東京レイヴンズ7_DARKNESS_EMERGE_ (富士見ファンタジア文庫)

【東京レイヴンズ 7._DARKNESS_EMERGE_】 あざの耕平/すみ兵 富士見ファンタジア文庫

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『D』による陰陽塾襲撃事件からしばらく。その傷跡は大きく、陰陽塾は一時閉鎖に追い込まれ、退塾する生徒も続出していた。そんな中、『D』と大友の熾烈な呪術戦に心を奪われたままの春虎は、夏目とともに訪れた陰陽塾屋上の祭壇で、一人の少女と出会う。「君たち二人のことはよく知ってる。初めまして―ぼくは相馬多岐子」。その出会いが、のちにもたらす意味を知らないままに。時同じくして、呪捜部公安課による双角会掃討作戦が密かに始動。陰陽庁内部に潜む“敵”の炙り出しが行われるのだが!?―。
春虎、覚醒編! 七巻にして遂にと言うべきか、はたまた漸くと言うべきか。何れにしても、どれほど大きな呪力を持とうと未だ雛鳥にすぎなかった春虎が、まさに「本物」への階段へと脚を踏み出した、或いは踏み入れたのが今回のお話。
覚醒編、と言っても単純にこれまで秘められていた力が目覚めました、なんて安易な展開じゃないのはあざのさんとしてはもう当然でしかないか。これまで、いわば才能に頼りきった戦い方をしてきた春虎にとって、道満と大友先生の戦いを目の当たりにしたことは、文字通り意識の変革であり未知を認識した瞬間だったのだろう。彼にとって、それは自分を囲う枠の拡大だったはずだ。つまり、イメージの拡大であり自分に課した限界の拡大である。人は、認知できないものは求めることすら出来ない。手を伸ばせば手に入れられる宝物でも、その存在を認識していなければそも手を伸ばそうとも思わない。
春虎にとって、大友先生の戦いは、イメージすらしたことのなかった境地だったのだ。
しかし、彼はそれを見た。認識した。つまりは知ったのだ。知ったのならば、行こうと思える。辿り着こうと考えられる。求めることを欲せられる。

彼が特殊だったのは、その初めて目の当たりにしたはずの境地を、多分知っていた事なのだろう。しかし、土御門春虎にとっては、真実未知だった領域である。その齟齬が、彼に戸惑いを与え続けていたのだ。
さながら、自分がかけていたメガネのピントがまるで合っていなかった事に初めて気づいたように。だがそれは、おそらく春虎が春虎であるならば、合ってはいけないピントだったのかもしれない。
雛が成長となり翼を羽撃かせるのとは全く意味の異なる、羽化が土御門春虎に訪れたのである。それが、同時に土御門夏目の正体が露見してしまった件と時を重ねたのは決して偶然ではあるまい。
あの瞬間、ある意味夏目は生来求められていた役目の一つをひそかに終えたのだ。彼女が男で在り続けなければならなかった真の理由が、散逸したのだ。
この件については、土御門家はほぼ完璧に秘すべきを秘通したのだと驚嘆すべきだろう。なにしろ、ついにその正体を表した黒幕一派が、その言動からしてこの期に及んで土御門家によるミスリードに完全にのせられていると思われるのだ。その暗躍をほぼ完全に伏せ通し、決して無能とはいえないどころか、有能極まる陰陽師の有為たちに対して未だに一部を除いてその存在すら認知させずにいるという、黒幕組織としては際立った力量を示している件の連中をして、土御門夏目が夜光の生まれ変わりだという「事実」を疑いもしていない。
誰が敵で誰が味方か、何をして敵と呼ぶのか、何を持って味方と任じるのかすらわからない混迷の中で、夜光という存在を間に挟んで、無形の鍔迫り合いが火花を散らしている。
相手の姿も認められるその刃を合わせることすらない凄まじい暗闘には、正直背筋が震える思いだ。その中心軸に否応なく放り込まれることになるだろう、春虎、夏目、冬児、鈴鹿たち少年少女たちに課せられたものはひたすらに重い。想像を絶するまでに重すぎる。そして、当人たちは未だ自分たちを取り巻き加速しつつある状況を、真の意味で捉えてはいないのだ。彼らなりに、彼らの知れる範囲で認識した危機意識に基づき、しっかりと覚悟を決め立ち向かおうとしているのに、無残なことに彼らの予測以上にその闇は深く悍ましい。
そんな闇に立ち向かう為に必要な物は、何よりも信頼出来る仲間たちだというのに、それは敢え無く破綻してしまう。
闇から迸るプレッシャーでただでさえ疲弊していた心は、幼い頃から大事に育み慈しんでいた想いを打ち砕く真実に耐え切れなかった。彼女はそうして、背を向けた。
呪詛である。それは人を呪い、自らを呪う負債である。本意のものではない、しかし疲れきった心が発した本心からの叫びだからこそ、それは自らも周りも打ちのめす。自分が発した一言に傷つけられ、打ち拉がれる京子の姿に胸を締め付けられるラストシーンだった。
ある意味、ムードメーカーで調整役で縁の下の力持ちという、何気に人間関係の要だった京子とのこの顛末は、予想以上の亀裂となりそうな予感。なにしろ、倉橋そのものがあれになっちゃったもんなあ。

さて、すず先輩の正体も明らかに……? なったけれど、立ち位置はまだ不明。あの人、一筋縄じゃいかないというか、どうも例の黒幕陣営とは関係してても同調はしてなさそうな気がするんだよなあ。そして、表紙にも出ているあの少女。黒幕陣営の姿見せ、と春虎の覚醒と共に大きく動いた展開だけれど、謎が明らかになってさらに謎が増す、というある意味ドツボにはめられているような流れだなあ、これ。
八瀬童子の扱い方といい、姫の尊称、言動の諸々からして、皇統関係じゃもはや定番と言っていい、あの系統に纏わる流れな気もするが……何れにしても、もっと夜光本人の情報、夜光の時代に何があったのか、当時の人達が何を想いどう行動していたのか。鈴鹿の父親の一件も含めて、過去情報がかなり乏しい状態の現在ではまだ何も判別できないよなあ、これ。

ともかく、夏目が男だと発覚した一件は、京子の事のみならず当人たちの予想以上に衝撃を持って受け止められ、波及していくはず。これに関して、そろそろ夏目が本当に夜光の生まれ変わりなのか、という疑問が生じそうなものなのだけれど……。いいところ、と言っていいのかわからないけれど、また先が気になる全く以て狡猾な終わり方をされてしまい、いいように首根っこを引っ張りまわされている気分である。
続き、早う早う♪

あざの耕平作品感想