豚は飛んでもただの豚?2 (MF文庫J)

【豚は飛んでもただの豚?】 涼木行/白身魚 MF文庫J

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テストにバイトに部活動。日々繰り返す高校生の初夏の梅雨。特別なことなど何もない、これが本当の平凡な日常。だけれども、そんな平凡な日常がどれだけ芳醇で密度濃く弾けんばかりの瑞々しさで満ちているか、それをこの作品は目を見張るような鮮やかさと濃厚さを以て見事に描ききっている。
素晴らしい、本当に素晴らしい。
日常のどこが薄っぺらなのだ。どこが退屈なんだ。冗談じゃない、ただ普通に日々を過ごすことはこんなにも大変で、一生懸命に生きなきゃやってけないんだぞ。漠然と過ごしていたら、あっという間に過ぎ去っていく時間を確かに踏みしめ、感じ取り、大事なものを掴もうと足掻いてもがいてじたばたしていたら、退屈なんてしている暇なんて何処にもない。飽きている場合なんかどこにもない。
それが、ここでは如実に描かれている。
ああ、真剣に生きるって素晴らしい。一生懸命毎日を乗り越えていくってなんて素敵なことなんだろう。眩しくて仕方がない。子供たちの妥協しない頑張りが、夢中になって自分の中を覗き込み、自分と繋がる他人を見つめ、そこから広がる世界を見渡して、必死に手繰り寄せようとする姿の、なんて平凡で当たり前の事だろう。
そう、これって何も特別じゃないんですよ。誰もが誰も、皆が普通にやっていることに過ぎない。日常なんです。誰にでも共通する、ただの日常。
それが、こんなにも瑞々しい。そして、これこそが青春なんだろう。
最高じゃね、この物語。

てっきり二巻はもっと恋愛に主眼を置いた話になると思ってたんですよね。それが、恋愛にかまけることも出来ないくらいに、この子たちの学生生活は忙しさに満ち満ちていて、ただ普通に学生として生活することに容量を使い切るハメになるとは思わなかった。そう、忙しいんですよね、日常って。これを退屈だなんて言える人は、どれだけ何も持っていないんだろう。人間、やりたい事が少しでもあれば、それを熟すだけで時間なんて全く無いと思い知る、それが日常であり人生だというのにさ。
そして、やりたい事やらなきゃいけないことがたくさんある芳醇な学生生活を歩もうとしているこの子たちにとって、時間はあまりにも有限であり、それを全部こなしていくには彼らの処理能力は不器用に寄っているのでした。でも、この子たちは投げ出さずに一つ一つそれを積み重ねていくんですよね。勿論、やり方が分からなくて立ち止まってしまったり、これでいいのかと迷ったり、あまりの余裕のなさに後ろに下がってしまいそうになったり、と当然のように迷走するのだけれど、この子たちが素晴らしいのはそうした自分自身への疑念を結果としてだけれど自分一人で抱え込まずに、誰かと共有し、言葉にしてコミュニケーションをとって一緒になって解決していこうとしているところだろう。この、ちゃんと自分の気持ちを言葉にして伝える、という行為が素晴らしいんですよね。拙くも真剣に、自分の考えをまとめて言葉にだそうとしている。彼らの発する言葉は借り物なんかじゃなくて、ちゃんと自分なりの体験と経験、考え方と価値観に基づき、その上で他人の意思と思想を汲み取ってしっかりと吟味した上で、一方的じゃなく相互を考慮した上で、真剣に丁寧に慎重に言の葉の上に載せたものだから、とてもダイレクトに心の芯に届いてくるんですよ。飾らないからこそ、本気だからこそ、拙いからこそ、本物の言葉だからこそ、気持ちが伝わってくる。
自分に対しても他人に対しても真剣な言葉って……凄い力ですよね。
そしてこの子たち自身もまた、誰かに真剣に言葉を送られた時の感動を、力を得る感覚を、とても大切な気持ちで噛み締めている。決して蔑ろに扱わず、本気に対して本気で受け止めている。
その姿はとても一生懸命で頑張っているのが伝わってくる。それが、とても素敵に感じるのだ。
やってることはとても素朴なことなんですけどね。ただ、テストで赤点を回避するために勉強して、かつての片思いに決着をつけて、試合の敗北に打ちのめされ自分の今までを省みて。それは誰もが同じではないけれど似たような経験がある、平凡な日々の出来事。
それを、これだけ新鮮に、瑞々しく描き出すこの作者の筆に、今感動すら覚えてます。素晴らしい、素晴らしすぎる。今回、なんど素晴らしいを繰り返した?

青春してますかーーー!?

恋愛パートの方は、上でも触れたように殆ど進展はなく、てっきりあると思っていた瑞姫の修羅場イベントも今のところ予兆もない状態。稜との関係も良い友だちというところからまったく脱却できていないあたりはもうちょっと頑張れ、と言いたくなるところなんだけれどこいつは今更繰り返す必要もないくらいに頑張ってるからなあ。
でも、相性という意味ではやっぱり瑞姫の方が合っているのだと、二人の屈託のないやり取りを見ているとどうしてもそう思っちゃうんですけどね。それに、着実に瑞姫の中では真宮の存在が大きくなっていっているのは誰がどう見ても間違いないですし。正直言って、溜めが半端ない気がしますけど。もっと簡単に転んでもいいくらいに密度の濃い時間を二人で過ごしているのに、まだ瑞姫は少なくとも異性として意識している自覚が生まれてないっぽいもんなあ。あんまり溜め過ぎると、いざというときにエラいことになりそうで怖いやら楽しみやら。この物語って、真宮だけじゃなく、瑞姫も主人公ですもんね。何気にこれ、ダブル主人公の話だし。
さて真宮が今尚綾に夢中というのも導火線に火の付いた爆弾ですので、場合によっては大胆に瑞姫中心の視点で話を転がしてくる可能性も。そう言えば、綾の妙に枯れた人生観もこれ、さり気なく伏線だよなあ。あとあと、此処は大きなポイントになってくるはず。要チェックや。

1巻感想