ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー (電撃文庫)

【ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー】 三河ごーすと/切符 電撃文庫

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マネーの支配をぶち破れ!! 期待のファンタジックアクション!

「奪うことだけが正義なんだよ」「なぜ奪われる哀しさがわからないの」
 地下貧民街に生まれ幼い頃から暴力と略奪の中で孤独に生き、地上で安穏と暮らす人間を憎んできた十七歳のジェイファ。地下を脱出した彼は中流平民街に上がると同時に一軒の豪邸に盗みに入る。しかし冬瀬陽月《ふゆせはるつき》という少女に遭遇、捕縛されてしまう。豪邸の持ち主である冬瀬一郎は、ジェイファを許す代わりにある条件を突きつける。それは陽月と組み『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー』という、魔術師と戦士の二人一組で相手ペアと戦う競技のプロになることだった!?
これ、映像にしたら随分と映えるタイプの作品ですね。『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー』、通称『WWWM』と呼ばれる支援効果を持つカードを駆使して戦うゲームのバトルシーンを読んでいると、自然と想像を掻き立てられて盛り上がってしまいました。特段シーン描写に優れているというわけじゃないんですけれど、逆にそれがイメージを湧き立たせる要因にもなっている。大枠となるゲームシステムの構築がしっかりしているからこそ、読者たる此方側が逆に自由に場面場面の情景を思い浮かべて手に汗握る事が出来るようになっている。
こうした基本軸となる骨子の部分の堅実さは、物語の構成そのものにも及んでいて、なかなか唸らされました。新人作品とは思えないくらい物語の主題の取り扱いが終始一貫してブレがないのです。ストーリーラインから、主人公とヒロインの基本的な行動理念や思想から考え方の変化に至るまで、常にテーマに基づいている。これはメインとなるキャラクターのみならず、敵キャラやサブキャラクターの在り方や顛末に関しても変わりません。
これは、よっぽどプロットをしっかりと組み上げたんだろうなあ。と感心した上でさらに頷かされたのは、これだけ堅実な基本構造に基づいていながら、完璧さを追求しすぎず、ある種の発展性の余地を残した「余裕」を残していたところなんですね。細部に至るまでガチガチに作者が全部「決めて」しまって物語や登場人物を動かすのではなく、一本大きな芯となるテーマを置き、枠組みとなる舞台設定を整え、おおまかな物語の流れを組んだ上で、あとは結構自由にさせているんです。
まあでも、自由にさせると言ってもまだキャラクターの心情への働きかけ方にまだまだ手が足りない部分が見受けられるのも確かで、主人公の皿次にしても、ヒロインの陽月にしても、初期の頑なさからすると打ち解けるのにいささか「物分りが良すぎる」ところがあったんですけどね。このあたりは、脚本の都合に引っ張られた部分だよなあ。とは言え、この辺りはキャラクターが生きてくれば自然と解消されてくる部分でもある。干渉しすぎてお人形さんにしてしまうことさえなければ、これだけ基礎となる骨子をしっかりと作れる作者である。それこそ、物語の面白さは先に進めば進むほどうなぎ登りにステップアップしていくんじゃないでしょうか。
将来の発展性という点に関しては、一連の粒ぞろいの新人賞作品の中でも一番可能性を有した作品かもしれませんね。ある一定の高さまで達した時に、果たして基礎部分の堅さが次のステップの踏み台になるか、破けない殻になるかがちと気になるところだけれど、ってまだ受賞したばかりの時点でそこまで気をやっても仕方ないか。それだけ、先が楽しみな作品であり、作家さんだということなんですけどね。

個人的に気に入ったキャラクターは、主人公でもヒロインでもなく、この二人のスポンサーとなる冬瀬一郎だったりする。単なる野心家の俗物で、人を人とも思わず搾取するだけの強欲者なのかと思ってたら、どうも底知れないというか、金への妄執とはまったく違う好事家っぽいところがあって、興味を唆られる人だった。本当にただの俗物だったら、初期値が無能すぎた皿次や、再起不能になった陽月の元パートナーへの対応ってもっと違ったものがあったと思うんですよね。勿論、優しいとか甘いとか、イイ人だとは口が裂けても言えない人物ではありますけれど、良い意味で悪い人で、実に面白い。