あまとう! 3 七瀬甘るりは不在につき (MF文庫J)

【あまとう! 3.七瀬甘るりは不在につき】 二階堂紘嗣/▽ MF文庫J

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無所属・平穏・帰宅部を目指していたはずの俺こと葉山一樹は、暴君七瀬甘るりによって軽音楽部でボーカルをやることになってしまった。部のメンバーはギター甘るり、ベース由亜、ドラム嬉野さん……と美少女(見た目は)に囲まれてはいるもののことはそんなに簡単ではない。文化祭に向けて練習を強化しなくてはいけない今このとき、甘るりにプロのお声がかかり、甘るり不在のまま夏合宿が始まってしまった。嬉野さんも由亜も、妹の千早も傍にいる。レスポールを手に入れた俺は今こそ、甘るりに何か伝えられるだろうか。世界中のマイノリティに贈る、爆音系ラブコメディ第三弾!
このシリーズ、感想書くのはこれが初めてなんだが、これで完結なんだよね。二階堂さんは先の2シリーズも三巻で終わっちゃってるので、ぜひ三巻の壁を越えてもらいたいと思ってたんだけれど、残念ながら今回も叶わず。確かに、二巻までは特にピンと来る内容ではなかった。軽音楽部で音楽をやる子たちが主人公のわりに楽器や音楽に対しての掘り下げも少なかったし、何より主人公が音楽への情熱をまるで持っていませんでしたしね。甘るりに強引に手を引っ張られてヨロヨロと付いて行っていただけみたいな所がありましたし。そもそも、この余りにも「MF文庫らしい」特に中身無く女の子とワイワイ賑やかに騒いでるだけ、みたいな話に特徴が感じられず、他の似たようなのと差別化がつくわけでもなく、感想書こうにも言及すべきものが何にもなくって、それでこれまで記事は書かずにスルーしていたわけです。
でも、この作者さんのシリーズは欠かさず買ってるんですよ。デビュー作の【ナインの契約書】はそれだけの価値があった三巻で終わるのが勿体無いシリーズだと思ってますし、作者の筆力が劣化しているとも思わない。このシリーズだって今まで面白くなかった訳ではありません。ホントに面白くないと思うようになったら、そりゃもう買いませんし。ただ、ちょっと実際書かれているものと、作者に期待しているものが噛みあってないなあと、残念に思いながら眺めていました。
ところが、この完結の三巻目で……ピリピリっと来たんですよ。あ、これじゃないか? と感じるものが伝わってきたのです。
やっぱこの人、単にゆるゆるのラブコメじゃなくって、軽いノリではあってもガチの青春モノで書いた方が絶対いいよ。ナインの契約書でもそうでしたけれど、メッセージ性のある話……というのとは少し違うか。なんて言うか、気持ちを伝え合うこと、それも自分の中でグルグルと煩悶し撹拌した具体的な名前の付けられない感情の塊を、そっと手渡しで交換しあい、気持ちを感じ取り合うという青春ならではの友情と親愛と恋愛感情がブレンドされた異性間の交流。そういうのを書かせると、二階堂紘嗣のお話です、という独特の味が文章の隙間からにじみ出てくるんですよ、この作者は。
それを実感したのが、ヒロインである甘るりが姿を消し、手の届く場所から居なくなってしまったことで漸く主人公が彼女を本気で追いかけだした展開からでした。相手が居ないからこそ、真剣に、時間をかけてその人の事を考え思う、自分の心のなかの探訪の日々。
そこから生まれ出る、素朴な歌の歌詞。変にこなれておらず素人丸出しで、でもだからこそ加工されない心情がそのまま吹きつけられた歌の歌詞が、断片的な伝聞から垣間見える迷走し笑顔を失っている甘るりの現状とらせん状に絡み合い、吹っ切れたようなラストシーンへと繋がっていく。甘るりが一時的に戻ってきて、ほんの瞬間、弱り切った心の中をさらけ出して駆け去っていったあのシーンからラストシーンまでの一連の流れこそ、まさに青春モノの真骨頂で、変にテンションを上げずにどこか訥々と自分の中の感情の渦を定まらないまま形にしていった主人公のあの姿こそ、そして好きだの愛してるだのわかりやすい言葉を繋げず、ただ益体もないいつも通りの軽い会話と触れ合いを以て、そのシーンに流れる空気だけで確実に変わった二人の関係、二人の距離感を表現する。あれこそが、まさに私がこの作者に期待していた作品の雰囲気の、さらにも一個上のところにつま先を引っ掛けたモノだったと思うのです。
残念ながらこのシリーズは三巻で終わっちゃったけれど、この後半で見せてくれたものがえいやっと踏み切る一歩だったとしたら、次のシリーズこそは……。
期待…してますよ?

二階堂紘嗣作品感想