、新シリーズとしては良いスタートを切れたのではないでしょうか。ここからどれだけ大風呂敷を広げていけるか、楽しみにしたいと思います。

内堀優一作品感想