勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。2 (富士見ファンタジア文庫)

【勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 2】 左京潤/戌角柾 富士見ファンタジア文庫

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勇者試験の直前に魔王が倒されてしまい、勇者になれなかった少年ラウルと、父親である魔王が倒されて、居場所がなくなった魔王の娘フィノ。二人は王都にあるマジックショップで、なぜか一緒に働く日々を送っていた。そんなある日、業界最大手である『アマダ・マジック』が近所にオープンし、ラウルたちのお店は閑古鳥状態に。偵察のために敵地に乗り込んだラウルだったが、そこではかつてのライバルだった少女がレジを打っていて―。「『オールA』っ!どうしてお前がこんなとこに!?」「こ、これはっ、そのっ…せ、潜入警備よっ!潜入警備っ!」勇者の卵と魔王の卵が織りなす、ハイテンション労働コメディ。
この作品って労働コメディという宣伝文句の通り、結構ガチなお仕事モノにも関わらず、毎回キッチリとバトル展開を入れてくるのは感心するべき所か、危惧すべき所か中々の悩みどころである。そもそも、ラウルとフィノが務める店がわりと一般生活向けのマジックアイテムショップであって、戦闘職とは関係ない仕事なだけに、本来ならばバトル展開が入る余地ってあんまりないんですよね。フィノが魔王の後継として魔族と人間の対立構造を維持したい勢力から狙われているとか、揉め事に巻き込まれる要素はあるものの、そちらにかまけてしまうとお仕事モノとしての趣旨からズレてってしまいますしねえ。そうなると、ネタ出しにも困ってくるんじゃないかと要らない心配をしてしまう、と。マジックアイテムの不具合からもバトルにしてしまう作者に、そんな心配は余計なお世話なのかもしれませんがw
さて、此度のお話は前回までのラウルと同じく、勇者になれないまま望まぬ仕事に就いて鬱屈する元同期に、ラウルが現実を叩きつけるという、ある観点からすると夢も希望もありゃしない、なお話である。未来につながる夢や希望ならば歯を食いしばってしがみつく価値はあるかもしれないが、もはや潰えてなくなった夢にしがみつくのは、ただの現実逃避でしかない。でも、今までの自分の努力やそれに費やした時間が全部無駄になってしまった、と認めるのは辛く厳しく虚しいもの。ラウルは、フィノの真実やその直向きで純真な姿勢を目の当たりにして、自分の仕事に誇りを持つに至ったけれど、それをそのままアイリに強いるのはまた違う話である。まあ、アイリとしては、予備校同期の憧れだったラウルが身を持ち崩していたように見えたんでしょうけどね。そんな彼が、実はちゃんと前を向いて新たな目標を胸に歩いていると知る事は、彼に叱咤された以上に自分も新しい夢を見つけていいんだ、と許される思いに至るに十分な理由だったのかもしれない。
アイリが過去の呪縛から解かれ、復讐も勇者の栄光からも離れた、ただ自分の為だけの夢を自分の中に見つけ、それを語ってくれた時の微笑ましい気持ちは、ほんのりと温かな心地をしっかりと焼き付けてくれた。
いや、実際アイリが自分がなりたいものを恥ずかしげに話してくれた時には、この娘可愛らしいなあ、と思ったものです。なんか、本当に普通の職業で新鮮でしたし。

ラウルも、フィノも、そしてアイリも、今となっては望んでいるのは歴史に名を残すような勇者としての栄光でも、世の人に尊崇される救世主としての名望も関係ない、市井の中での成功であり、ささやかな充実にすぎない。でも、フィノはその望みと違って、魔王の娘という出自に周りも彼女自身も囚われている節がある。魔族の社会構造からして、フィノは魔王の娘ではあっても王族としてふさわしい待遇を受けていたわけでも、将来を約束されていたわけでもないのだから、魔族全体に高貴なる者の義務や責任があるとは思えないんだけれど、それでも彼女には人の世界で暮らす中で、人間に対して魔族を代表するという意識が強く残っているようだ。それって、否応なく王としての在り方であって、彼女が望み憧れた人間の社会の中での生き方とは程遠いものである。
果たして、フィノがこれからも市井の中の人として生きていけるのか。その世間知らず振りよりも、魔族という出自よりも、その尊い責任感こそが、彼女の夢に立ち塞がる最大の壁のような気がするのです。もし、彼女がその壁を前にして進むことも戻る事もできなくなった時、ラウルは彼女を支えることができるのでしょうか。彼女の自由な意志を守ることができるのか。
勇者じゃない、ただの魔法道具店店員だからこその、らしい選択を期待したいところです。
尤も、一巻二巻で示したラウルのセンスって、どうみても並の勇者なんぞよりも卓抜してるんですよね。それだけのスキルがあるのに、ただの店員やってるというのは、アイリじゃないけど勿体無いと思っちゃうよなあ。

1巻感想