断罪のイクシード 5 −相剋の摩天楼− (GA文庫)

【断罪のイクシード 5.相剋の摩天楼】 海空りく/純珪一 GA文庫

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「……必ず取り戻す。今度こそは」
時の王権アイオーンを操る漆原に完膚無きまでの敗北を喫した大和は、去っていく静馬を止められなかった。
そんな彼に妹のましろから告げられた、自分の内に眠る魔王という存在とそれが引き起こした悲惨な過去、
そして魔術の闇などとは無縁であってほしいと願った、大切な人たちの想い。
だが、それらを知ったうえでなお、大和は決意する。静馬を取り戻すため、再び戦いに赴くことを。
魔界への門を開かんとする「小隊」と共に去った静馬。阻止しようとする護国課と傭兵イスカリオテ、さまざまな思惑が渦巻く中、
出会いの夜から始まった物語は一点へと集束していく!

こうして 大和の叱咤によって開き直り 自分の気持ちに正直になった静馬は ヤンデレになりました めでたしめでたし ……あれ?

おい、大和くんよ。あんた、とんでもない魔女を目覚めさせてしまったな。
まあそもそも、大和に平穏な生活に戻ってもらうためならば、世界を滅ぼすのも辞さない! 大和くんを危険な世界から遠ざけて平和な世界に戻ってもらうためならば、とりあえず死んでない程度に殺すくらいなら辞さない!!という冷静に考えると明らかに頭がどうかしている論理で敵側に合流した静馬さんである。大和くんラブが高じすぎて色々と頭が可哀想なことになっている静馬の愛が、直列で大和に向いたら……そりゃあ病むよなあ。
ただでさえ、三巻あたりで幼馴染が物凄い勢いでヤンデレ化しかけて肝を冷やしたというのに、最後に至ってメインヒロインまでヤンデレ化とは、恐ろしいなおい。とは言え、かつて穂波のヤンデレ化を豪腕の力技で叩き潰したキングオブチンピラの大和くんである。告白というには不穏当過ぎて犯罪に両足突っ込んでますよ、な静馬の宣戦布告にも動じないタマは実際大したものである。このぐらい精神的にも物理的にも図太くなきゃ、静馬と穂波の両方を相手に立ちまわるとか無理っぽい。普通の人なら多分一週間で心が死ぬなw 同時に社会的にも死に、肉体的にも脇腹辺りに包丁がプスプスと刺さって死にそうなので、まともな人間ならオールラウンドで死にそうです。やばいなにそれ、面白そうw


ふと我に返ってみると、昨今珍しいくらいの中二病全開のワード満載のバトルアクション。冒頭から飛び交いまくるアレなルビに、突き抜けた固有名詞。明日香姉ちゃんの秘奥義なんて、もうこれでもかと言わんばかりのアレな内容なんですよ。
でもね、これが素晴らしく面白くて楽しくて、燃えて滾って清々しい。この手の諸々に付随する、こっ恥ずかしさを感じることが一切ないのだ。痛々しさや思わず身体が痒くなるような感覚とは程遠い、痛快にして爽快な気持ちよさ。堂々と胸を張り、「どうよ?」とばかりにドヤ顔で片目をつむってサムズアップするかのような自覚を伴うノリの良さが、読者である此方の気持ちも一緒にノリの中に乗せてくれるのです。そういう意味においては、本作は決して中二病の発症例などではなく、あくまでそれを入力諸元として見事にエンターテインメントに昇華した、自意識の暴露などではないあくまで読み手を楽しませることに徹底した、極めてプロらしい娯楽作品と言えるのではないでしょうか。
それは、登場キャラクターの描き方にも描かれていて、話の展開としてはもっと暗くてドロドロして内省的な雰囲気になってもおかしくないものなのに、チンピラ大魔王の大和を始めとしたメインのキャラクターは、重たい空気を吹き飛ばすような、良い意味で突き抜けた馬鹿どもで、彼らの言動は常にジメッとなりかけた話の流れを、拳ひとつで痛快にぶん殴ってくれたのでした。お陰で、殺し殺され裏切り信じ、罪と罰に塗れ引き継がれる負債を負い信念に寄りかかって愛に潰され、となかなかにハードな展開だったにもかかわらず、最初から最後まで胸がスカッとし、痛快さに背筋を痺れさせる事に終始したのでした。
全く以て、徹頭徹尾楽しみ倒せる、痛快な娯楽作品だったのです。
やったなあ、作者さん。最高でしたよ!! 堪能した。しゃぶりつくした。味わった! 文句なしに、面白愉快なエンタメでした。ご馳走様です。

大和と静馬のすっとぼけた夫婦漫才の掛け合いに代表されるように、キャラ同士のやり取りの突き抜けた面白さは折り紙つきの海空さん。次作はドタバタラブコメみたいですけれど、常々この人のコメディは是非に読んでみたいと思っていただけに、待ち遠しいったらありゃしませんがな。絶対面白いよ、うん。

海空りく作品感想