アリス・イン・ゴシックランドIII  吸血機ドラキュラ (角川スニーカー文庫)

【アリス・イン・ゴシックランド 3.吸血機ドラキュラ】 南房秀久/植田亮 角川スニーカー文庫

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気晴らしに出かけた舞台の席で、アリスたちはワラキア公と名乗る一人の紳士と出会う。それと時を同じくして発生する連続不審死事件。捜査を始めたジェレミーとイグレインは、被害者が一様に全身の血を抜かれており、首筋に二つの傷がついていることを突き止める。一方、アリスの別人格であるジルは、自らの復讐を果たすべく残る二人の標的を狙っていた。そして、その復讐の刃は、彼女を止めようとしたジェレミーにも向かい―。
 ええええっ!? なんで!? この巻で終わっちゃうってどういう事なんですか!? これからもっと面白くなるってところだったのに。せっかく登場したモリアーティ教授とか、特に暗躍の場面なく終わっちゃったじゃないですか。
ビクトリア朝の霧の王都ロンドンを舞台にした、フィクション・ノンフィクション総ざらえのオールスターキャストで繰り広げられる大活劇もコレにて幕、ということで、さらなる新キャラに加えてこれまで登場したキャラクターも登場しての、文字通りのオールスターでのクライマックスは流石のお祭り騒ぎでしたけれど、この楽しい「遊園地」はもっと長く楽しみたかったなあ。
でも、最後の大活劇がここまでド派手な事になるとは、結構コレ、やりたい放題ですよね。新聞記者のH・G・ウェルズなる人物が意気揚々と登場したときはまさかと思いましたけれど、トライポッドまで出てきた日には、もう「宇宙戦争」どんとこい、である。さすがに火星人までは登場しませんでしたけれど、吸血鬼たちがトライポッド軍団を使うという発想は、収穫云々に絡めても思わずなるほどなあ、と感心してしまいました。トライポッドから触手が伸びて人間を捕獲していくシーンは、映画「宇宙戦争」の図が容易に思い浮かびましたよ。
そんな闇の者、ドラキュラ軍団のロンドン強襲に立ち向かうのは、映画に小説といったフィクションに、歴史上の人物たちを加えたこの時代における人類総連合。ネオ・ヘルファイアクラブの面々も加勢しての大立ち回りは、エンターテインメントの粋とも言えるんじゃないでしょうか。
しかし、ネオ・ヘルファイアクラブって、純粋悪の組織というわけでもなかったんだ。リーダーであるドリアンの見解を聞いている分には、むしろ帝国主義華やかなる時代において国家利益優先ではない世界平和の秩序を必要悪を以て築こうとする組織なんですよね。ドリアンの理想主義なところは、人材マニアっぽいところも含めてなかなか魅力的で、マイクロフトとは全く別の方向のカリスマであり、敵としても味方としてもまだまだ見続けたい人でした。

頑なにジェレミーが自分のテリトリーへ踏み込むのを拒絶していたジルも、思わぬ事からジェレミーに凶刃を振るってしまった事から、復讐と憎悪に凝り固まった信念にヒビが入り、その隙間から歳相応の少女の素顔が、救いを求めるか弱い少女の心が浮かび上がってくる事になります。
一方で、イグレインもまた数少ない気の置けない同性の親友を見舞った運命に打ちのめされることになるのですが、此方は良い意味でも悪い意味でも根性が据わっているというか、弱音を吐かない性格というか、他人に寄りかかるのではなく、首根っこ掴んで引きずり回さずには居られない性格なので、悲しんでも悔やんでもその場で動けなくなることはないんですよね。兎に角突き進む。感情のまま突っ走る。それくらいでないと、ジェレミーの相棒としてはやっていけないのかもしれません。ジェレミーもジェレミーで似た者同士で、常に悠々と余裕たっぷりに突き進むタイプですから、立ち止まっていると置いてかれちゃうんですよね。もっとも、ジェレミーは動けなくなってしまった子はきちんと迎えに行く人でもありますけれど。アリスやジルに対しては、常にそうした庇護者としての立ち振舞いでしたからね。あの過保護っぷりは、イグレインがちょっと拗ねるのもわからなくはない。でも、コンビであり、相棒であり、恋という名のゲームのプレイヤーは、対等以上に対等なイグレインでないといけないんだろうなあ、というジェレミーの気持ちは、あの皮肉交じりで遠慮なしの信頼と擽ったさが混じったような態度からも透けて見えるようでした。もうちょっと「きゃっきゃうふふ」してニヤニヤさせてくれても良かったんですけどねえw

きっと最後まで顔を見せてくれないんだろうなあ、と思っていたシャーロックとワトソンの二人もきっちり登場してくれてしまった時点で、残念ですけれど諦めもつきました。残念ですけどね。もっともっと遊びたかったですけれどね。でも、最後の最後まで見所盛りだくさんで楽しませていただけましたし、満足満足。
面白かったです。

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