グロリアスハーツ (富士見ファンタジア文庫)

【グロリアスハーツ】 淡路帆希/文倉十 富士見ファンタジア文庫

Amazon

シローフォノ軍の研究機関『クレイドル』にて生まれた、怪異の力を持つ人型の生命兵器―『贋人』。贋人として生まれた少女・ユズカと、ユズカを人間にしたいと願う少年・アルトゥールの二人は、贋人の秘密を知る唯一の人物と言われる研究者・ディニタ・イングリスの行方を探している。ユズカの冷気を操る能力『氷姫』を利用して、宅配業を営みながら旅を続ける二人だったが、ある日立ち寄った街で贋人の心臓『マテリエ』を狙う『贋人狩り』に遭遇し―。旅立ちは三人、大切な人を失ったあの日、守りたいと願う激情が、少年の中に眠る7つの龍を呼び起こす本格ファンタジー。
うむむむ、いいなあこれ。淡路さんは前作シリーズの【花守の竜の叙情詩】で確実に化けたよなあ。あの情感あふれるお伽話を様々なハードルを乗り越えて見事に完成させたことで、なんか物語を書く上での自分なりの独自のナニカを掴んだような節があるんですよね。言うなれば、登場人物たちの感情の置所、というようなものを。
この【グロリアスハーツ】にしても、ハイ・ファンタジーな純愛ラブストーリー色が濃厚な前作からかなりガラリとスタイルを変えているにも関わらず、これが淡路帆希の物語だ、という一番根底に流れる部分はキッチリ出してきているのです。
つまるところ、この【グロリアスハーツ】の見所もまた、アルとユズカという二人の少年少女の繊細で複雑な感情の結び合いなんですよね。上手いなあ、と思うのが二人の関係が二人で完結しているのではなく、今はもう居ないメリッサという三人目の存在が大きく影響しているところ。メリッサがかつて居て、今は居ないという状況こそが、アルとユズカの関係を過去に縛り付けると同時に未来を志向させ、互いに必要以上に寄り添えないもどかしさ壁を聳えさせると同時に絶対に離さず守るのだという絆を強くさせている、そんな後悔と希望、退き求める混沌とした感情が二人の間をひっそりと行き交っている。複雑で繊細な感情の縺れと結びつきが二人の関係の今を成り立たせている。これが物語全体にしっとりと濡れたような味わい深い情感を染み込ませていて、非常に面白い。
それに、二人の関係というのはこの状態に停滞しているわけではないんです。メリッサを失った傷の痛みを乗り越えよう、傷ついた相手を癒そうという想いや意思が、常に二人を前に進ませている。進んでいると言う事は、相手への思いもまた変化していくということ。大切に想う、という意味もまた決してその場に留まるものではないのです。相手にとって一番大切だった者、メリッサを助けられなかった、守れなかった、という負い目はお互いを一番深いところまでは踏み込ませないストッパーみたいになっているのだとしても、です。
大切な人、という意味をこれまでと全く違う視点で捉えた瞬間、心の色彩はガラリと壁紙を入れ替えてしまう。守らなければ、という想いの意味すらも変わってしまう。そんな常に一緒にいた二人の心に男と女という意味が加わった瞬間の、また素晴らしいこと素晴らしいこと。
なんか突然、妹としてしか見ていなかったユズカを女の子として意識してしまったアルの初々しい反応もまた微笑ましいのですが、それ以上にいつも冷たくそっけない態度でアルを辛辣に扱っていたユズカが、あんなことをしでかすとか!! ……アルはもう死んでしまえばいいと思うよ? なんでお前、そこで女みたいな悲鳴をあげてんだこら。このシーンのイラストは、もうべらぼうにエロくて悶絶しましたよ。糸、糸ひいてますよ!?

ああもう、この二人、いいわー、大好きだわ。二人を取り巻く環境は、怪しげな組織が暗躍を始めてどんどん不穏さを増しているのですが、喪失の痛みに耐えながら、手を握り合って前に進もうとしているアルとユズカが、どうか幸せになれますように。二人のハッピーエンドを見届けるまで、これは満を持して追いかけたい良作でした。ほえほえ

淡路帆希作品感想