XIII番の魔符詠姫 (一迅社文庫)

【XIII番の魔符詠姫(タロットソーサレス)】 手島史詞/桐野霞 一迅社文庫

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世界が終わる刹那、謎の現象で並行世界へと転移していたキリクとその妹シエラは、常人にはあり得ない霧を操る異能の力を手にすると同時に、他人から血を吸わねば生きられない体質になってしまっていた。生きるために、夜な夜な霧を操り血液を集めるキリク。そんな彼の前に現れたのは、巷で続出する吸血鬼を追う現代の魔術師、13番目の魔符詠姫となったばかりの紅葉だった。互いを敵と知らぬまま出逢った二人だが、紅葉はキリクの正体に気づかずその人柄を気にいって自分の助手に任命してしまうのだが、キリクはいつ正体がバレるかと気が気でなく…。手島史詞が贈る伝奇ラブコメ最新作、ついに登場。

て、天然だ。超天然だーー!! メインヒロインの紅葉の素晴らしい超天然ぽややん少女っぷりに諸手を上げて大はしゃぎしてしまいました。もう折に触れて見せてくれるんですよ、素っ頓狂な面白可愛さを。その度に、ピシャッと額に手を当てて、目をバッテンにして「天然だーー!!」を思わず一声。
天然と言っても人の話を聞かない暴走タイプじゃなくて、普段は物静かで表情が乏しい「静」のタイプなんですね。それでいて思慮深さとは正反対の、うっかりやさんのおっちょこちょいで世間ずれしておらず、ナチュラルに自爆して、それが連鎖していってしまうという、無言であたふたしてたと思ったら隅のほうで頭抱えて凹んでそうな、なんか放っておけない庇護欲を掻き立てられるタイプなんですよね。これがもう、テラ可愛い。
そんなヒロインの紅葉に、助手として任命されてしまったキリクは、実は彼女の敵であるヴァンパイア。このヴァンパイアの設定がこの作品の面白い所で、ヴァンパイアとなった人たちは元から魔物だったのではなく、平行世界から移動してきた正真正銘の人間なんですよね。それも、この世界に元居た人間とすりかわる形で。
それは当人たちが企図したものではなかったにしろ、元居た人間を消し去って入れ替わったこの世界に入り込んできたというのは「侵攻」なのです。しかも、入れ替わった平行世界の人間は、この世界の人間の血液を奪って摂取しないと塵とかして消滅してしまうというオマケ付き。この奪うというのが肝心らしく、血液パックでは意味がないのだそうだ。
結果として起こるのは、正義と悪、光と闇の闘争などではなく、純粋な生存競争。ただただ生き残るための戦いであり、その最前線に立つ魔符詠姫と主人公は巡り逢い、気持ちを通じ合わせてしまったわけです。
古来より、相入れぬ敵同士という間柄でありながら紡がれてしまった恋物語ほど盛り上がるものはありません。もう設定からして美味しいのなんの。それだけではなく、元々単なる一般人であった紅葉が、魔符詠姫として覚醒し戦う意志を固めた原因こそ、キリクとの出会いであり、彼に感化されての事だったとなればなおのこと。

とまあ、状況だけ見ると随分と切羽詰まった劇的なロミオ&ジュリエットみたいな代物にも見えるけれど、ヒロインは超天然だし、主人公は小心者で慎重なわりに迂闊で、やることなす事裏目に出てしまう運の悪いタイプという、結構身も蓋もないカップルなので、実はあんまり緊張感もなかったりする。
両方共、それぞれの種族の命運を背負っている、というような責任や覚悟を持っているわけでもないですし、キリクは妹のシエラこそ命よりも大事ですけれど、今のところ絶対に人間と敵対しなきゃいけないという所まで追い込まれてはいませんからね。
ただ、キリクとシエラの二人だけの問題で済んでいるうちはいいけれど、どうやらこのまま行くと問題は個人の間で収束するものでは収まらなくなってくる可能性も高く、話が進むのなら決して楽観できる状況ではないのでしょうけれど。
これは、続きが出れば出るほど登場人物が追い詰められていって、面白くなっていくタイプの物語のようなので、この一冊で終わりなんて悲しい事を言わないで、是非に続刊出して欲しいです。まあ、売上次第なんでしょうけれど。

手島史詞作品感想