カンピオーネ! 12 かりそめの聖夜 (カンピオーネ! シリーズ)

【カンピオーネ! 12.かりそめの聖夜】 丈月城/シコルスキー スーパーダッシュ文庫

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エリカや祐理は護堂の仲間ではない…!?
クリスマスも近づく時期、草薙護堂は心労を重ねていた。
七人目の魔王である護堂を監視するために派遣されてきたイタリアの魔術師・エリカやリリアナからの視線は厳しく、日本の正史編纂委員会からの遣い、媛巫女・祐理は護堂を恐れている。
もう慣れてはしまったが、ギスギスとした雰囲気に居心地悪くも思うため、護堂は彼女たちとの関係を改善しようと思うのだが…。
なぜか護堂には「今」のこの状況ににぬぐえない違和感があって…?
TVアニメ放送開始を7月にひかえ、さらに大注目の新神話第12弾!
神殺しに仲間はいない…!?
一応これはこれで日常回、という事になるんだろうか。
あらすじの不自然さから、護堂たちに精神干渉か記憶操作系の幻術が掛けられたのだろうという予測は立っていたのだけれど、そもそも外部からの魔術干渉が殆ど出来ないカンピオーネである護堂に何故幻術が効いているんだろう、という根本的な疑問から、派生する幾つもの小さな疑問があったのだけれど、それらについては作中にてマルっとちゃんと説明がなされていて、それもいちいち納得できる内容だったので安心した。端的に言うなれば、今回の敵の多くを望まず欲張らずに最低限必要な目的のみを達成するための限定戦術がかなり巧妙の作用していたのだ。絶対的な強者にまず力で対抗するのではなく、その力を使わせないように立ちまわる、というのはそれはそれで卑怯でも何でもなく、戦巧者と賞賛するべきで、護堂もこれについては特に怒ってたり憤っていたりはしてなかったんですよね。多分、彼がカチンと来たのは最後の最後に見苦しく情に訴えて来た所なんじゃないかと思うんです。護堂さんという人は、アレはアレで何だかんだと実に王様らしい人なので、他者を「憐れまない」。憐れまないからこそ、彼は他者を誰よりも尊重するし、それを踏み躙るような相手には怒りを隠さない。そして、敬するに値しない相手は一顧だにしない。
護堂さんは義姉の翠蓮姐さんをとんでもない人のように言ってるけれど、その振り幅はともかくとして性格の方向性は結構似てると思うぞ。
さて、孫悟空編以来の登場となった翠蓮姐さんですが、この人が登場するシーンになると、途端に文章の雰囲気まで中国武侠モノっぽくなるのが面白すぎる。これが、ジョン・プルートー・スミスの場合だとアメコミ風になるので、ぜひ比較してみましょう。
今回は事件自体がそれほど大規模なものではなく、というか原因はあからさまに翠蓮姐さんにあったので、彼女が参戦するなどといった展開はなかったものの、翠蓮姉さんの洞に招かれて、まったりと歓待を受けるというもしかするとバトルシーンなどよりもよっぽど希少なシーンだったんじゃなかろうか。
そうして発覚したのが、翠蓮姐さんの義弟へのダダ甘っぷりである。完全にダダ甘姉チャンじゃありませんか。およそ七十年ぶりに厨房に入り、護堂の為に手料理を振る舞うとか、姐さんどれだけ弟が来るのを楽しみにしていたんだ、と。護堂も珍しく周りの女性の中で翠蓮姐さんにだけは自然体で気を置かずに接しているので、二人のやり取りは掛け引き抜きの穏やかなものとなり、いい意味で緊張感なくニヤニヤできるのでした。ただ、ホントに自然体で接しちゃってるもんだから、翠蓮姐さんぶっちゃけ無茶苦茶な事を言いまくっているにも関わらず、護堂さんてば多少困ったふりをしてるけれど、全然無茶ぶりされてると思ってないんですよね。自然体過ぎて、魔王としての本性が抜き身で引き摺り出されてる気がする、あれ。お陰様で、ダダ甘姉弟のイチャイチャシーンにも関わらず、超常の存在が人倫の壁の向こう側で語らっている仙郷魔境のワンシーンにしか見えないという罠、なにこれ?(笑

さて、これまで築いてきた絆の記憶を失い、自然と疎遠になってしまった護堂さんと彼の女たちでありますが……ぶっちゃけ、疎遠になった程度なら何の問題もないんですよね。あの呼吸するように女をメロメロに落してしまう護堂さんが、疎遠のまま放っておくわけがないじゃないですか。ただでさえ、記憶の整合性については曖昧で虚が大きすぎる状態、ちょっと話せば簡単にしっくり行ってしまうのを感じ取れるくらいに身も心も合わせてきた女たちである。ちょっと一緒に過ごせば、途端に前とさして変わらない距離感に。いや、他の女たちと張り合ったり、これまでの経緯がない分、逆に自然にただの男と女として日常を過ごせたんじゃないだろうか、特にリリアナ。やっぱり、エリカは一番のパートナーだけあって、意気投合するのも一瞬だったんだけれど、彼女の場合切れすぎるから、そうなったらすぐにからくりに気づいちゃうんですよね。実際、エリカ、護堂と接触したら即座に状況の不審さに気づいて、全部解いちゃいましたし。その意味では、リリアナは鈍すぎる気もするんだけれど、その分存分に楽しんでたんだなあ、うん。
ハーレムの中で、リリアナが一番少女らしいという護堂の感想には全く納得。前は祐理の方が家庭的なのかと思ってましたけれど、実はリリアナの方がよっぽど家庭的で若奥様って感じなんですよね。ぶっちぎりでエプロンが似合うヒロインw こうして見ると、ひかりを加えて、ちゃんとエリカ、リリアナ、祐理、恵那と女性のタイプとしても、嫁のタイプとしても異なってバラエティに富んでいるのが見て取れて面白い。
と、同時に、ここに陸鷹化、甘粕冬馬、沙耶宮馨が加わることで、極めて高水準にバランスの取れたチームが現出する。個々の能力と共にその連携、バリエーションの充実度、後方の支援組織も加味すれば、草薙護堂は少なくともバックアップ体制においては容易に他のカンピオーネを凌駕していると言ってもいいだろう。自らの魔術結社を持っている黒王子アレクを始めとして、他のカンピオーネたちもちゃんと支援体制を築いてはいるものの、最終的にどこまでも唯一無二の単騎独行であるカンピオーネを、ここまでガチンコで支えられ、共に戦えるのはやはり草薙護堂一味だけに見えます。その意味では、確かに彼女たちこそが護堂のカンピオーネとしての強味だよなあ。その強みを削ってきた今回の敵は、目の付け所はさすがの着眼点だったと言っていいのだろう。詰めが悪かっただけで。

さて、幕間回、の気配もあった今回ですが……さすがにこれ、一連の最後の王に纏わる事件とは無関係のはず無いですね。あの棺で眠っていた神の亡骸もまた、最後の王と繋がっていたのではないでしょうか。それに、今回もミトラスの名前が出てきたのは無視できない要素ではないかと。結局、誰も彼もがミスラ=ミトラスと繋がっているんですよね。こうなってみると、あのペルセウスが生き残らずドニに始末されたことすら、ただの敗残処理なのではなく、最後の王の復活に纏わる意味のある結果だったのではないかと思えてくる。あの示唆からすると……もしかして最後の王って……ふむ。もし、この想像が当たっていたら、ラストバトルって本気でとんでもなく凄いことになってしまう。うははは、想像あたっててほしいなこれ。

シリーズ感想