あなたの街の都市伝鬼! (電撃文庫)

【あなたの街の都市伝鬼!】 聴猫芝居/うらび 電撃文庫

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襲い来る都市伝説は、とっても可愛い女の子たち──
でも、やっぱり怖いっ!?


 民俗学者を目指して都市伝説を調べている八坂出雲。「ムラサキカガミ」の研究をしながら誕生日を迎えた彼のもとに、伝説と同じ現象が発生! そして出現したのは『都市伝鬼(としでんき)』ムラサキカガミを名乗る少女だった。
 ムラサキカガミ……それは二十歳になった日に、その言葉を覚えている人間を襲うという都市伝説。でも、出雲は──
「俺は、まだ────十六歳だあぁっ!」
 都市伝説を愛する出雲は、都市伝鬼を一冊の本としてまとめる編纂作業を始めることに。しかしそれを聞きつけ、出雲の前には様々な都市伝鬼が現れはじめた! 愛らしくも血みどろの和装童女から凶暴な武器を構えたお姉さん、超高速で追いかける美少女に果ては生首まで……彼女たちの起こす怪奇現象に襲われて、恐がりな出雲はいったいどうなる!?
 第18回電撃小説大賞〈金賞〉受賞作。少し怖くて、とっても可愛い都市伝鬼たちが山盛りで贈る、ほんわか怪奇譚!
この作品の帯コメントを手がけているのは【ほうかご百物語】の峰守ひろかずさんなのですが、誰かにコメント書いてもらうならこの人しか居ないだろうなあ、というチョイスでした。つまり、まさに【ほうかご百物語】の系統なんですね。最近だとちょうどMF文庫Jからフォークロアの女の子たちとキャッキャウフフする【101番目の百物語】がありますけれど、あれが一応バトルものという括りにあるのに対して、此方は主人公が都市伝説を編纂する研究者という立場にあり、主だった目的はあくまで都市伝鬼と呼ばれるフォークロアたちを知見していくことにあります。
未だ伝承として歴史が浅く確固とした在り方を確立できていない都市伝説は、存在としても情報としても非常に薄弱で曖昧なものに過ぎません。そんな折、八坂出雲という少年が都市伝説の編纂者として、世に都市伝説について書かれた本を出すことになり、それを知った都市伝説の化生たち、都市伝鬼と呼ばれるフォークロアの擬人化体たちが大挙として自分を売り込みに押し寄せてくる事になったのでした。
ここで出雲に自分の事を書いてもらうということは、自分の都市伝説が世間に周知され、容易に消滅しない、人から忘れ去られない強力な存在となる事が出来るということなので、みんなそれなりに必死です。とにかく、自分が恐ろしくてインパクトのある都市伝説だということを知って貰うために、出雲に折を見てはアピールしてくるのです。ついでに恐ろしさのみならず、自分の可愛らしさもアピールしてしまう伝鬼も何人か散見されましたが、その辺は乙女心ということで許してあげてください。何しろ、何何の都市伝説はカワイイ、と記述されるとそれが確定情報になるのですから、女性としては必死です。
しかし、なんで都市伝鬼たちがこれだけ自分のことを書いて貰おうと懸命になるのか、不思議に思うかもしれませんが、こうした編纂者の記述する情報というのはとてつもなく大きな影響を与えるものであることを理解すれば、彼女らが必死になる理由も自ずと理解できるでしょう。
例えば、古くは妖怪画を数多く残した鳥山石燕、現代の妖怪観を築いたと言ってもイイ水木しげる。「遠野物語」などの研究により日本の民俗学を開拓した柳田國男。こうした編纂者たちの事績がどれだけ時間の流れに埋没し消え去るだけだった民間伝承を永代失われることのない記録と記憶に刻みこまれ、場合によってはゼロからでっち上げた虚が実になり、彼らの書き残したものがスタンダードとして罷り通るようになったかを思えば、都市伝鬼たちが、最新の編纂者として正式に擁立された出雲の元にこぞって現れるのもわかろうというもの。
勿論、研究者にして編纂者たる出雲としても、向こうから本物の都市伝鬼たちが現れてくれるのだから願ったり叶ったり。狂喜乱舞のうっはうは、かと思いきや、嬉しいのはそれこそ飛び上がるほどうれしく充実した日々ではあるのですが、何しろこの出雲くん。都市伝説大好きなのに、怖いものはとことん苦手という怖がりなのでした。お陰で、都市伝鬼たちが脅かしに現れるたびに、悲鳴を上げて恐懼することに。それこそ、脅かしたら必ず派手なリアクションを伴って驚いてくれるのだから、驚かす方もやり甲斐があるというものである。そのくせ、驚き終わったら後腐れなく、すこぶる友好的に接してくるのだから、会心のしてやったりでご満悦なフォークロアたちがそのまま彼に懐いてしまうのも無理からぬ話である。
実際、出雲くんって性根もサッパリして気持ちのよい少年で、いろいろ面倒かけられてもワギャーとその場で発散して、あとに引きずらないんですよね。言うべきことはキチンと貯めこまずに言ってくれますし、付き合ってて気兼ねしなくていいですし、なかなか好感度の高い主人公です。そんな彼の本命は、最初に勘違いで現れた「ムラサキカガミ」のサキさん。なかなか魅力的な女性人格の都市伝鬼たちが続々と現れてくるにも関わらず、この主人公はわりと一途に一人の女の子を目で追うことになるんですね。むしろ、出雲の気持ちに気づいてくれないサキとのやり取りを、他の都市伝鬼たちが生暖かく見守るという同じラブコメでも役割が反転した状態になってるところがなかなか面白い。そんなニブチンで全然出雲のことを男としてみてくれないサキさんも、とある人物との対立から、出雲にヤキモチを炸裂させてくれる展開へと流れていき、終盤はかなりニヤニヤさせてくれるラブコメに。

賑やかなキャラクターたちが軽快なテンポで織り成してくれるコメディと、主人公の実に反応の良いリアクション芸が楽しい良質のドタバタコメディでした。次巻が出たら勿論買うつもりですけれど、今度はどう話を広げていくんだろう。出雲の編纂者としての立場の収奪戦は一応の決着を見てしまったし、バトルな展開はちょっと筋違いになりますしねえ。このままどんどん妖怪や都市伝鬼が集まってくる、ってだけでは方向性が見えないですし。
ただ賑やかなだけのドタバタ劇を、一つの単なる日常の楽しいお話として盛り上げていく、という展開は何気に難易度高いんですよね。それを見事に昇華して傑作せしめたのが【ほうかご百物語】なんですが、その方向を目指すんだろうか。いずれにしても、楽しませてもらえるよう期待します。

ちなみに、一番好きなヒロインは、安定のムラサキカガミのサキさんで。家事万能でちゃんと家で待っていてくれて、無防備で距離感がやたらと近いところが、実に嫁っぽくてグッドです。人気はコトリバコの方が出るんだろうなあ。でも、コトリちゃん、けっこうガチで怖いんですがw