双界のアトモスフィア (富士見ファンタジア文庫)

【双界のアトモスフィア】 筧ミツル/refeia 富士見ファンタジア文庫

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『科学世界』と『術式世界』、二つの世界の統合から50年。人口は統合前の3分の1まで減少、『術式世界』の異形による被害に苦しめられていた人々は、ある組織を設立。異形と対抗するために生まれた、D.S.T―それは人類の守り手。D.S.Tに所属しながら国立京学園に通う八劔姫也は、任務中、黒衣の軍勢に追われていた少女を助ける。その少女こそ、ある事件がきっかけで離ればなれになった幼なじみ―竜国ヴァルハラの皇女アイリスだった。「お願い、姫也…私を助けて…!」二つの世界が交錯する、学園アクションファンタジー。第23回ファンタジア大賞銀賞受賞作。
これだけ世界観設定に重きをなしたスタイルの作品は富士見ファンタジア文庫では珍しい。特にSFではなく現代ファンタジーで科学と魔法をハイブリッドした文明を何となくの曖昧で押し切るのではなく、それなりに味付けしてキチンと折り目をつけて立たせてるようなタイプは、どちらかというと電撃文庫やファミ通文庫の領分でしたからね。その意味では、この手のタイプの作品を敢えて富士見ファンタジア文庫から出してきた、しかも新人さんのシリーズとして、というのはなかなか興味深い。それに、明らかにこれ、長期シリーズ向けの作品だもんなあ。
と、前置きはここらへんにして本作がどういう作品なのかについて述べるに至り、鑑みた所どうやら読書メーターなんかの感想を見てても多くの人が自分と同じような印象を抱いたようでして。
これ、【境界線上のホライゾン】【終わりのクロニクル】の川上稔先生と同じ匂いがする!!
特にあの、バカっぽい勢いというか、頭のおかしい人達がわんさといるというか、モブの名も無き一兵士に至るまで全員良い意味でも悪い意味でもどんちゃん騒ぎでノリノリだぜ、みたいなあの空気がまさに川上時空。まさか、あの路線に敢えて乗っかってくる人が出てくるとは。真似しようにもなかなかハードルの高すぎるスタイルだっただけに、その意気や良し、と思わず拍手してしまいました。
勿論、川上氏は世界観の方向性やキャラクターの思想性向について、殆ど独自と言っていい価値観を有している人なので、そういう部分については余人には踏み入れない領分なんですよね。だからなのか、それともちゃんと自分なりのイメージを自分の書くものに持っているんでしょうね、キャラクターのノリや敵味方大人数みんなでお祭り騒ぎなノリはノリとして、物語や主人公とヒロインの関係性などは非常にオーソドックスで隙のない筋立てを根幹として作品を直立させている。お陰で、全体に非常にどっしりとした安定感が漂っています。土台がしっかりしている、とも言えますね。それに、基礎部分に大きく余裕を見ているようで、故にこそ長く続けば続くほど大きく存在感を増していくような将来性も感じさせる、兎にも角にも先々まで追いかけていきたいと思わせる広々とした広大さ、魅力を感じさせる作品でした。
でも、翻って言うと現時点ではまだまだ物足りないとも言えるんですよね。ぶっちゃけ、仲間連中はみんな愉快で噛めば噛むほど味が出てきそうな良いキャラばっかりなんですけれど、この一巻だけだとまだまだ掘り下げも行き届いていなくって、面白そうな連中だというのが伝わってくるのに、このもっと知りたいという欲求を満たしてくれるほどの分量を描写に割いてくれてないんですよね。ただ、みんなに活躍させるために相応に見せ場があるんですけれど、その分全体に薄くなってしまっている感がある。これで薄いのかよっ、と思うくらいに仲間たち、みんなキャラ濃いんですけどね!! その濃さがわかるだけに、それを全然堪能デキないのがモドカシイんだろうなあ。
こればっかりは、巻を重ねるか一巻一巻のページ数をびっくりするくらい厚くするしかないわけで、そりゃあ本の厚さだけはなんぼやっても真似できんもんなあw
なので、ここはじっくりと当番回をやれるくらいに巻を重ねてくれればいいんですけれど、あんまりやり過ぎると肝心の主人公とヒロインが蔑ろになってしまうので、バランス調整が難しそうだ。
それともう一つ、敵キャラの行動原理。ここがねえ、ちょっとネックかも。ぶっちゃけ、政治信条も何もない敵の真意は拍子抜けでした。あの本当の敵の目的だと、どうしても貫目が軽くなってしまうと思います。そうなると、物語自体も陳腐になってしまう。ヒロインの立場も含めて国際的なパワーバランス、政治的な駆け引きや判断が情勢を形作り、その中にあの学園が政治的な意味も含めて存在している、という世界観に作品として重きをなしている以上、それら諸々を台無しにしてしまいかねない「目的の軽薄さ」は作品そのものの鼎の軽重に差し障ってきてしまいますしね。この作品は、そんな「重さ」を大事にしてこそ映えそうな、キャラクターが暴れまわっても崩れない「舞台」こそが重要な作品だと考えられますし。

ともあれ、どっしりと読める、しかしキャラクターたちの言動を追いかけるのがとにかく楽しくて、どっぷりと首までつかって付き合いたくなるような、これからが楽しみで仕方ない期待大の新人作品でしたよ。こじんまりとまとまらずに、このまま大いにハッチャケて主力を担うような書き手さんになってほしいですね。先物買いをおすすめできる新人さんが、またまた現れてくれました。嬉しき哉楽しき哉。

個人的にはメインヒロインのアイリスが、実に素晴らしいお姫様っぷりを見せてくれて、大のお気に入りに。
元気ハツラツで天真爛漫、凛としてかっこ良く、しかしデレるときはキチンとデレて乙女炸裂、ともはや完璧なプリンセスっぷりですよ。ただ守られるだけじゃない意志と負けん気の強いお転婆お姫様。でも、助けてとキチンと言える、好きな人に守ってほしいと素直に思うことの出来る、まさに騎士に守られるべきお姫様というのがなおのこと素晴らしい。なんちゅうかね、好きな相手に傷つけられる事を受け入れた女は強いですよ。
そんな幼馴染に頼られる姫也もまた、これが頗る頼もしい騎士さまなんだわ。一度守るべき人を傷つけて、もう二度と傷つけずに守ってみせると誓った男は強いですよ。そんな、強い姫と騎士の物語ときたら、そりゃあ見応えたっぷりです。ラブラブです。清々しいくらいに気持ちいいラブラブっぷりです。揺るぎない信頼って、美味しいですねえ。
とまあ、とてもこの二人の間に割って入る余地はなさそうに見えるのですが……何しろ、仲間連中のキャラの濃さが半端ないからなあ。ゼナイドとかゼナイドとか。夕もあれでアレだし、アレだし。余地なんざピッキングだの爆破などで無理やりこじ開けそうなアクの強さがあるので、ラブコメ方面も愉快な事になりそうだ。とは言え、アイリスもキャラなどその点全然負けてないので、笑える意味で大惨事になる可能性も高そうだけれど、それはそれでw