神さまのいない日曜日VII (富士見ファンタジア文庫)

【神さまのいない日曜日 7】 入江君人/茨乃 富士見ファンタジア文庫

Amazon

アイやディーたちの活躍により封印都市は復活を果たす。けれど、アリスの断罪に失敗した魔女旅団―マダムは暴走、鉄虫に襲われた封印都市は、戦火に包まれる。アリスは、封印都市を救う為、“我が侭”になったマダムに対抗する為に、その力を解放する。「―俺が止める」その異能で。すべてを燃やし尽くす。一方、アリスと共に戦うと決めたアイは、一度は手放した墓守のショベルを、再びその手にとる。大切なものを、誰かを。もう一度、守りたいから。「アリスさん―私と一緒に、生きてください」世界の終わりを守る少女と少年の、果てない夢の行方は!?―。
前々回で「世界を救う」というこれまで培ってきた夢を裏切り、前回においてはその夢を取り戻すどころか、裏切った選択を肯定して本当の意味で捨て去ってしまったアイ。ここに至るまで、ただ「夢」を叶えるために生きてきたアイにとって、生きる意味である「夢」を捨て去ったことは死んだも同然。なぜ夢を捨ててなお未だに生き続けているのか、という存在意義への疑問すら抱きながら、アイは周りの人たちを通じて自分が普通に笑って生きていることを実感する。同じく、自分の夢にこだわり続けて破綻しかけていたアリスの姿を目の当たりにすることで、自分もまたどれだけいびつな存在だったのか。ユリーたちに心配をかけてきたのかを、実感する。
夢がなくても、人は生きていける。その事実に愕然とした想いを抱きながらも、彼女はその事実を受け入れつつあったのでした。

でも、世界は着々と滅びつつある。

この生者が生まれず死者が生き返る世界の恐ろしさは、これまでも散々目の当たりにしてきたつもりでしたけれど、結局今までの体験というのは生まれた時からこんな世界だった若者たちと、滅びつつある世界の中で抗いながら生きてきた大人たちの目線から見ていた世界だったんですよね。ある意味、異常が当たり前になった人たちの視点からしか、この世界を見ていなかったと言える。
でも、この世界から長らく隔離されていた封印都市の古参の人たちの、死が終わりであった人たちの目線からこの世界を見直した時、今の世界の異常性が際立ってくる。
この世界は明らかに壊れていて、そして滅びつつあるのだ、という事実を改めて認識することになった。そして、そんな世界を救うなんてこと、とてもアイの手には余ることだったのだ。

そもそも、自分の全存在をかけた夢とは何なのか。一度「夢」から離れて、アイが「夢」というものを振り返った時、そこにあるものは、夢とはただの生きる上での「目標」でしかなかったのです。生きるための目標なのに、そこには「自分」というものが存在しなかった。違ったのだ。夢とは思い定めて自分を捨てて、置いてけぼりにして邁進するものなどではなく、ただ自分が自分らしく生きようとした時に自然とその道筋の先に現れるものだったのだ。
この「夢」というものの概念自体の再編は、さらなる衝撃だった。
そもそもこの【神さまのいない日曜日】という作品自体が、神という指針が存在しない世界での、「夢」という生の意味を問いかけるような内容だっただけに、夢そのもののようだったアイが、その夢を裏切り、さらに取り戻すことすらせず裏切った事を肯定して、夢なき自分を認めてしまった事自体が大衝撃だっただけに、その上にさらに「夢」というものの概念すら根底からひっくり返してしまうという展開は、驚きなんてものじゃないんですよ。この作品の主題の扱いとしては正直度肝を抜かれるような大胆さである。本来ならぶれないはずの作品の芯の部分そのものを、ぶん回すような所業なのですから。
でも、ぶん回したその先に、新たな、そして開かれた未来への道が待っているというのは、唖然とすると同時に興奮を呼ぶ流れでした。
その上さらに、夢の標榜だった「世界を救う」ことそのものを、ここで一気に叶えてしまったという展開も、仰天だったんですけどね。あれだけアイが苦心して見出そうとしていた答えを、ここで数ある一つとは言えあっさりと開いてしまうとは。なんと、まあ……。
でもその救済を前にした時、現行世界は先へと続く未来を手に入れ滅びを回避したと同時に、完全に「死後の世界」への道を歩み始めたことになったのです。高次世界やアストラル界などではない、3次元の物理世界にも関わらず、ここは地獄であり天国である死者たちの世界。死後の世界へと変わっていく。
この事実を前にした時、もうわけわかんない感情がこみ上げてきて、どうにもならなかった。それは感動であり、失望でもあり、希望でもあり絶望でもあり。とてつもない矛盾をはらんだ感情がわきあがってきた。なんか、もう凄かった。
もちろん、これも確かな世界の救済なのです。世界は間違いなく終わりから救われた。でも、未来へとつながっていく歴史、という意味での世界は救われたとしても、それは世界を救うことの一つに過ぎないんですよね。世界を救うという言葉に思い描く形の一つでしか無い。これで、全部終わりじゃないはず。世界が在りし日の姿を取り戻す、という救いが、まだあるはず。でも、それが叶うということは、今回の救いを台無しにすることにもつながりかねないんですよね、考えてみると。あの救いは、死者が存在し続けることが前提となっているのですから、死者が終わり、生者が生まれる世界の復活は、黒面を通じた異世界との連結を台無しにするおそれがある。
でも、この形が正解なの? 分からない、何も分からない。アイは、どうするつもりなんだろう。アリスやディーと共に、どういう光景を見出すんだろう。アイがアイらしく、自分を手に入れた時に見たいと思う光景は、一体どんなものなんだろう。
まさに最終回! みたいなノリだったのにも関わらず、物語はまだ続く。当然だ、アイはまだ「自分」という夢を見出していないし、アリスは破綻したままで、ディーは魔女のままなのだから。
でも、次回以降のあらすじはそれこそ理解不能の次回予告で、これってどういうことなの!?
わけがわからないよ! でも、その理解不能さが今だけは心地よい気がする。まったく、不思議で地に足の付かない困った、しかし恐ろしく充実して中身が充填された作品であり、物語である。

あと、スカーがユリーと惚気けすぎ。いや、この人ホントに変わっちゃいましたよね。構ってくれないユリーに拗ねるスカーさんが、可愛らしすぎる。今回は墓守らしい働きも見せてくれたお陰で、余計に昔との差異が浮き出たような気がする。そうか、これがいわゆる未婚の人妻か!!(?
そして、ユリーのお父さんスキルがそろそろ異能の域に達しつつあるような。第六感冴えすぎですw
まあ、アイはまだ恋愛感情って理解できてないようですけど。それとも、解った上でディーをからかってる? アイとアリスの雰囲気はディーがいじけるくらいに醸成されてしまってるのですが、本人たちにその気はないのかなあ。これが普通のお話なら、双方とも鈍感、で済まされるのかもしれないですが、こればっかりはアイもアリスも色々と破綻してるからなあ。本当に無い可能性もあるので油断できない。
でもスカー、貴女は無いわ。普通にそれは恋ですから、愛ですから。

シリーズ感想