ココロコネクト ユメランダム (ファミ通文庫)

【ココロコネクト ユメランダム】 庵田定夏/白身魚 ファミ通文庫

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――これで最後です、と〈ふうせんかずら〉は言った。

修学旅行を控えた9月末、太一たち二年生には進路調査票が配られていた。
部室で将来を見据えながら語るメンバーを見て、一人焦りを覚える太一。
そんな時、「――これで最後です」と〈ふうせんかずら〉が現象の終わりと始まりを告げる。
山星高校全員の願望が見える、その力を危惧した稲葉は、何もしないことを部員たちに強要。
しかし、見捨てることはできないと主張する太一と唯、反対派の稲葉と青木で意見の衝突が始まって……。
愛と青春の五角形コメディ第6巻!
前回、殆どもう無敵と言わんばかりの揺るぎなさ、絆の強さを見せた太一たちペンタゴン。たとえ<ふうせんかずら>がどんなちょっかいをかけてきても、もう一切通じる事なんて何もない、と確信させてくれる結びつきを、彼らは見せてくれたはずでした。
そう、この五稜郭は外からの圧には完璧に近い防御力を誇っていたのです。外からの、にはね。
そのかわり、五角形が五角形で居られなくなった時。五人の内側で対立が生じた時、これまで彼らが誇っていた絆の強さは、脆くも綻び崩れ去っていったのでした。
前回の話は今回のための前フリだったのかと思わせるような、今までで一番もがいてもがいて、誰も何も出来ずに窒息していくようなお話でした。今回の話って、太一たちが完全に近い絆を結んだからこそ生じてしまった崩壊であり、同時に五人だけでは絶対に解きほぐせない混迷だったんですよね。もし、千尋や紫乃が居なければ、藤島の大将の暗躍がなければ。クラスメイト達のさり気ない友誼がなければ、絶対にここで破綻してしまっていたでしょう。その意味では、今回の話はこれまでの積み重ねがあったからこその話だったんだろうなあ。
それは、太一の迷走もまた同様。彼の今回の暴走は、結局最初の頃の自己犠牲野郎から何も変わっていなかったから、これまでを省みない馬鹿をやらかしてしまったのだ、と捉えてしまうかもしれませんが、むしろ私は彼が最初の頃から変化し成長したからこそ、今回の暴走を引き起こしてしまったように思います。最初の頃の太一の他人を助けようという衝動はもっと自動的だった気がするんですよね。自然であり必然であり考えるまでもない当然の行為だった。ところが、彼のそうした特質は第二巻の事件でコテンパンに叩きのめされてしまった。そりゃもう、痛い目を見てしまうわけです。
実のところ、ここでもう太一の理由のない救人衝動というのは収まっていたと見てイイんじゃないでしょうか。以降の事件で、太一は衝動に身をまかせることはなく、常に理性と思慮を働かせて動くことになります。自分の在り方というのはどうも拙いもので、自分だけじゃなく他人にまで迷惑をかけてしまうものだ、という認識がしっかりと生まれているんですね。
それが、どうして今回に関してはこんな暴走を引き起こしてしまったのか。
これについては、いささか頭に血がのぼって過剰反応しまくってた稲葉んですが、さすがというべきかちゃんと彼女なりに答えにたどり着いています。まあ、稲葉も色々と要らん事言ってしまったきらいがあったんだろうなあ。そこまで深刻に考えずに軽口程度のつもりで言っちゃってたんだろうけれど、太一も何だかんだと無意識下で気にしてはいたのでしょう。それが、進路調査票の一件が導火線となって、化学反応を起こし、彼の中のコンプレックスを大いに刺激してしまったのではないでしょうか。
というのも、今回の太一の行動には常に焦燥がつきまとってるんですよね。本能的なものとは程遠い、頑ななまでの固執。意図的な思考の硬直性と視野狭窄、無意識の思い込みと他の可能性への排他が根強くこびりついているのです。そこには確信や正義感など何処にもなく、焦ったような必死さと不安を押し殺すような硬さ、見たいものだけを見ようとする縋るような弱々しさがあり、折に触れて自分の正しさを強調して安心を得ようとしているのです。
こうあるべき、と舵を固めてしまい、目を瞑ってその場にうずくまってしまっては、これまでのように迫り来る様々な強さ形状方向の波を乗り越えることなど出来るはずもなく、今までにない破滅的な破綻を太一は迎えてしまったのでした。
稲葉からすれば、忸怩あるものがあったはず。本来なら此処までドツボにはまってしまった太一を助けるのは自分をおいて他にないはずだったのに、結果として敵対することになり彼の目を覚ますどころか余計に追い込む形になってしまったわけですから。太一の方ばかり目立ってますけれど、意固地になって行動や思考を制限してしまっていたのは稲葉の方も同じだったんじゃないかな。今回の彼女のキレの悪さは相当に目につきましたし。
そもそも、個人的には最初に稲葉が示した方針は正しくはあってもかなり無理があったんじゃないかと思うんですよね。そりゃ、当事者が判断していたら歯止めがきかなくなるだろうことは自明の事かもしれませんけれど、だとしても何が何でも無視、なんてのは現実には出来ないですもんね。特に青木の家の件については、そのまま放置していた場合、全員が不幸になっていた可能性が非常に高かった事を鑑みるなら、大事な人を守るために行動した唯の決断は否定出来ない。何が正しいかわからないなら、顔も知らない人の運命よりも身近な人を優先することの何が悪いのか。善悪じゃないんだよなあ。結局のところ、自制できるかデキないか。唯も太一もそれがデキなかったのが最大の問題なのでしょう。
その意味では、ニュートラルであることを選んだ永瀬が一番賢明ではあったんだろうけれど、中立であるからこそ終始受け身にならざるを得ず、事態が悪化する事の歯止めにならなかった訳で……難しいなあ。
それでも、永瀬が中立で居てくれて楔として機能してたからこそ五角形が決定的に壊れてしまうことなく、
最終的には彼女の存在が太一の目を覚まさせるきっかけとなり、千尋たちが背を押してくれる形になったわけですから、目立たずとも永瀬は重要なキーパーソンだったんでしょう。
もう一人の重要なキーパーソンだったのが、青木。今回一番大変な事になっていたのが彼で、実際ムードメーカーの彼がいつもどおりでなかったために作品の雰囲気自体が落ち込んでしまって大変だったのですが、テンションこそずっとローだったものの、彼のブレのなさ。一本筋が通って揺るぎのないところは一切変わらず、今回大人しくて唯たちと対立する側に回っていた割に、その存在感には大きなものがあった気がします。というか、作品通して彼の揺るがなさってこの五角形の支柱なんだよなあ。他の四人が結構不安定な分、青木の存在にはムードメーカーどころじゃなく、拠り所みたいになってる部分がある気がする。
そんな青木に、今回唯は本当に必死で……いつも青木の方から一生懸命だっただけに、唯の側からちょっとなりふり構わないくらい一生懸命に青木の為に走りまわる姿には感慨深いものが。そして、ついにようやく、やっとこ、此方もカップル成立。おめでとう。心からおめでとう、ですよ。
稲葉と太一の関係も一度頭から水をかぶって洗い流して再編して改めて結ばれなおして、こんどこそ鉄板に。好きの形は違っても、好きである事に違いはないわけで……それを負い目に感じたり不安に思ったりする必要などこにもないんですよね。刹那の関係じゃなく、いつまでも途切れずに続いていく、そんな確かな思いの成就を、此処で見た気がします。

そしてもう一人、藤島閣下はもうあれはよくわからん(笑
恐ろしい勢いで五角形の領域に踏み入ってきたくせに、結局彼女って彼らの物語に入り込むこと無く、一人独立したまま自分だけで完結しちゃったんですよね。太一、あの場面で結構語りに語ってたはずなんだけど、ある意味あれはスルーし倒したといえる反応じゃないのか!? ちょっと唖然としてしまった。藤島閣下、なんかすげえw 凄いけどばかじゃないのか?(爆笑

ついにふうせんかずらから引き出した終結宣言。これでやっと唐突に訪れる非日常に怯える日々も終わりか、とおもいきや……ちょ、ふうせんかずらと二番目が、無茶苦茶不穏な会話してるんですけどw
短篇集を挟んで、次がホントの最終巻。心して、待つべし。

シリーズ感想