午後からはワニ日和 (文春文庫)

【午後からはワニ日和】 似鳥鶏 文春文庫

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「イリエワニ一頭を頂戴しました。怪盗ソロモン」凶暴なクロコダイルをどうやって?続いて今度はミニブタが盗まれた。楓ヶ丘動物園の飼育員である僕(桃本)は解決に乗り出す。獣医の鴇先生や動物園のアイドル七森さん、ミステリ好きの変人・服部君など、動物よりもさらに個性豊かなメンバーが活躍する愉快な動物園ミステリ。
まさかの動物園ミステリー。普段なかなか知ることの出来ない動物園の裏側、それも飼育員たちの動物たちに対するスタンスを垣間見ることができて、その点からもなかなか面白かった。特に至言だったのが、
動物好きは2割、あと3割は動物マニア、残りの5割は動物バカ
という台詞。最初に動物好きが二割、という言葉が先に見えた時には、「あ、その程度なんだ」と飼育員って言っても動物に関わるのはあくまで仕事であってビジネスライクなんだ、なんてちょっとがっかりしたものですが、続いて出てきた台詞を目の当たりにして、思わず相好を崩してしまいました。いやね、無責任で何の関わりもない外の人間の気持ちにすぎませんけど、やっぱり動物園で動物を飼育している人たちがちゃんと動物のこと大好きだという方が嬉しいじゃないですか。
とまあ、そんな感じで動物園がどんな風に運営されているか、という観点からも非常に興味深く読み込めると同時に、これ、ミステリーなんですよね。誰が、何の目的で、どのようにしてイリエワニを、ミニブタを盗み出したのか、という様々な謎を解き明かしていくあの特有の閉じられた蓋をパカッと開けるような感覚がきっちり味わえるのです。さすがは、【理由あって冬に出る】以降、一連の学園ミステリーで良作を絶えず届けてくれている似鳥さんです。その辺りは不安ありません。そもそも、希少価値が存在しないわりに捕獲し持ち運ぶには危険すぎ、目立つことこの上ないというリスクばかりのイリエワニが何故盗まれたのか、という最初の地点から首を傾げることばかりで、自然とこの疑問を晴らしたいという欲求を呼び起こしてくれる、という時点でもうミステリーとしては掴みオッケーなんですよね。
その上で、粗筋にもあるのですが、個性的な飼育員さんたちが積極的に動いてくれるので、キャラクターを追うだけでもまったく楽しい。鴇先生については、動きすぎ! とも思いますけどね。アグレッシブにもホドがあるでしょう、この先生。獣医さんのくせに、途中の暴走はなんばしよっとね!? と口をあんぐりあけてしまいましたよ。桃さんも止めろよ! それでいて、何気に乙女を爆発させていきなりヒロイン化しやがるしw あんた、いい年して男慣れしてなさすぎでしょうw ちょっと男の人からほめられたくらいで動揺し過ぎだ。純情過ぎるw 
てっきり七森さんがヒロインなんだと思ってたですけどね。この娘も最初のか弱い先の細い印象をぶち壊して、異様にバイタリティあふれるところを見せつけてくれたからなあ。それでいて可愛げは一切失せてないので、立派にダブルヒロインです。ちゃんと表紙も鴇先生と七森さんが出張ってますもんね。

事件の真相は、想像以上に人の恐ろしさと人生の懊悩、その上で愛情の篭ったミステリー作品らしい真相で、読み応えもバッチリです。そしてこれでもか、と動物園愛が感じさせる良作でした。さすがに動物園でこれ以上事件が頻発するのも問題なので、続編はなかなか期待しづらいのですが、また桃さんたちと動物園の話を読みたいなあ、と思わせてくれる一作でした。面白かったです。