南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

【南極点のピアピア動画】 野尻抱介/KEI ハヤカワ文庫JA

Amazon

「ニコニコ動画」と「初音ミク」と宇宙開発の清く正しい未来を描く星雲賞受賞の傑作。
日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生・蓮見省一の夢は、彗星が月面に衝突した瞬間に潰え、恋人の奈美までが彼のもとを去った。
省一はただ、奈美への愛をボーカロイドの小隅レイに歌わせ、ピアピア動画にアップロードするしかなかった。
しかし、月からの放出物が地球に双極ジェットを形成することが判明、ピアピア技術部による“宇宙男プロジェクト”が開始される……
ネットと宇宙開発の未来を描く4篇収録の連作集
ヤバい、これはヤバい。

wktkが止まらない!!

もう読んでる間じゅうにテンションが右肩上がりでラストまで行ってしまいました。うわあああ!! 
実はこの連作の表題となる【南極点のピアピア動画】って、2008年のSFマガジン掲載なんですよね。およそ四年前ですよ。この手の技術方面に基づくお話って、四年五年の近似でも時代の変転進化を感じる場面があって、技術ってのは日進月歩なんだなあ、と実感する。同時に連作の根幹をなしているピアピア動画こと現実の「ニコニコ動画」がこの四年でどれだけコンテンツとして進化したのか、それに関わる人達の没入具合を改めて眺めてみると、妙に「来る」ものがあるんですよね。これもひとつの感動か。

でもこれって、正しく野尻抱介さんの傑作【ふわふわの泉】を継承する作品だよなあ。基本的に野尻さんが作品に託しているソウルの形って一緒だと想うんだけれど、その中でも【ふわふわの泉】はダイレクトにここにつながっているように思える。
その【ふわふわの泉】における技術インパクトの方向性を導き、さらに連鎖的に起爆するための誘導線として、人類と宇宙を身近な距離に繋いでいくために必要な、人と人との繋がりを生み出す、或いは同じ方向を見るための媒体という観点で、ピアピア動画であり、ボーカロイド小隅レイが在ったのか。
この辺りの「面白いから!」という思いを原動力にして、楽しいという気持ちを炉にくべて、それをみんなで煽って煽って考えられない勢いで突っ走り出す、そうした「文化」が実際に「ニコニコ技術部」にて存在する。才能の無駄遣い、なんてタグを喜んでうって邁進するこれらに関わる人達の楽しげな様子って、傍から見ているだけで閉塞感をふっ飛ばすような愉快さがあり、素直にスゴイスゴイとはしゃいでしまう光がある。そして何より、損得抜きにして、どんどんやっちゃおう、みんなでやっちゃおう、という空気が盛り上がる瞬間が確かに存在するんですよね。そこで生まれ、集まるパワーってのは、時に通常では考えられない想像を絶するものがあるのです。それを一番身近で見聞きし、時に主導すらしていたのが尻Pことこの野尻抱介という人であり、その実感をそのまま近しい感覚のままロケットよろしく宇宙に打ち上げてしまったような作品こそ、この【南極点のピアピア動画】だったのかもしれません。

日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生の蓮見省一。だがクロムウェル・サドラー彗星が月に衝突し、計画は無期延期となってしまった。以来彼は愚痴っぽくなってしまい、しまいには同棲していた恋人の奈美にまで逃げられてしまう。彼女への愛を歌った曲をVOCALOID“小隅レイ”に歌わせた動画をピアピア動画にうpする省一。

ある日省一は親友であり、ピアピア技術部員の川瀬郁夫らのいるピアピア工場を訪れる。そこにあったのはいくつかの工作機械と小隅レイを模した“R・小隅レイ”というロボット。彼らはここでブートストラップの実験をしているという。簡単な工作機械がより複雑な工作機械を造り出し、工場自体が自身を拡張する。そして最終的には工場自体が自己増殖するという壮大な計画であった。

やがて、彗星の衝突により月から放出されたガスや塵が3ヶ月後の地球に降着円盤と双極ジェットを形成する事が判明する。このジェットを利用すれば弾道飛行のみで奈美を宇宙まで連れて行く事が出来る。ピアピア工場ならば宇宙船くらい作る事が可能かもしれない。省一が郁夫に相談すると、郁夫は既にXプライズがジェットを利用した有人宇宙飛行プロジェクトを募集している事を告げる。かくしてピアピア技術部が総力を結集して省一と奈美を宇宙に送り出すための“宇宙男プロジェクト”は開始された! (ニコニコ大百科「南極点のピアピア動画」あらすじより)


表題の、個人で宇宙まで到達するお話にはじまり、ファミマの入店チャイムネタに纏わる出会いから始まる「コンビニエンスなピアピア動画」、鯨を追いかけるために自衛隊まで動員して潜水艦を仕立てる「歌う潜水艦とピアピア動画」,そして、ついに本物のボーカロイドと出会うはめになってしまった人類がやってしまった楽しく面白くがコンセプトのファーストコンタクト「星間文明とピアピア動画」。
どれも読んでいて、ワクワクテカテカが止まらないお話でした。宇宙に飛び出していくような気宇壮大なお話なのに、むしろそこに行くまでの様々な要素は身近でふと周りを見渡せばどこにでも転がっていそうなもので、それは巨大な人類の未来を担うようなプロジェクトになっていたとしても、手の届かない遠くて関係ない違う世界のものになってしまうのではなく、小隅レイというネタを通じてまとまり、特定の天才ではない巷の無名の人たちが我先に手を伸ばし一緒に自由に楽しく、未来を形にしていく姿は、どこか傍らに寄り添った未来への飛翔なんですよね。ただ見上げるのではなく、傍らに羽ばたきを感じる未来。これほど、胸が熱くなるものはありませんよ。

野尻さんは、ホントに寡作なんだけれど、出せば絶対にこんな風にワクワクさせてくれるのだから、色々な意味でたまらんなあ。
ラストシーンは、こみ上げてくる感動に思わず目尻に熱いものが。あいやー、素晴らしき哉素晴らしき哉。

さて読み終わったことですし、土屋つかささんが紹介している関連動画を見に行くか。

「南極点のピアピア動画」読了後に見て欲しい動画を紹介します  (土屋つかさの今か無しか