アルカナオンライン〈1〉嘆きの『恋人』

【アルカナオンライン 1.嘆きの『恋人』】 猿野十三/イシバシヨウスケ アルファポリス

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VRMMO‐RPG(仮想現実体験型オンラインPRG)の新作「Arcana Online(アルカナオンライン)」。高校生のジンとアイの兄妹は、制作会社による無料体験企画に当選し、そのゲームをプレイすることになった。「Arcana Online」は、ヴァーチャルリアリティ技術によって、ゲーム世界を実際に生きているかのように感じることができる。二人はその新鮮な感覚に感動し、楽しんでいた。しかし、ある日を境に全てが一変する。世界が闇に包まれ、謎の男の声が響いた後、ゲームから出ることができなくなったのだ。多くの人々が不安を抱えながらゲーム世界で生活するようになる。そんな中、お気楽男のジンはひたすら我が道を突き進んでいた。果たして、それが吉と出るか、凶と出るか?ネットで絶大なる人気のVRMMO‐RPGファンタジー小説、いよいよ書籍で登場。
まず最初にフィールドに出て戦う敵モンスターは、普通ならばスライムやゴブリンといったところでありますが、この男、何をトチ狂ったかまず剣を装備し革鎧を身に着けて平原に飛び出すのではなく、身に着けていた服を脱ぎ、パンツいっちょの裸体に成り果て海へ飛び込み、いざ戦うはひたすらにアジやマグロ! マグロ! マグロ強ぇな♪とか言われても意味わからんわ!!
皆が当たり前のようにフィールドでモンスター狩りに勤しみ、ダンジョンを攻略している中で、ひたすらに海で泳ぎまくり、鮫を相手に取っ組み合いの格闘していた男に与えられた掲示板でのアーバンネームは【半魚ZIN】!
新たなる「裸王」の誕生であるw

曰く、感覚と直感だけで生きてる馬鹿。
馬鹿である。この主人公、本当に馬鹿である。その馬鹿さ加減も、普通の感性の斜め上を行っていて、こいつ馬鹿だろう、と笑うしかない馬鹿さ加減。
とりあえず、何かあると脱ごうとするな!! だから、何故脱ぐ! なんで全裸になろうとする!! なぜ全裸がかっこいいとか思ってるんだコイツw
何かしらの強いこだわりがあるのは理解できるんだが、その拘りの果てにどこに行こうとしているんだ、こいつはw

とまあ、こんなすっとぼけた主人公の視点で綴られる物語は、未だゲーム内に閉じ込められただけでデス・ゲームには至っていないせいか、基本的に明るいスチャラカなノリで進んでいきます。
文章の間合いと言葉の置き方が絶妙なんでしょうね。コメディの緩急が実にテンポ良くて、何度再読しても、同じ場面でゲラゲラと大笑いしてしまいます。兄の変人さが顕著に知られるようになり、さり気なく他人のふりをするようになってしまった妹様といい、ジンと意気投合してしまったが故に感性に生きている彼の世話女房として苦労する羽目になってしまったヒロインのハゼといい、やたらとみんなキャラが立っているのも注目点。特に、メインヒロインのハゼは実にイイんですよね。私、この娘大好きです。なんて言うんだろう。ジンへの接し方がすごく好きなんですよ。ジンの実生活的にダメ人間な部分をテキパキと管理して面倒見てあげる世話好きな面が、そういうキャラなんだよという枠在りきの描き方じゃなくて、凄くジンに対して親身になってくれてるのが伝わってくるんですよね。「あっ、この二人、いいなぁ」と、はにかんでしまいましたもの。
このあざとさを感じさせない距離感を、ジンとハゼのやり取りや掛け合いの中に感じ取った時、この作品のこと、凄く好きになりました。単に楽しくて笑えるお話、という以上に人と人との距離感をこれだけ自然に気取り無く描かれてしまうと、それを傍から見ているだけの読者であるこちらまでスルスルと吸い付けられて、登場人物たちに強い親しみを抱いてしまうのです。
しかし、ハゼはもう「ハゼ」で完全に定着してしまったんだな。というか、登場人物紹介でも呼称が「ハゼ」扱いなのは酷いと思った。本当は「Haze」で「ヘイズ」というネームのはずなのに、ジンがハゼハゼ言うもんだからもう誰も覚えてないw

さて、この作品には特徴的な仕掛けがあります。「アルカナ掲示板」というこのゲームプレイヤー専用の、ネット特有のスレッド式掲示板ネタなのですが、これがもう極まって面白い。アルカナオンラインでは2万人近いプレイヤーが活動しているのですが、やっぱりその中でもジンの変人的な行動は目立ってるようで、第三者視点から目撃されたジンの様子が書き込みされるのですが、これがもう……お腹痛い(爆笑
元々、半魚ZINなる名前が付けられたのもこの掲示板なんですよねw んで、そんなジンと行動を共にしている以上、ハゼも巻き添えを食う羽目になってしまうのですが、あのラストは五分くらいずっと笑ってたな、うん。

今後どういう展開になっていくのか、本当にデス・ゲームに突入し、シリアスな展開に入っていくのかはわかりませんが、現状ではとにかく楽しくて腹の底から笑える明るい作品です。元々、ウェブ上、小説家になろうで連載されていた作品で、もう少し先までは既に読んでいて展開を知っているのですが、まあとにかく笑えます。おまえ、いったい何処へ向かっているんだ、というジンのマイウェイさは、ハゼに首輪を付けられても留まるところを知りません。赤い褌靡かせて、ひたすら泳ぐトビウオ侍・半魚ZINの活躍や如何に。
続きを書籍で読むのが、今から楽しみです。それまでは、何度もまた繰り返し再読しておきましょう。なんでか、この作品って何度でも読み返したくなるんですよね。