小夜音はあくまで小悪魔です!?1 (講談社ラノベ文庫)

【小夜音はあくまで小悪魔です!? 1】 東出祐一郎/吉田音 講談社ラノベ文庫

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引きこもりにして最強自宅警備員の一崎嶽人の前に現れた悪魔、メフィストフェレス小夜音。彼女は歴史上の偉大な聖人レベルくらいの価値がある嶽人の魂を売買するために地上にやってきた。…が。“今の”嶽人の魂の価格は、なんと13円。なんでですか!?自宅警備員も、立派なお仕事ですっ!!?初仕事がこれでは有名悪魔の孫娘の名が廃ると、小夜音と嶽人は魂の価格上昇をめざし共同作戦を開始!!おかしな同居生活を始めた二人のもとに小夜音の姉やら謎ありげな天使までが絡んできて…!?キュートな小悪魔&ニートなヒッキー。摩訶不思議な日常開始。

小夜音ってこの子、営業向きではありませんね。初仕事の相手が嶽人だったから良かったようなものの、本来なら単なる契約者、顧客に対して入れ込みすぎ、親身になり過ぎなんですよ。もっとビジネスライクに私情を挟まず、しかし誠実に顧客と自分の両方が利益を得られるように立ちまわる、というのがきっと正しいビジネスマン、もとい悪魔のスタンスであるべきなのでしょう。でも、小夜音は違いました。或いは、最初の仕事の相手が嶽人だったからなのかもしれません。でも、嶽人に善行を積ませて下落しきった魂の価値を高値に戻そうとする小夜音の行動には、悪魔として営業職として利益を確保するためというビジネスとしてのスタンスよりも、これまで人生を薄っすらと無価値に生きてきた嶽人がもっと充実した人生を歩めるように、幸福に成れるようにという自分のことよりも嶽人の為を思った気持ちが込められていたのです。仕事のことを忘れているわけじゃなく、むしろ職務は誠実に的確にキチンと果たしているのですが、やっぱりそのスタンスは営業としては相手に入れ込みすぎなんですよね。なので、あくまで自分と彼の関係が顧客とのそれに過ぎないものなのだと、自社から担当業務の撤退を言い渡された時に直面した時、それを思い知らされ、途方に暮れる事になってしまった。
でも、そんな小夜音だからこそ、嶽人は自分の持っていたものを全部投げ出しても後悔しなかったのでしょう。考えてみれば、小夜音はまったくもってメフィストフェレスそのものじゃないですか。その魅惑を以って相手を魅了し尽くし、その魂から何から全てを捧げさせてしまったのですから。あるいは、最後に天使に顧客かっ攫われたお祖母様の本家メフィストフェレスよりも、良い仕事をしたといってもいいかもしれません。まあ、本人たちからすれば、もう途中から仕事抜きでしたけれどね。
うん、いい子なんですよ、小夜音。本当にとても善良で真面目でパワフルで純粋で、素敵な小悪魔。その相手である嶽人もまた、心に曇りのない純真で素直でまっすぐな少年で、そんな二人が出会ったことはまるで奇跡のような運命だったのかもしれません。仕事の為よりも相手のことを思って善行を積むように指導する小夜音に、嶽人は強制されたからでも流されたからという訳でもなく、自分の明確な意思によって動き出します。これまで漠然と何もせず何も感じず生きてきた虚無的な人生に差し込んだ光。差し伸べられた手を握り歩き出す事によって初めて知ることになる、生きることの喜びや幸せの実感。そうやって急速に無色透明だった人生が色彩を帯びはじめたとき、嶽人はとても大切な物を、掛け替えのないものを自分が手に入れていた事を知ったのでした。
好意が通じて好意によって循環する相手を想い合う関係。一方的に引っ張り合うのではなく、二人一緒に手を繋いで、一緒に頑張ることが当たり前の関係。それが小夜音と嶽人の関係で、もう見ているだけで心温まる、微笑が浮かんでくる、とても素敵でハートフルな物語でした。まったくもって、最高でした。
しかしまあ、かの東出祐一郎から血生臭さを除去すると、ここまでポップでラブな物語が転び出てくるのですか。驚嘆ですね♪

東出祐一郎作品感想