6―ゼクス (電撃文庫)

【6―ゼクス】 来楽零/こずみっく 電撃文庫

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動き出す“始まりの六人(ディー・ゼクス)”──
「6」が意味するものとは!?


 不思議な少女・有紗と出会ってから人間が焼死する怪事件に巻き込まれてしまった山本彦馬。警察に容疑者扱いされてしまう彼を救ったのは女刑事・北林花姫──シックスデイ事件の生き残りだった。
 10年前の事件により一人の科学者に歪められた6つの人生と超能力を持った“始まりの六人(ディー・ゼクス)”。彼らの目的は復讐か、それとも……!?
おおっ、これは期待以上にガチのサイコミステリーでしたよ!! ヒロインの花姫は外見こそ事件当時の14歳のまま固定されてしまっていますが、中身はちゃんとした社会人であり、ライトノベルのヒロインとしては珍しい24歳。大人です、大人の女性です! それも実年齢だけ大人、じゃなく精神的にも成熟した、クールでデキる女刑事。しかし、同時にシックスデイ事件の被害者の一人であり、あの事件によって人としての在り方を半壊された者の一人でもあり、異常な事件を追う者でありながら半ば「あちら側」に片足を突っ込んでいる危うさを秘めた女性でもあるんですね。
所謂、【ハンニバル】シリーズにおけるクラリス・スターリングであり、【沙粧妙子 最後の事件】の沙粧妙子であり、【ケイゾク】の柴田純であり、【QUIZ】の桐子カヲルといった役どころである。カヲルはちょっと違うか。
シックスデイ事件の際に行われた投薬実験は、人に異能の力を付与するものである以上に、新人類として人とは全く異なる価値観を植えつける事を主眼としていたように思われる。あの事件で生き残った者たちは、被害者である当時に世界の見え方が人間とは全く異なる生き物となってしまい、後に生き残りの一人は四十四人もの命を奪った連続殺人事件を起こすに至る。
花姫はジックスデイ事件の犯人である東郷順四郎と彼が連れ去った自分の兄を追いながら、東郷が残した異常な事件を解決する役割を刑事として身を立てて担っているのだけれど、同時に自分も連続殺人犯【カサブランカ・ゴースト】と同じ側の化物という自覚があり、異常心理の果て先にある事件を追いながらも、逆に呑まれようとしているんじゃないかという、危うさと儚さの相まった側面を一種の魅力として漂わせているヒロインなのだ。
とにかく、作品の雰囲気は重苦しく、人から外れてしまった異常心理の持ち主たちの言動に心がゴリゴリと削られる。のみならず、この作品の怖いところは、じゃあ怖いのは異常心理の持ち主だけなのかというとそうじゃなく、むしろ普通の一般人たちがさりげない日常の一場面の中で発する心ない悪意がザクザクと傷をつけてくるんですよね。実験によって心を犯された「6−ゼクス−」たちは、人とは違ってしまったために人の心が分からないという。でも、実験を受けたわけでもない、ただ普通に暮らしている人たちだって、人の心を慮らず傷つけるような真似を平然と繰り返す。果たして、本当のボーダーはどこに存在しているんだろう。そう考えると、彦馬の友人である阿藤や、あのバスの運転手の言動に空恐ろしさを感じると同時に、そうした悪意の主が駆逐されていく展開に恐怖ではなくむしろ爽快感すら感じてしまった事実を前に思わず唸るしかなかった。
境界線が曖昧になっていく薄ら寒さ。
そんな中で、引っ込み思案で周りに流されるタイプかと思われた主人公の彦馬が、意外なほど頑固で行動的であり、花姫のみならず物語が提示する価値観の不安定さそのものを繋ぎとめるアンカーとしての役割を立派に果たしていたのには、当初の弱々しい印象も相まってなかなか驚かされた。
彼の立ち位置って、正しくこの物語の表に位置しているんですよね。同時に、鏡面のごとき逆位置も存在している事によって、何が異常で何が正常かの見極めの基点が定まり、色々なものが安定するようになっている。面白い。加えて言うなら、彦馬の立ち位置というのは彼の精神次第で簡単にブレてしまうもので、彼がブレると花姫を始めとする元々不安定な面々も簡単に危うい形で揺れ動くような形になってるんですよね。実に、物語全体を揺らすことが簡単な構造になっている。或いは、花姫の在り方次第ではアンカーの役割が入れ替わる展開も込んでいるのかもしれないなあ。何れにしても、面白い!!
シックスデイ事件を起こした東郷博士が、マッドとかじゃなく本当にサイコな危険人物で、サイコスリラーの要素もたっぷり。それでいて、なかなか意表を突く予想外の展開も待ち受けており、素晴らしく読み応えのある作品でした。
ガチンコで面白かったーー!!

来楽零作品感想