エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫)

【エスケヱプ・スピヰド】 九岡望/吟 電撃文庫

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少年よ、覚醒せよ!
閉じられた町を舞台に、
最強の兵器《鬼虫》たちが繰り広げるノンストップ・アクション!


 昭和一○一年夏。極東の島国《八洲(やしま)》は、二十年前の戦争で壊滅状態にあった。廃墟の町《尽天(じんてん)》では、シェルターの冷凍睡眠から目覚めた人々が、暴走した戦闘機械の脅威にさらされながら生きていた。
 尽天で目覚めた少女・叶葉(かなは)はある日、戦闘機械から逃れる最中、棺で眠る奇妙な少年と、一匹の巨大な《蜂》に出会う。命令が無いと動くことができないという少年に、叶葉は自分を助けるよう頼む。それは、少女と少年が“主従関係の契約”を結んだ瞬間だった──。
 少年の名は、金翅(きんし)の九曜(くよう)。《蜂》と少年は、《鬼虫(きちゅう)》と呼ばれる、八洲軍が技術を結集して製造した超高性能戦略兵器であった。叶葉を暫定司令官と認め、共に戦い、彼女を守ることを誓う九曜。しかし、兵器であるがゆえに、彼には人の感情が存在しなかった。叶葉はそんな九曜を一人の人間として扱い、交流していく。
 徐々に心を持ち始める九曜だったが、平穏な日々は、九曜と同じ鬼虫である《蜻蛉》四天(してん)の竜胆(りんどう)の飛来によって打ち砕かれ──!?
 閉じられた町を舞台に、兵器の少年と人間の少女の出会いを描くノンストップ・アクション! 
ああ、これはなるほど。うんうん、あはははは。こりゃ、文句なしですわ。
文句なしの大賞作品。正直、コレ意外は大賞考えられない。
今回の電撃大賞作品はどれもこれも良作揃いで、一切はずれなしという近年でも随一の豊作だったと思うんですよ。そんな感想を持つ中で、最後に大賞受賞作品であるこの本を手にとったのですが、これらの良作を差し置いて大賞を受賞したんだから、生半可じゃ納得せんよ? とある意味舌なめずりしながらページを開いたんですね。
参りました。これ、現時点で電撃文庫の第一線級に投入しても、何ら遜色ないわ。
これまでの電撃文庫の大賞作品って、良い意味でも悪い意味でも卒の無いまとまった作品が多かったんですよね。のちに見事にブレイクスルーした【ほうかご百物語】や【幕末魔法士】という作品もありましたけれどね、でも一作目の時点では瑕疵がないことを優先したような作品が多かった。
その点、本作は良い意味で実に好き勝手やっている。自分の書きたいことを自由に書き連ねた上で、スケール観たっぷりのスピーディーで尖った、素晴らしいエンターテインメント作品として成立している。
なによりも、とびっきり面白かった!!
好き勝手書いていると言いつつも、決して無軌道な構成だったりするわけじゃないんですよね。兵器である自分を人として扱う叶葉との交流を通じて、存在理由を自問することになる主人公の葛藤は、敵として立ち塞がるかつての師であり戦友であり兄であった男の願いや、かつての戦争で主人を失い自らも存在理由を問い続けている叶葉の不安、生き残りの人々が失わない希望の在り処、そして廃墟を徘徊して戦い続ける狂った機械兵士たちの成れの果ての有様などが見事な螺旋を描いて物語を成し、一つの結論と決着へと収斂していく。単純にお話の完成度だけ見ても、充分以上に卓抜してるんですよね。これだけ自由にハッチャケているのに、何だかんだと卒無くまとまっているところなんぞ、小憎たらしくて思わずニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてしまったくらい。
ふむ、こうして振り返ってみると、作品そのものに抱いた好感は、そのまま主人公である九曜への印象と重なっている事に気付かされた。
この主人公の九曜。最初から兵器然として感情に乏しく機械そのもののキャラクターで、てっきりロボットと少女の交流がメインで、徐々に兵器に心が芽生えていく、という類のお話なのかと思ったら、大筋では間違いではないのかもしれないけれど、主人公が機械そのものというのは大違いでしたね。最初から、機械のふりをした、いや自らをただの兵器と思い込もうとした人間の少年だったわけだ。
だからこそ、彼の生真面目さは堅物さ、機械めいた立ち振舞には何故かとぼけた愛嬌があって、叶葉の影響を受けて「変化」していく前から、なんとも「可愛げ」のある子だったんですよね。
そこから更に人間味が増していくことで、彼の子供っぽさや大人げなさが垣間見えくることによって、なんかもうこの子がすっごく好きになりました。かつての彼の戦友たち。同じ鬼虫の仲間たちもまた、この子の事を可愛がってたんだろうなあ。九曜の記憶から再生された彼らの残した言葉は、あとから振り返ってみるとこの兵器たらんとして背伸びする見栄っ張りで意地っ張りの少年への愛情にあふれていた気がします。
そして、それは突然彼を裏切り、斬り捨てた蜻蛉の竜胆も同じだったのでしょう。何故、彼が九曜を斬り、しかし殺さず、その後二十年もの間兵器として狂う事もなく正気のまま戦い続けたのか。その理由に想いを巡らせると、仄かに胸に火が灯ります。
かつて先に逝った戦友たち。今、刃を交えることになった師。自分を人として扱い失った存在理由のその先を示してくれた叶葉たち。様々な想いを受け取って、二度目の再生を果たした少年の蜂の一刺し。ドライブの掛かった息もつかせぬハイスピードの戦闘シーンも相まって、ラストシーンはテンションMAXでありました。

わりと綺麗に話も決着しているので、果たして続きがあるのかはわかりませんけれど、続けようと思えば幾らでも続けられる形にもなってますし、個人的には九曜と叶葉の旅はもっともっと読んでみたいなあ。
大賞の名に相応しい、歯ごたえのありすぎるくらい手応えガッチリの傑作でした。ビバビバ!