おまえは私の聖剣です。 (GA文庫)

【おまえは私の聖剣です。】 大樹蓮司/飯沼俊規 GA文庫

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失踪した家族が残した莫大な借金のため、高校生の槇那一兎が呼び出されたのは、超巨大財閥が支配する最先端都市・弓弦羽市。
 一兎が、そこで見たのは、稲妻を操って暴れる戦国武将・立花道雪。そして、荒ぶる雷神に、異能の力で戦いを挑む少女たちだった。

 ここは過去から蘇る偉人=怪偉人と、名高き英雄の能力を受け継いだ美少女たち=伏滅機関IXAsが、日夜、激しい戦いを繰り広げる街。
 唸る道雪の電撃。迎え撃つは柳生十兵衛の剣、ワイアット・アープの銃。そして卑弥呼の後継者たる大財閥のお嬢様・伏姫咲耶花の所有物になってしまった一兎の秘密とは?
あれ? これって一巻だけで終わりなの? 全然続いてもおかしくない内容にも関わらず、文章の締め方が完全に最終回モードだったので拍子抜けしてしまった。大樹さんって、そういえば全然シリーズもの書いてませんね。どれも一冊できっちり終わっている。これまでは、一冊で終わって然るべき内容の作品ばかりだったので、特に疑問も抱かなかったのだけれど、こうしてシリーズ化デキそうな内容の作品までこういう形で終えるということは、シリーズでやらないというポリシーでも持ってるんだろうか。
と、全然作品の内容とは関係ないところから切り込んでしまったけれど、本作はと言うとある意味古式ゆかしい、歴史上の偉人・英雄の力を宿したり、当人を召喚してしまったりして切った張ったを繰り広げる活劇モノ。どうせ偉人モノをやるなら、もっとマイナーどころを書けばいいのに、とか思ったんだけれど、よくよく考えると立花道雪とかニコラ・テスラとかジョージ・オーウェルとか、マルキ・ド・サドとか、一般的な視点からするとこの人達で十分マイナーどころになるんですよね。これ以上マイナーになると、本気で誰だよこいつ知らねーよ、知らねー奴だされても燃えないよ、という話になってしまうから、この辺が順当なのか。いやでも、この際だから本当にマイナーどころを出しまくって、コアな層の食指に訴えるという手も……リスク高いですか?
個人的には道雪先生をあそこまで好き勝手改造しまくったのには大受けでしたよ。いくらあだ名が雷神だからって、最終的になんか絶対無敵ライジンオーみたいになってんじゃねえかw 立花道雪という人は、立花氏を継承するまで「戸次鑑連」という名前だったんですが、まさか戸次を文字って「ベッキー」呼ばわりするとは。ベッキーっすよ、ベッキー。その発想に吹いた。
とはあ、怪偉人ニコラ・テスラによってハチャメチャにイジられまくるベッキーなのですが、何気に最後はイイ話になってて、時代も国も異なった、しかし雷撃に纏わる縁によって結ばれた二人の男同士の友情がかなり熱かったりするのです。西国無双の名を冠した伝説の名将の名に相応しい立ち振る舞いには、いささか感動してしまったほど。いやあ、やっぱり立花道雪ほどの人が、ただの怪人役では役不足だもんなあ。咲耶花が後半、酷いヤラカシをやってしまうこともあってか、むしろ心情は道雪・ニコラ・テスラよりでしたよ、うん。
咲耶花は、さすがにあの失態は組織の長としてはやってはいけない事のオンパレード過ぎて、思わず感嘆してしまった程でした。これについては、弟くんがもう遠慮なしにガツンと言って、バッサリ切って捨てている。この際の厳しい物言いは、なかなか他ではお目にかかれないくらいの弾劾で、普通ならそこまでしっかり言われたらまあ今後気をつけてくださいよ、と許してあげてもいい気になるものですが……それでもまだ足りないだろうと思ってしまうくらいに、見事な自爆だったんですよねえ。ドツボにハマるにしても、限度があるだろうってくらいにやらかしたもんなあ。実際、これは時代が時代なら即座に腹切りお家断絶。現代でも速攻で懲戒免職処分ものだわ。正直、二度目など許されないレベル。
明らかにあの暴走性は性格的なものを超えた病気のレベルなので、本人がどれだけ本心から反省しても完全に治るかは怪しいんですよね。どう見ても、自分でわかってて止められない、という風情だもん。なので、意外と
咲耶花個人には悪印象はないんですよね。性格的に可愛らしく皆から慕われ、支えたいと思わせる女の子だというのは非常に強く伝わって来ましたし。だからこそ、あれは可哀想。権限持たせると自分も周囲も不幸になってしまうタイプだわ。素直に弟くんが全権司令官に座ればいいのに。ああでも、卑弥呼である以上一度突っ走れば有無を言わせず周りに意志を強いる事が出来てしまうのだから、名目上の組織での地位とかは肝心なときには意味がないか。
これで、主人公が剣化しながらも主導権を握れるスタイルだったら、上手いこと行ってたんでしょうけどね。一兎は、爺さんに連れられて世界中を旅してきたせいか、精神的に非常に練れていていい意味で動じない安定した人格の持ち主ですから、不安定な咲耶花を結構上手いこと扱えると思うんですけれど、主体が咲耶花の方にあるせいか、どうも上手いこと機能してなかったんだよなあ。相性ピッタリだし、呼吸と意思が合わさった時の伸び方は抜群で、傍目にも良いコンビに見えるだけに、この立ち位置の噛みあわなさ故の微妙な機能不全がなんとも残念でした。
とは言え、結構好きなんだよなあ、こういう作品。細部での文章の連ね方の丁寧かつ絶妙な巧さとかは、流石は大規蓮司という妙がありましたし、どう聞いてもセックスの暗喩にしか思えない、剣化合体時の咲耶花と一兎の掛け合いといい、面白かったんですよね。
ラストの、爺さんの正体が明らかになった時など、主人公に託されたものの熱さにテンション上がりましたし。ってか、爺さんの素性を見た瞬間にテンションあがりましたけどね。あれは反則よー。
出来れば二巻三巻とシリーズ続けて、この世界観掘り下げていってくれたら、もっと楽しめそうだったんですけどね。やっぱり一巻完結なのかしら。