好敵手オンリーワン1 (講談社ラノベ文庫)

【好敵手オンリーワン 1】 至道流星/武藤此史 講談社ラノベ文庫

Amazon

桜月神社の一人娘、桜月弥生。天都教会の一人娘、天都水貴。近隣でも有名な美少女二人と孝一郎は幼なじみである。家族のように仲良く過ごしていた三人だが、孝一郎の不用意な一言をきっかけに、二人はことあるごとに対抗するようになる。テストの点数、体育の授業、ラブレターの数まで、ありとあらゆることで勝負を繰り広げる。そんな不毛な争いに審判役としてつねに巻き込まれる孝一郎だが、二人を止めるためのとっさの一言から、さらにやっかいなことに。それは「どちらの家がより資金を増やせるかを勝負する」というもの。賞品は―「孝一郎を一生奴隷にする権利」!!それなのに二人の事業をそれぞれ手伝わされる孝一郎の運命は。
なんで神社と教会が一軒隣で並んでるんだよ!! と物凄すぎる立地にツッコミを入れてたら、ちゃんとそうなった歴史的背景が描かれていて、なんだか納得させられてしまった。なるほど、それなら仲がいいのもわかるなあ。しかし、それだとむしろ、神社と教会の間にわざわざ家を建てて住みだした主人公の家の奇橋さが際立ってくる。わざわざなんだってそんな神社と教会の間なんて場所を選んだんだ!?
という訳で、仲の良さが高じすぎたお陰で何かと張りあい競り合うようになってしまった幼馴染みが、競争の果てに高校生らしからぬ商売でいかに資金を稼ぐか、という勝負をはじめてしまうという、まあ至道さんならではの資本主義展開である。だから、何故そこで金を稼ぐ勝負になるんだ、と(笑
そもそも、二人の実家が商家で、二人が何らかの子会社か取引を担当しているならともかく、宗教団体ですよ、宗教団体w それも、宗教法人という枠組みを利用してそれぞれの宗教にまつわるお金の集め方を実践してくれるのかと思ったら、はじめたのが飲食業という俗っぽさ。いやいや待て待てw もっと宗教らしい事しましょうよ。宗教法人の非課税枠の濫用じゃないか。あれ? これは課税がかかるって話だったっけ?
ともかく、この作者の作品を読んでいると簡単に商売が上手くいくように見えるので、色々と困る。まあ、案外とやってみれば本当に稼げてしまうケースも多いのかもしれないが、少なくとも簡単ではないだろう。煩雑な事務処理や関係各所との調整など、経理や総務などちゃんとやってくれる人が居てくれないと、幾ら方向性を見事に示せても、ちゃんと転がらないもんね。何よりも、普通の人は失敗した時のリスクというものをどうしても考えてしまう。最初の資金投入に、リスクへの覚悟を持たなければならない。その意味では、弥生と水貴は失敗への覚悟も何もなく、実に気軽に本来なら普通の人が一世一代の決意を持ってはじめるであろうことを、遊び半分とすら思える浮ついた姿勢で初めてしまっているんですよね。それが若干気に入らない、と思うのと同時に、起業なんてものはそのくらい気軽にはじめられる世の中になった方がいいんだろうなあ、という思いも浮かんでくるのでした。
結局、弥生も水貴も失敗を考えないがゆえに慎重さを欠き、調子に乗った挙句に大失敗をやらかしてしまうのですが。それでも、一度の大失敗で「人生オワタ」にはならないんだから、羨ましい話である。その上、その失敗や迂闊さによって、自分の人生において何が一番大切か、という点に気づけたのだから、躓いて転んだところに金貨が落ちていたようなものである。
ってか、この二人、てっきり最初から金貨を取り合っているつもりなのだと思っていたら、全然自分たちが争奪戦してるものが金貨だと気づいていなかったんだ。そもそも、見ている限りでは取り合うというよりも、あくまで勝敗の結果がメインであって、商品である孝一郎の一生奴隷権はオマケ扱いなんですよね。その奴隷権というのも、既に共有物だったものの優先権をどっちが得るか、であって当初はふたりとも本気で独占するつもりはなかったっぽい。だからこそ、孝一郎もあんまり文句も言わずに抵抗もせず二人の手伝いをしてたんでしょう。そもそも、こいつ自分が二人の所有物扱いという自覚があるものだから、いまさら奴隷権とか言われても今までと変わらないと無意識に認識していたようで、その認識もあながち間違ってなかったもんなあ。
ところが、その過程で弥生と水貴は自分にとって孝一郎がどういう存在なのか正確に自覚してしまった。そうなると、もし自分が負けてしまうと孝一郎が相手にとられてしまう。自分の手の届かないところに行ってしまうという恐怖に駆られてしまう事になり、必死になっていくんですね。これが、孝一郎の困惑を誘うことになる。その辺の齟齬は、二人がお互いの気持ちを確認しあうことで何とか解消される事になったのですが……ええっとこれってつまりどうなったんだ? 孝一郎の共有性はどちらが勝っても失われず、若干の優先権という特典がつくものの今までと変わらない、という風に以前に戻ったように見せかけて、何しろ弥生たちは孝一郎に本気になってしまったわけで……やれやれ、ごちそうさまです、ってことかw
これで孝一郎が二人のことを意識していなかった不毛な話なんだけれど、こいつはこいつでちゃんと幼馴染み二人を異性として意識しているんですよね。というか、他の女性はまるで眼中に無く、二人が大事、という意識なわけですから、収まるところに収まるか。はいはい、ご馳走様でしたw

至道流星作品感想