猫にはなれないご職業 (ガガガ文庫)

【猫にはなれないご職業】 竹林七草/藤ちょこ ガガガ文庫

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吾輩は猫又である。化け猫と一緒にするな!

凄腕陰陽師として名を馳せた春子が寿命で亡くなり、唯一の肉親を失った孫・桜子。悲しみにうちひしがれる彼女を見守る者がいた。飼い猫・タマ。タマは妖怪・猫又であると同時に陰陽師として春子の相棒だった。人語を解するタマは「まだ家族はいるぞ」と伝えたい。だがそれは出来ない。生前から春子は「桜子には陰陽師について何も知らないまま生きて欲しい」と願っていたからだ。しばらくして桜子の親友である命が声なき声に操られ、春子によって施されていた封印を解いてしまう。それはかつて桜子を喰らわんと襲ってきた妖怪。伝説の妖狐九尾にせまる八尾だった。
だが自分の死で封印が弱まる事を考えていた春子はタマと共に備えていた。桜子を守るため、タマは八尾の封印を破ってしまった命に協力を要請する。春子亡き今、変わりに人手がいる。
初めはタマが話すことに驚く命であったが、徐々にタマの想いを理解する。
『桜子を助けたい』
それが1人と1匹に共通する願いであった。そして八尾襲来。タマが八尾の圧倒的強さで絶対絶命になるが、なんとか囮になり目的地へ誘導。タイミングを合わせ命が、春子とタマの全てを込めた、陰陽道の真髄「蒼龍」を解き放つ。
まさに新たなるニャンコ先生爆誕!! なんだよ、帯のおっさん猫又ってフレーズは(苦笑 まるでうらぶれた中年みたいな言い草だけれど、そんな事は全然無いんだからね。おっさんはおっさんでも、さながら草鞋を脱いだ侠客のごとく漢の矜持と娘への情愛に満ち溢れた渋くイカしたおっさん猫又なのである。それでいて、現代の世情にも通じていて携帯電話を自在に操り、BLやネットスラングといったアングラにも理解が著しい、情報と機械に強い猫又なのだ。現代の陰陽師たるもの、時代に合わせたツールに長けていなければ一人前である。
しかして趣味は酒と煙草。斯くの如くハードボイルドな先生であるからして、別段魔法少女のプリントがくっついたリュックサックを背負っているからと言って、可愛らしいニャンコっぷりをアピールしようとも無意味なのだ。ハードボイルドと可愛らしさは相入れぬ! 実際、ビジュアル的にもタマ先生はチョイ悪イケメンすぎて、見た目全然可愛くなんてないですからねっ。かわいくないけど、マジカッコいいっすから。表紙をご覧頂ければわかるように、マジイケメンっすから!!

という訳で、こんなチョイ悪中年イケメン猫又陰陽師を主人公として、ややもコメディタッチにおくられる妖異譚なのでありますが、中身を見ると「陰陽師モノ」としては相当にガチな作りだったり致します。陰陽術とそれに纏わる諸々の術式、呪詛、呪いごとなどについての取り扱いはかなり本格的で、少なくともなんちゃって陰陽師モノとは程遠い出来栄えでした。人を呪わば穴二つ、じゃありませんけれど、呪いや妖魅の領域を取り扱っているだけあって、人死の様子は酸鼻を極めますし、コメディタッチな語りの割に一転して仄暗くタールに塗れたような重たい雰囲気は、作品に質実とした歯応えを与えてくれます。
ただ、そんな重たさを猫又陰陽師タマの心の強さと愛情が、命の桜子への友情の厚さが見事に背負いきり、読後に一風清々しいまでの清涼感を与えてくれるので、仄暗さにも負担を感じないんですね。……まあ、あの娘さんはもう手遅れなくらいに「腐って」いるんで、清々しいと言うにはためらいもあるんですが。
まったくもって「腐って」ます。
ってか、一般人にも関わらず、図らずもタマと協力して春子を襲う怪異と相対するハメになる神波命嬢なのですが、腐女子は腐女子でも、相当にレベルの高い腐女子です。相当どころじゃないかもしれないがな! なにしろシャープペンシル×芯、消しゴム×消しゴムカバー、赤ペン×青ペン×黒ペン、でイケるほどのハイレベル。もはや、人類の限界を突破しすぎてる! 授業中に何やってんだ、この娘はw クラスメイトの生暖かい視線が、余計に腐敗を進めている気がしないでもないが……。これ、残念すぎて男寄り付かんだろう。
唯一残された家族を失って傷心の親友のために、すんなり命を賭せるほど、猫又のために身を呈せるほどの、この娘もまた内面イケメンの勇気あるカッコいい娘さんなのになあ……でも、腐っているなら致し方なしw

ともかく、物語そのものの質が、語り口の滑らかさが、実にクオリティが高くて、読み易いは土台からキャラからしっかり作られているわ、なにより面白いわで、新人作品としては出色の出来。これは手放しで絶賛したい。すんごい面白かった。
泣かされるシーンもなかなか多くて、タマの命への気持ちや桜子を守るための覚悟、清十郎への親としての想いなど、胸を突くような心情描写も素晴らしかったのだけれど、何よりあの清十郎の一連のシーンが反則級。
犬神を作り出す凄惨なシーンにも関わらず、あの犬の忠心には泣かざるを得んだろう。なんて、悲しく雄々しい呪詛なんだろう。それが、翻って守るはずだった桜子の脅威となる悲劇さ。そして、タマの、命の、清十郎の、桜子の、家族を思う気持ちが報われ救われる、慈愛と感謝に充満た結末。
胸が熱くなる感動でした。ああ、良かったなあ、と心から思わせてくれるお話でした。

このまま本作の続編を続けてくれてもよし、新しいシリーズをたちあげてくれてもよし。いずれにしても、これほどのデビュー作を見せてくれた新人さんです。次回作は凄く期待しちゃいますよ。
素晴らしい良作でした。タマ先生に乾杯!!