レンタルマギカ  死線の魔法使いたち (角川スニーカー文庫)

【レンタルマギカ 死線の魔法使いたち】 三田誠/pako 角川スニーカー文庫

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ついに大魔術決闘が始まり、布留部市各地の戦闘は激化の一途を辿っていく。苦戦を強いられた穂波、アディリシアが、それぞれの決意を胸に切り札を切ろうとするなか、市内を巡る霊脈に異変が発生、戦闘中の魔術師たちの脳裏に、ある光景が映し出される。それは12年前―かつて、いつきが妖精眼と交わった記憶であり、それこそが、すべての“始まり”だったのだ!いつきを取り巻いてきた様々な因縁の謎が、いま明らかに。
うわあ、そうか、そういう事だったのか!!
いつきの邪魔をするかのように大魔術決闘に介入してきた伊庭司の目的がどうしてもわからなくて、その上なぜ隻蓮さんやユーダイクスが伊庭いつきを社長と認めながら伊庭司に従うのか。いつきと同じ、魔法使いが普通に幸せになる世界を目指していると広言しながら、いつきと違っていまいち彼が言う幸せの定義が見えてこない。兎に角、意図するところが霧に隠れたようで得体が知れなくて、不気味に思えてたんですよね。なにか、とんでもない事を企んでいるのでは。真の黒幕、裏のラスボスはこの人なんじゃないのか、とすら疑っていました。
なんでわからなかったんだろう。どうして気づかなかったんだろう、信じてあげられなかったんだろう。この人は、伊庭司という人は「アストラル」の社長だった人なのに。たとえ血が繋がっていなくても、伊庭いつきの父親だというのに。
彼の目的が明らかになったときには、思わず声を上げてしまった。ほんとに、なんでその事について思いが至らなかったんだろうか。いつきたちが言う、魔法使いは幸せになっていい、という範疇にはあの人だって入っていて当然だったというのに、彼の運命をもう無意識に諦めてしまっていたと言われても仕方がない。
そうだよなあ、助けないと嘘だよなあ。見過ごすはずがないもんなあ。
でも、それがいつきの考えだけじゃなく、伊庭司という人の目的であった事に、物凄い安堵を感じたのです。ああ、アストラルは、昔からアストラルのまま、本質的には何も変わっていなかったんだなあ、と。
でも、この時点ではまだ、伊庭司のあり方を意図せずいつきが継いでいた、という一方通行の感慨だったのです。胸打たれたのは、ヘイゼルさんが教えてくれた、伊庭司の本心を知った時。彼が、息子のことをどう思っていたのかが、初めて明かされた瞬間でした。
ああ、この二人。伊庭いつきと伊庭司は、ちゃんと親子だったんだ。考え方や生き方や人間性がソックリとか、似ているとかそういう意味じゃなく、双方向の、ちゃんと愛情が通い合った家族だったんだ。
ちょっと、泣きそうになった。
すべてを見通すいつきの聡明さが、この父親の感情だけをヘイゼルに教えてもらうまで見失っていたのは、多分微笑ましいと分類される事実なのだろう。だって、そんな所も父親と息子の関係らしいじゃないですか。誰の心にも敏感で聡いいつきが、父親が自分に向ける心だけは気がついていなかった、というのは。

これまでずっと、心の引っかかっていたものが拭い去られ、最終回を前にして随分とスッキリしました。思えば、あの人の行く末についても無意識に憂慮していたのかもしれません。何となく読んでいて心が重かったのも、伊庭司の動向や目的が読めないための居心地の悪さから来るものだけじゃなかったんでしょう。あの人がいなくなる事を前提としていたら、そりゃあ心も重くなるってもんです。でも、ちゃんと何とかしてくれると、少なくとも伊庭親子が何とかしようとしてくれているのなら、大丈夫と安心できます。哀しい結末なんてぶっ千切ってくれると、信頼できますから、心も軽くなるってもんです。
さらに、協会や螺旋の蛇の首領の正体。アストラルの竜の真実。いつきの目に赤い種が宿った真相など、これまで謎とされていた件もすべて明かされ、そしてアディが迷っていた魔法への代償の答えも出され、これでラストに向けて必要とされる扉の開放は、殆ど終わりあとは突っ走るだけになったのではないでしょうか。もう、イケイケドンドンです。
しかし、ニグレドとタブラ・ラサの正体についてはちょっと驚いた。そういう発想に基づく存在だったとはなあ。
黄金の夜明け系の魔術結社の位階制度において、サード・オーダー以上の位階は物質的な存在では到達できないとされています。なので、てっきり「魔法になった魔法使い」こそがこの第三団に至る方法だと思ってたんですが、ニグレドとラサの登場であれあれあれ? と首を傾げる事になったんですよね。ふたりとも、まあニグレドはまだ理知的で老成している所があるのでともかく、ラサはどこか幼い精神面も垣間見えて、とても「魔法になった魔法使い」の成功例には見えなかったわけで、じゃあ何なんだ? と頭を悩ませていたのですが、なるほどなあ、逆転の発想だったのか。それに、アディたちの説明によると、真なる意味で魔法使いが魔法になることには成功例が存在しないということになりますし。つまりは、第三団はなるじゃなく作るもの、と言う事だったんだ。いや、しかしそれだと、アディはどうなるんだ? 彼女の説明からすると、どうも抜け道があるような気がするけれど。魔法が誰かに使われなければ魔法足り得ないのなら、使う人が居てくれればいいってこと?

アディの選択は、もう彼女らしいとしか言いようがなく。そうだよなあ、この子なら想いを売り渡すくらいなら未来だけじゃなく自分そのものを対価にしちゃうよなあ。結局、この子は一番大切なものを守りぬいたわけだ。貴方に何の相談もなくこんな決断をしてしまって、ごめんなさい。と、謝ってしまうあたりに、アディがそれこそ身も心もいつきに捧げきってしまっている心底が窺い知れる。
以前からその傾向は強くあったけれど、どうやらいつきの想い人はアディの方で決定かな。なんか、わりと決定的な発言、ありましたしねえ。

さあ、次でこの壮大な魔法使いたちの物語も終結。皆が幸せである結末でありますように。うん、大丈夫大丈夫。

三田誠作品感想