吼える魔竜の捕喰作法(バルバクア)2 (HJ文庫)

【吼える魔竜の捕喰作法(バルバクア) 2】 内堀優一/真琉樹 HJ文庫

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ただ倒すためでなく、美味しく食べるためにドラゴンを狩る肉屋の青年タクト。謎多き彼の身辺調査任務についた騎士の少女シェッセは、すっかり肉屋の一員として、タクトたちと過ごすことが楽しくなっていた。
そんな折、シェッセはタクトと一緒に泊りがけでドラゴン狩りへと出かけることになるのだが、そこでリュカの秘密を知ることになり――。
なにこれ面白い!? 作品の雰囲気は一巻のそれから全然変わっていないにも関わらず、作品のジャンルというかスタイルというか、主眼とする部分がガラッと変化していて驚いた。いやはや、これは驚いた。でも、雰囲気は一緒だから、一巻とはまるで別の作品じゃん! という訳ではまるで無いのが実に面白い! 一巻はシェッセという、立場的には完全にヒロインポジの女の子を主人公にして、本来主人公的な存在であるタクトを相方に回すことで、普通のファンタジーとはちょっとだけ位置をズラした面白い視点で描かれた成長譚だったんですが、あくまで主体は竜を倒すぜー、なファンタジーでした。倒した竜を美味しく食べるよー、というか美味しく食べるために上手いこと竜を倒すよー、な設定はそれはそれで珍しく面白いところだったんですけれど、正直物語の中のウェイトとしては味付けくらいの印象だったんですよね。竜を食べる、しかも美味しいと言われてもどうしてもゲテモノ食材的なイメージがつきまといますし。
だから、この「食べる」という部分はタクトが肉屋であり、さらにリュカの秘密がある以上、物語の要素として必要不可欠ではあっても、特に重要視する部分じゃないんだろう、と意識もしていなかったんですが……。
二巻読んで、驚きましたよ。
く、喰いラノベになってる!?
いやもう、びっくりするくらいに食事シーンがやたら多い。かなりのウェイトが、収穫、食材見聞、下拵え、調理、実食、ごちそうさま、に占められている。その上、本作の特色である「竜を食べる」には拘らず、むしろタクトの日本食文化の方に焦点を当てつつ、食材も一般人が扱うようなものを使っての普段の食事、普通の食卓に描写を傾けているのだ。
そして何より、これがめちゃくちゃ美味しそうなんだわ。食事シーンが見てる読んでるこっちまでお腹が減るほど美味しそうな作品は名作、というのはジャンルを問わずに共通する話だと思うけれど、それに当てはめるなら本作は実にお腹が空く良作でした。豪華で特別な料理ではなく、旅の空での簡素な食事だったり家庭料理だったいするのに美味しそうなのが肝だよなあ。
一巻ではここまで食事シーンに力は入れてなかったと思うんだけれど、この方向へのハンドル切りは大英断じゃなかろうか。飯食いシーンが美味しそうな本って、結構何度も読み返してしまう所があるし。

と、そんなお食事パートの濃さを踏まえた上で、一緒の屋根の下、同じ食卓、同じ厨房、同じ野営地で一緒に買い物し、或いは野で食材を収穫し、一緒に調理し、一緒に食べてるシェッセとタクトがもう完全に新婚の若夫婦です(笑
もはや、イチャイチャを通り越して御似合いすぎるw まだイチャイチャするにも至っていないんだけれど、その辺すっ飛ばして馴染んじゃってるよなあ。
面白いのは、リュカの存在がいい味付けになっているというところ。一巻の段階ではこの娘って、タクトの相棒でありシェッセと張りあうヒロインなのかと思ってたんですけれど、そうじゃなかったんですね。この巻を読むと、リュカは人間としては自立していても、女性として立脚する以前の子供、童女だというのがよく分かる。そして、タクトはリュカの相棒ではあるものの、むしろ保護者というウェイトの方が重く、更にいうと兄貴よりも若い父親って感じなんですよね。そうして振り返ってみると、タクトとシェッセとリュカの関係は子連れの若い男とその後妻に入った少女、というスタンスに落ち着くわけですよ。

なにこれ萌える

そういえば、リュカって最初はシェッセと微妙に距離を置いて、なかなか心を開いてくれませんでしたけれど、あれって新しいお母さんと子供の関係としてみたら、なかなか滾るものがある。シェッセがリュカと仲良くしようとあれこれ手を尽くしていたのも、また違って見えてきますし。
てっきり姉と妹くらいの関係になるんかと思ってたんだけれど、リュカが踊っているのを見てキュンとなったり、リュカを膝の上に載せて一緒に御飯食べたりしているシーン見てたら、確かに友達とか姉妹よりも母子と言った方が似合うんですよね。
僕っ娘お母さんですよ。なにこれ萌える。
リュカもリュカで可愛いんですよね。健気で子供らしい献身さにあふれている。あの幼稚園でのお遊戯めいた踊りと歌は、確かに鼻血レベル。あれは可愛すぎるよ、録画しないとまずいですよ。親がカメラ持って七転八倒するのもアレはよく分かる、うん。
その上で、連れ子らしい遠慮と配慮、そしてタクトとシェッセへの感謝と好意がリュカからはひしひしと伝わってくる。いや、連れ子じゃないんですけどね、別に! ただ、当てはめると実に似合うんだよなあ、うんうん。

そして、シェッセである。もうこの娘、文句なしに可愛いわ。なにこのかわいいボクっ娘、最強だろ。なんか語りだすと、此処が可愛いよシェッセさん論で延々と終わらなくなりそうなのでやめときますけど、こんな子に毎日味噌汁作るよ! と言われたタクトはもう命賭けろよな、おい。

さて、その本来なら主人公格にあるタクトなのですが……こいつ、てっきり異世界人、現代日本から召喚でもされた奴なんだと思ってたんですが……予想と微妙に違っていて、ちと見る目変わった。
そうかー、そうだったのか。明確な自我が確立する前だったとしたら、アイデンティティも曖昧になるわなあ。だからこそ、彼の師匠は同化させるのではなく、拠り所となるものを彼に与えたわけだ。ただ、それは彼に安定をもたらしたのだとしても、潜在的に自分が居場所のない異邦人、心の奥に帰りたい場所を刻んだまま取り残された稀人であり続けることを決定づける事にもなってしまっている。幼かったが故、だなこれ。タクトが最初の予想通り、召喚されたのが最近で既に大人だったとしたら、このあたりは明確な意思の上で処理される問題なんだろうけれど、小さい頃にこれだと無意識レベル、在り方の根源に基づいちゃうから、なかなか自分の意思や精神力とかでは儘ならない。
だからこそ、シェッセの味噌汁は思いの外重要なポイントだったんじゃないだろうか。マレビトであるタクトの「ホーム」に、帰る場所になれると彼女は示したわけですから。
もうマジであれがプロポーズでもいいんじゃね?

とまあ、今回は二人の、いやリュカも含めて三人の関係を進展、というか在るべき形を整えるようなお話でしたけれど、ひたすら家庭的な方向に突っ走っているシェッセの想いとは裏腹に、彼女の「運命」は着々と鎌首をもたげてきている。竜伐騎士の兄ちゃんたち、どうも既に色々と知ってるっぽいなあ。
なんかもう、この家族の形を壊されるのは本当に嫌なので、なんとかシェッセとタクトには頑張って欲しい。そして、シェッセの実家訪問もタクトには頑張って欲しいな、うんw
超親ばかっぽいシェッセの親父さんだけれど、案外タクトと意気投合しそうな気もするんだよなあ。いずれにしても、面白くなってきたという以上に、このキャラクターたちが好きになってきた。次回が楽しみです。

1巻感想