魔王のしもべがあらわれた! (電撃文庫)

【魔王のしもべがあらわれた!】 上野遊/一真 電撃文庫

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(自称)魔軍四天王 “千刃のシュバルツリヒト”(勝手に)出陣!!

 17歳の誕生日、一人暮らしの僕のもとに、死神みたいに真っ黒な少女がやってきた。彼女は自分を滅んだはずの魔王軍の四天王“千刃のシュバルツリヒト”だと名乗り、 なぜか僕を『陛下』と呼んだ。それって僕が魔王ってことか!? 
 最初は取り合わなかった僕だけど、自分の影から武器を生成する力を持ったシュバルツリヒトを追って、大財閥の腹黒お嬢様・要と、見た目小学生な政府のエージェント・桜が現れ、僕の私生活は混迷を極めていく──って、何がどうなったらこの3人の問題児が僕の家に居候することになるんだよ!? 魔王のしもべと贈る居候ラブコメ開幕!
ああ、最近はやりの魔王さまとその部下の話だなあ、と思って読んでたら、謳歌する日常生活の裏側に戦争の爪痕があったり、力ある者と一般人との間に徐々に軋轢が生まれつつあったり、と社会問題がきな臭く燻っているあたりが、上野遊さんらしいなあ、と思わず納得してしまった。
というのも、この人、デビュー作の【彼女は帰星子女】から、物語のバックグラウンドが社会派寄りに重きを為していて、そこから波及してくる社会問題が主人公たちの人間関係や行動選択に大きな影響を与えてくる、というなかなか歯ごたえのあるパターンを得物としていたんですね。
てっきり、その辺りはこの新シリーズでは取っ払って、お気楽に魔王さまコメディを展開するつもりなのかと思ってたら、案の定この世界では三十年前に異世界からの魔族の侵攻があって、多大な被害を出しながらこれを撃退した、という社会背景があり、しかもその戦争の際に人間側に目覚め、増えだしている「影響者」と呼ばれる異能力者と一般人との間に徐々に不穏な空気が全世界規模で広がりつつある、という舞台設定が出てきたわけです。
この、戦争があった時期が三十年前、というのがまた味噌なんだよなあ。戦後すぐ、という過敏な時期ではなく、しかし歴史としてしまうにはまだ近すぎる過去。戦争被害からの復興がようやく一段落つき、次の時代を見据えながらも過去の傷跡が執拗に絡みついてきて新たな問題が生まれていく、というまさに過渡期の時期なんですよね。そうした時代をわざわざ選ぶ渋さが、またこの作者らしさと言えるわけで、私としては非常に好みなんですけれど、なかなか売れに繋がらない理由の一端でもあるんだろうなあ……。
とまあ、そんな時代背景が物語に敷き詰められているわけで、お話の表向きのノリそのものは明るい巻き込まれ型ドタバタコメディなんですが、人類の敵である魔族を名乗って、主人公を魔王さま呼ばわりして大騒ぎするシュバルツリヒトの行動は何気に相当の綱渡りだったりするのです。これ、戦中とか戦後すぐ、少なくとも戦後十年十五年あたりまでの話なら、下手したら相当に血なまぐさい、バイオレンスな話になってたんじゃないだろうか(苦笑
少なくとも、シュバルツリヒトの主張を痛い子の妄想、として処理されるには、時代が過敏に反応してしまっていただろうし。
実のところ、彼女の主張が真実で、主人公が魔王であり、シュバルツリヒトが魔族である、という事実が明らかになる、という展開にならず、不明のまま濁されてしまったのも、仕方ないっちゃしかたないんですよね。だって、はっきりしちゃったら、その時点で日常崩壊ですもの。痛い子の笑い話、として置いておかないと、主人公とシュバルツリヒトは本気で人類の敵として追われるハメになってしまうわけですから。魔族という存在に対して冷静に対処するには、三十年という月日はまだ短すぎる。まだ、正体を濁したままにしておかないと、話が初っ端からゆるいラブコメから明後日の方向へとすっ飛んでいきかねない。
……でも、すっ飛んでいった方が個人的には面白そうなんですけどね。「影響者」と一般人との軋轢が世界規模の低烈度紛争へと発展していきかねない危うい社会情勢の渦中において、人類に敵対的でない魔族の出現というのは劇薬であると同時に、未だ戦後を引きずる世界にパラダイムシフトを強いる大きな要因とも成り得ると考えられるわけで。鹿島のお嬢様が影響者を集めて何を目論んでいるか、にもよるんだけれど、場合によってはこの話、「戦後」を終わらせる物語、という社会派なお話へと進路を切ることも可能性としてはあり得ると思えるんですよ。まあ、誰がそれを望むか、という問題点もあるんですけれど、作者の【エアリアル】を見てるとねえ……私としちゃあこっちでもやらかしてほしいなあ、と思っちゃうんですよね。
とは言え、普通のゆるいラブコメとしても普通に面白いですし、私は上野さんの文章好きなので、そっちの路線でも買い続けますけどね。ただ、ラブコメで行くにはお話がもったいぶりすぎてて、今回完全に序章仕立て、話がぜんぜん進んでない状態なので、早急にラブコメの骨子を固めてゆるゆるなりのパターンを築かなきゃいけないんでしょうけど。

でも私は、ラブコメしながらもハード路線、が好みなんだけどなあ(チラッ

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