魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉4 (MF文庫 J か 11-4)

【魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 4】 川口士/よし☆ヲ MF文庫J

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ムオジネル軍、襲来す! エレンとリムの不在、疲れきった兵、自軍の十倍の敵兵。様々な困難を抱えながら、ティグルは“銀の流星軍”を率いムオジネル軍に挑む。圧倒的な戦力差に窮地に陥るティグルだったが、そこに意外な人物が現れ……? 一方ジスタートに帰還したエレンは、病床の親友サーシャとの再会もつかの間、“雷渦の閃姫”エリザヴェータとの戦いに臨む。「一度だけ機会をやる。いますぐ這いつくばり、レグニーツァの民に許しを請え」「お断りしますわ」「ならば――くたばれ」 交錯する想い。巻き起こる戦火。そして、明かされる驚愕の事実とは――。大ヒット美少女戦記ファンタジー、第4弾。いま、“英雄”は産声を上げる。
新たに登場した戦姫の一人、“雷渦の閃姫”エリザヴェータ。アレだけ仲の悪い天敵であるリュドミラに対してすら、その人品を認めて憚らなかったエレンがそりゃもう口汚く罵ってたので、戦姫の中にもろくでもないのは居るんだなあ、なんて思ってたら……あれ? 全然イイ子じゃね?
むしろ、自分の未熟を噛み締めた上で、常に努力を惜しまない向上心にあふれた直向きな娘のようにすら見えます。ややムキになる傾向はあっても、エレンよりも冷静沈着に見えますし。ただ、結構不器用であんまり何事を為すにもまず失敗から入ってしまいそうな所があるのかな。
エレンには心底嫌われているようですし、エリザヴェータの方もエレンへの対抗心は剥き出しなのですけれど……これ、エリザヴェータの方は周囲が思っているような、エレン憎しという負の感情をベースとした因縁じゃないんじゃないだろうか。むしろ、目標や憧憬の対象としてリスペクトしている? 立派な一角の戦姫となるのだ、という目的の為に敢えて自分を強く律し、敬愛しているエレンにつっかかり、対抗することで、彼女と同じ高みへと辿り着こうとしているようにも見えるんですよね。エリザヴェータの父親の死に絡む因縁も、彼女が幼少時に市井に居てむしろ貧しい暮らしをしていたのを考えると、父親に対して親愛があったか怪しい所がありますし。
でも、エレンって多分エリザヴェータが思い描いているような理想の戦姫からは、わりと程遠い大人気ない娘さんですよ?w
というわけで、これエリザヴェータもティグルに会ったらすぐに転びそうである。というよりも、この生真面目娘さんの性格は、他の戦姫やヒロインたちの中に居なかったワンコ属性っぽい気がするんですよね。となると、わりと上から目線で接してくる他の娘と違って、一旦味方となるとなったらかなりの忠犬になるんじゃないかなあ。

折しもエレンがティグルから離れたのを見計らうように侵攻を始めたムオジネル軍。勿論偶然などではなく、何者かが手繰る糸が背後でうごめいているようだが、結果として戦姫エレンの影に隠れてオマケ扱いだったティグルが孤軍奮闘することで亡きロランに変わって国内屈指の騎士としての名望を得ることに。
自分の領地を守るために、エレンの協力を受けて国内の大貴族に反抗して以来、銀の流星軍という独立軍を立ち上げたものの、とても王国の二代派閥に抗するべくもない、いつ踏み潰されても仕方のない弱小勢力だったというのに、その小さな勢力を保つことに執心するのではなく、弱き者を庇護して理不尽と戦うという理念を持って常に前に進み続けた結果として、ここまで短期間に第三勢力として躍進を果たすとは、驚くばかりである。
実際、良将だったムオジネル軍先鋒集団の将をたった二千で討ち取った手腕は手放しでほめられるべきものですし、本隊との会戦は偶然と戦場の霧に助けられたとは言え、さらに大軍たる敵軍相手に粘り強く戦い続けたことが引き寄せた勝利でした。バルバロッサ王の喧伝は、宣伝工作とは言え彼自身の本音と実際のティグルの戦果があってこそ、ですしね。ロランに変わるブリューヌ王国最強の騎士の名は、実態を持って王国内に響き渡るはず。
とまあ、そんな名望だけならまだ貴族たちも早々靡かないでしょうし、第三勢力として立脚するには弱い。ところが、ティグルの元にはロランが残した守護剣デュランダルがあり、宰相への手蔓とも言うべき国王の真実があり、そしてついには最強の大義名分と成り得る存在が転がり込んできたわけで、まさにトントン拍子の勢いで一大勢力へと成り上がってしまったのでした。
そして、そんなティグルの躍進を肝心なときに傍で助けたのは、エレンではなく……りゅ、リュドミラさん!?
うははは、リュドミラの介入タイミングは殆ど神のごとしである。これほどティグルが絶体絶命の時に、エレンが不在でリュドミラが代わりに助けに入った事で、一度敵対したことも帳消しになった上でエレンとも対等にティグルに対して大きな顔ができることになりましたし。
ティグルってよっぽど庇護欲を掻き立てるタイプなのか、どうも一緒に戦うとどうしても自分が助けてやらないと、と思ってしまうようで。あの鉄壁のリュドミラさんの、会戦後のティグルの甘やかしっぷりには思わず笑ってしまったほど。リムといいミラといい、厳しい性格の娘ほどグデグデにティグルを甘やかす傾向があるなあw
とまあ、物凄い勢いで女殺しの才能を発揮しているティグルさんですが、別に女性相手ばかりじゃないんですよね、その才能。ジスタートのハゲことルーリックはエレンやリム以上にティグル大好き! な状態でエレン不在の今回はティグルの副官格としてかなり存在感を見せていましたし、以前からティグルに随分と辛辣な姿勢をとっていたジェラールも、実はそれはティグルを見極めるための……まあ性格的なものもあるようですが、方便だったようで、ルーリックと丁丁発止を繰り広げながら、兵站参謀として卓抜な手腕を発揮して、とティグルの後見役の爺さんたちとあわせて、何気に男衆もちゃんと魅力的に描かれているのは好印象でした。敵さんも、やられ役とは程遠い、一癖も二癖もある大人物でしたし。ホントにMF文庫ではあまりない戦記ものとして十分以上に歯ごたえのある作品です。面白かった。そして、面白くなってきた!

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