はたらく魔王さま!〈4〉 (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 4】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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魔王さま、失業のうえ魔王城を失う!? 庶民派ファンタジー第4弾登場!

 バイト先のマグロナルドの休業により、職を失った魔王。さらに住居であるアパートも、壁の修理のため一時退去させられてしまう。
 職と魔王城を同時に失い失意の魔王は、大家・志波の勧めで、“海の家”ではたらくことに。しかも、魔王に想いを寄せる女子高生・千穂や、魔王の命を狙う勇者・エミリアまでもが魔王を追って海の家に現れて!?
 夏で海でも仕事です!な、庶民派ファンタジー第4弾!
おお!? これ、ボーダーラインを突き抜けたんじゃないですか!? この三巻まででも充分以上の良作だったんですが、同時にそろそろ現在位置から次に行かないとパターン化して小さく纏まってしまいかねない時期に来ていたとも言えました。異世界の魔王が現代日本に流れつき、何気にバイタリティあふれる生活力で日々労働に勤しみながら再び世界征服の機会を伺う、という状況。魔王たちや勇者のあまりに生活感あふれる日常は、そのちょっとリアルすぎて笑えてくるくらいの鮮やかさもあって、全然飽きがくるものでもないのですが、その生活のリアルさの中に魔王や勇者が居ることに馴染みが進んでしまって、そろそろ「魔王が」「勇者が」というギャップゆえの愉快さが薄れてくる頃でもあったんですね。それに、真奥が「魔王」である、恵美が勇者エミリアである事の意味が徐々になくなりつつありました。これは、この巻の冒頭でエミリアの仲間だった神官が思い描いた、日本で魔王や勇者である事を忘れて元の世界に戻ること無く平和の中に埋没していく真奥とエミリアの未来図が進行し現実化つつあった、という事でもあるんですね。これには、真奥が実際どういう展望を持っているのか見えていない事も大きく作用していたように思います。なにしろ、世界を再び征服するといいながら、やっていることは正社員になるために真面目に働いているだけで、本気で元の世界に戻って魔王として復活する気があるのかと、読者もエミリアも、配下であるルシフェルですら真奥の真意に首を傾げ、本気を疑う状況でしたからね。
ある意味、ここは物語の進む方向のみならず、作品の方向性をも左右するターニングポイントだったのかもしれません。このまま、ちょっとした非日常のドタバタした大騒ぎを混じえながらも、魔王や勇者という身の上を単なる過去の衣装にして、平穏でにぎやかな日常を過ごしていく、細かくリアリティあふれた生活描写を売りにしたアットホームコメディに、という道もあったはず。そして、その路線でもこの作者の腕前ならば素晴らしい良作として成り立っていったでしょう。
でも、この4巻において、どうやらこの【はたらく魔王さま!】は現状を構成する枠組みをついに突き抜け、新しいステージへと立つ事を選んだようです。いえ、選んだというのは言葉のアヤで、既に前巻でアラス・ラムスと彼女にまつわる設定群を物語の進行に取り込んだ時点で、この展開は用意していたのでしょうけれど。でも、前巻の段階だとどちらかというと擬似家族設定の構築にこそ主眼が置いてある感じだったので、ここまで重要なファクターとして機能するとは、ちょっと驚きでした。
何れにしても、これまで曖昧に濁されていた、真奥貞夫の魔王としてのスタンスや将来的な目標が魔界の腹心の登場に連なって明らかになり、さらに彼の目指す世界征服の形が明確に示された事によって今後、彼が庶民としてこのまま安定した平穏に埋没するのではなく、再び元の世界に魔王として戻る意思があること。そして、彼の征服の真意を知った恵美もまた、勇者エミリアとしてこれまでの敵対と征服の阻止とは違うスタンスで関わっていく必要性が生じたわけです。ここに、何らかの世界のバランスの崩壊が起こりつつあり、そこに天界の関与と魔界の一部の動向に人間の国家間紛争が絡んで、エンテ・イスラの乱世突入という事態が勃発し、物語はご町内ほのぼのコメディという枠組みから一気にボーダーを突き抜けて、一つスケールが上の枠組みを必要とする物語へと移行したわけです。
こうなると、逆に売りでもあった日常パートとのバランスが気になってくるところですけれど、このあたりは作者の腕の信頼しどころでしょう。実際は殆どそれについては心配してませんし。枠組みが大きくなったところで、細部を曖昧にするような真似をする筆致の作者ではないでしょうから、実に絶妙にバランス整えてくれるに違いありません。
それに、所謂日常パートの要でもある千穂が今回、一般人であり、しかし魔王や勇者の事情を知る立場にある人物として、物凄いとしか言いようの無い立派な見識を見せてくれましたからね。なんか、彼女が居る限り物語がどう転がって、パートの比重がどう傾いても【はたらく魔王さま!】という作品として、ブレることはないように思います。いやもう、千穂についてはちょっと侮ってたかもしれません。芦屋さんが、ほとほと感心して是非新生魔王軍大元帥として招きたい、と本気で言ってたのもちょっと納得。

とまあ、大きなターニングポイントを迎えた本作ですけれど、何気にこれまでで一番タイトルの【はたらく魔王さま!】らしい話でもあったんですよね。これまではどちらかというと働くのはあくまで生活の一環であって全体としてみると【生活する魔王さま!】だったんですよねw それが、今回は寂れた海の家で働くことになり、もうとことん働く働く働く(笑
細部に神は宿る、とはまったくよく言ったものだと、この作品を読むたびに思います。恒例の細かいまでのリアリティは、一般生活の分野のみならずこうした商売編にも遺憾なく発揮されていて、開店準備から営業中のトラブルまで実際に取材か経営に携わった経験があるんじゃないかと思ってしまうくらい細かいところまで行き届いた描写が続いて、思わずのめり込む勢いで読み耽ってしまいました。こういうシーンもまたべらぼうに面白いんだよなあ。

ちょっと面白かったのが、仮でありながらもアラス・ラムスを介して真奥とパパとママの関係になってしまった恵美が、何だかんだと真奥への対応が以前よりも柔らかくなってるところでした。真奥が邪悪な存在ではない事はこれまでの事件を介して頭で理解してたはずなんですが、それが一緒の時間を過ごす機会が増えたことで良い意味で打ち解けてきたという事なんでしょうか。以前は本気で毛嫌いして敵対してたのが、この巻では口では散々文句を言いながらも、彼が困ったときには自分から手を差し伸べて助けてあげるという積極性まで出てきたわけで……。勿論まだ異性として意識しだした、なんて段階どころじゃなく敵同士だという建前は崩していませんけれど、少なくとも仲間意識みたいな親近感は持ちだしたのかなあ、と。思ってたら、ラストの展開と真奥の宣言はまたこれ、ちょっと意識変わるんじゃね!? なんか此処に来て、ついにヒロイン化してきたのか、恵美さん!?
恋愛事情というと、何気に芦屋さんがこっそりあの人と本格的にいい関係になりつつあるような描写が。芦屋はそんな意識ないのかもしれませんけれど、傍から見てるとごっつい雰囲気出てるんだよなあ。

そして、一番驚かされたのが、こちらの世界の裏の顔、でしょう。大家さんっててっきり見鬼の力がある程度で妙な人脈があるくらいの人、大黒さんもそっち系だと分かったあとも退魔士の類だと思ってたんですが、凄いわ、大きく違った。なるほど、それで海の家なのか。というか、大黒さんの発言から推察するに、異世界エンテ・イスラよりも此方の世界の方が神々のシステム管理が安定してるっぽいんだよなあ。普通のパターンだと、異世界と違って地球は神無き魔法無き物理法則の無謬たる世界というケースが多いだけに、これは意外だった。

とまあ、本作も四巻まで来ましたけれど、中だるみするどころか、さらなる飛躍を試みる展開と相成り、これはもうさらに面白くなって来ました、としか言いようがなく、うっはうはです、ただでさえ面白かったものが、さらに面白くなってきた!!

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