彼女の恋が放してくれない! 俺たちは手錠で繋がっているだけの健全な友達です。 (GA文庫)

【彼女の恋が放してくれない! 俺たちは手錠で繋がっているだけの健全な友達です。】 海空りく/有河サトル GA文庫

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戌亥慎太郎は、ある日突然不思議な手錠で女の子と離れられなくなってしまった。
 相手は地味な同級生の此花つぼみ――だが彼女は眼鏡を外すと超絶キュートな女の子だった!?

「戌亥さん、そのぅ、背中を洗ってくれませんか」
「いいぜ。後悔すんなよ」
「何されるんですかわたし!?」
「スベスベにしてやんよ!」

 絶対に外れない手錠のせいで、お風呂に入る時さえも、離れられない二人。
 おかげで幼馴染みや委員長には変な勘違いをされ、戌亥の青春最前線は大波乱!
 此花と『恋人』になれば手錠は消えるらしいのだが、そこには大きな運命の罠が!?

 ゼロ距離拘束ラブコメディ開幕!
前シリーズの【断罪のイクシード】の時から、この作者の掛け合いの切れ味と来たら、時としてシリアスな異能バトルの空気を台無しにしかねないほどの破壊力があって、毎回腹を抱えて大爆笑していたものでした。主人公の破天荒な性格などがあったとはいえ、かの作品がヘヴィーな設定の割に重く暗い雰囲気に陥らずに、爽快痛快な快作として完成した要因の一旦には、作者のあの底抜け漫才があったからだと今でも思っております。そんな海空さんですから、ある意味会話のキャッチボールが主体となるラブコメを書いたら、そりゃ面白くなるんだろうな、と常々考えていた所に、新シリーズは直球のラブコメという情報が流れてきたんだから、小躍りしたもんですよ。

さて、本作はサブタイや表紙絵にもある通り、手錠でつながれ離れられなくなった男女のお話。これ、さり気なく上手いなあと思ったのが、手錠が質量のある物質ではないという点。手錠に限らず、男女が繋がれて離れられなくなったというシチュ自体は決して珍しくありませんけれど、そういう場合に特に問題になるのが、手錠が引っかかって服が着替えられない事なんですよね。地味ですけれど、これって何気に大きいんですよ。幾らなんでも着たきりでは要られませんし、着替えようとしたら毎回服を切らなくちゃいけなくなる。自然と手錠などで繋がれる期間というのは精々一日二日、長くても三日以上はないということになってしまいます。案外と強制共同生活、みたいなネタには使いにくかったりするんですよ、手錠。ところが、本作の手錠は繋がって離れられない、という以外では物質は透過できるので服を着替えるにも普通に生活する分においても、少なくとも鎖が引っかかって邪魔になる、ということはありません。手錠が付いた手首が傷つくこともありませんしね。
というわけで、遠慮なく長期の共同生活を送ることになった戌亥とつぼみ、なのですが……え? これ最初からイージーモードじゃないの? わりと一緒にお風呂に入ることも抵抗がなかったですし、一緒の布団で寝る事も嫌がらず、とこの小娘、防御力がゼロに等しい気がするんですが。ちょ、無防備すぎだろう、これ!?
わりと最初から戌亥へのつぼみの信頼度は高かったのですけれど、それでもここまで無防備になるほどではないと思うんですよね。二人は当人同士の意識の上では殆ど初対面に近いですし、そもつぼみには他に想い人がいる状態。人間関係の距離感のとり方になれていないとはいえ、つぼみがここまで無防備で居られたというのは何故なのか。
本能的に、無意識的に桜が自分と戌亥を手錠で繋いだ意味を察していた、というのも大いにありそうですけれど、それに加えてやっぱり、つぼみの自虐性が大きかったんでしょうね、これ。普通、この手の女性としての防御力というのは、自分を守ろうという意識があってこそ。つぼみは他人への警戒心こそ強いものの、あんまり自分を大事にしてないところも見受けられるんですよね。だからあれほど無防備で居られたんじゃないでしょうか。
でも、この時点でもイージーモードじゃなかったのは、あとがきの次回予告もどきで、次回からは距離感も近づいてつぼみがイージーモードに入ります、というコメントからも明らか。ここからさらにチョロくなるって、どこまでイッちゃうんだろう。

この、メインヒロインの此花つぼみ。内向的で引っ込み思案で自虐的内罰的で大人しく地味で目立たないメガネっ子、のはずなんですが……何気に作中でも一番のマシンガン・トークの使い手なせいか、あんまり暗いとか鬱陶しいというイメージはないんですよね。自虐的な所も、戌亥や美咲が真面目に諭したりせずに、むしろ煽ったりおちょくったりするせいで、豚が来に登る勢いでつぼみ本人がギャグにしてしまってますし。なので、全体的にちょこまかと忙しなく動きまくる小動物的な可愛らしさを発散するヒロインになっている。
まあ個人的には海空りくのヒロインは愛でられる系じゃなくて、ガンガン主人公と対等に言葉の拳骨で殴りあうようなタイプを見たかったんだけれど、これはこれでアリと言えばアリ。結構簡単に暴走するアホの子ですしなあ。
今回顔出し程度であまり目立てなかった委員長あたりが本格参入してきたら、いい具合にかち合いそうで楽しみだったりする。ただ、幼馴染の美咲はなあ……いや、むしろつぼみを襲う変態として生き残りをはかる戦略は間違っていないか。

ちょっとストーリー展開はベタすぎて、もうちょっといい意味で予想外の方にすっ飛んだり、暴走してくれても良かったなあと思うので、最大の武器であるキレキレにノリの良い掛け合いを活かす形でさらに発展してくれれば、と期待するところ。

海空りく作品感想