黒鋼の魔紋修復士2 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 2】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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妖艶なる“氷のまなざし”――カリン・ルドベック出戦!
最低最悪の相性ながら、何とか初任務を成功させたヴァレリアとディー。その一件から“魔紋”を消す力の存在を知ったイサークは、ディーの愛剣ジャギエルカの開発者であるキケから、かつてともに“魔法工学”を研究していた人物の情報を入手する。そしてその者が滞在していたというビラノバへ、ヴァレリアたちに加え、もう一人の“神巫”カリンを派遣することに決めるのだが――!
正反対の二人の“神巫”が、“神聖同盟”を取り巻く暗雲に迫る第2巻!

あのヴァレリアの「〜〜だし」という語尾が思いの外頭悪そうな印象を付与するのに効果を発揮してるんだよなあ。何を喋っていても、この語尾のお陰で言葉が軽くなり、どれだけ一生懸命発言しようとも薄っぺらなイメージばかりが重ね塗りされていくのである。さり気ないけれど、この印象操作はなかなか見過ごせない。実際は中身の無い言葉しか語らなくても、喋り方が知的に見えるだけで何か意味深い言葉を発しているように見えてしまうように、ヴァレリアだってもっと普通のお嬢様っぽい喋り方だったりしたら、ディーにやり込められる姿にももう少し違和感やディーへの反感が付きまとったかもしれない。そう考えると、ヴァレリアのキャラクターというのは見事なくらいにバッサリ切られるための仕様にカスタマイズされている。

ヴァレリアって、ホントにあそこまでディーにギッタンギッタンに言われるほどどうしようもないアホの子じゃあないんですよ。そりゃ、認識は甘いし世間知らずだし察しは悪いし自分の立場がよくわかってないところは多々ありますが……なんか見てて身につまされるんだよなあ。人間誰でも、一を聞いて十を知る、なんて出来るわけじゃないんですよ。一から十まで全部聞いて、やっと半分解かるくらいが精々の人だってたくさんいるんです。自分とか! そんな、解って当然、事前に準備してて当然、それぐらい察して当然、みたいな顔しないでください。そりゃ、努力がたりないのは事実です。やるべきことを何もしてなかった、何をしていいのかもわかってなかったというのもその通り! 悪いのは自分であって、要求を満たせないのは自分であって、別に無理難題を言われているわけでもなく、自分のできる範囲のことをしっかりとやれ、と言われているのも当然わかるんです。能力的なものじゃなく、単純に心構え、心掛けの領分なんですよね。才能とか関係ない、仕事への姿勢や向き合い方の問題。
それがわかるからこそ、ヴァレリアだってキャンキャンと犬みたいに吠える事なく、ぐぬぬ、と悔しさと恥ずかしさを噛み締めてうつむくほかないんですよね。もう、その姿が身につまされて身につまされて……胃が、痛いです先生(笑
彼女をアホだの無能だのと軽蔑したり罵ったりするのは、モロに天に唾するような行為なので、とてもとてもw
むしろ、一緒になってディーのザクザクとナイフで切り刻むような辛辣な指摘の数々に、ヴァレリアと一緒になって涙目です。もう勘弁して下さいw
さらに、今回はカリンというヴァレリアと同期で同世代で同じ神巫という実にわかりやすい比較対象が居るために、どうして彼女にはできているのにお前は出来ないんだ? という強力極まりないボディーブローがこれでもかと叩きこまれて、完全にグロッキー状態。
よくまあ、ヴァレリアは心折れないよなあ。
むしろ、元々は普通のお嬢様なのに、あれだけ普通に隠密働きが出来るカリンのほうが変なんですよ、うんうん。などと、自分を慰めないヴァレリアはそれだけで偉いと思う。いや、この娘ホントに偉いですよ。確かに今は何にもできないし、自分のできる範囲のことすらちゃんとできていないんだけれど、そもそもこんな影働き、どころか現場や実戦とは縁のない世界で生きてきたヴァレリアには、何が自分にできる範囲のことで、意識を高く持つにしてもいったい何を意識すればいいのかもわからない。絶対的に知識と経験が足りていないわけです。でも、それを絶対に言い訳にはしないんですよね。出来ないことを当然と開き直らずに、この娘は恥ずかしいと思い、悔しいと唇を噛み締めてみる。勿論、滅茶苦茶バッサリと言ってくるディーのことはもうむかついて仕方ないんだけれど、言っている内容について反発したり拗ねて受け入れなかったりすることはしないんですよ。
確かに、今は「使えない奴」なのかもしれませんけれど、きっと「今は」にすぎないんでしょうね。時間は掛かるかも知れませんが、あれだけ自分を恥じる事のデキる子が、負けず嫌いでめげなくて反骨心にあふれた子が、いつまでも現状にとどまっているとは思えませんし。
ディーは、優しくしろとは言いませんけれど、いつかは認めてやってほしいなあ。
それに、本当にどうしようもない子だったとしたら、あのカリンが友達付き合いしてるわけないですもんねえ。一時は、ヴァレリアが一方的に友達だと思い込んでいるだけで、カリンは全然友達だとか思ってないんじゃないかと心配もしたのですが、ラスト近辺の様子を見ていると思いの外カリンの方もヴァレリアの事信頼している、というか親友として心を預けている節が伺えて、安心したというか肩の荷が降りたというか。いったいどれだけヴァレリアに共感だか肩入れしてるんだか(苦笑 だから、ヴァレリアは仕事は出来ない子かもしれないけれど、ちゃんと気配りも出来て勇気もあり決断力も身を賭す気力も、友を慮る優しさもある、いい子なんですよ。普通はそっちが強調されるんだけどなあ……嬉野さんの手にかかると、見事にメッタ打ち要員に(笑
なんかこう、カリンにしてもディーにしても、あの皇太子様にしてもみんな並外れて「デキる」人達ばっかりなだけに、ヴァレリアみたいな子はある意味癒しでもあるんですよねえ……別にヴァレリアみたいな子が正論で論破され辛辣にされて涙目になっているのが好きだとかそんなんじゃないんだからね♪
同じ出来ない人でも、今回の哀れな黒幕さんみたいな自意識ばっかり肥大してしまった人は、目を覆わんばかりの痛々しさばかりが募って、共感どころじゃないからなあ。あれこそはヤラレ役である。しかし、あの御仁への言い方を見てると、ディーって単に口が悪いだけじゃないのかとも思えてくる。いや、実際単純に口が悪いだけなんだろうけどw

で、肝心のヴァレリアとディミタールの関係だけれど……なんか、さらに仲悪くなってないか?w
カリンの方も、相棒で従姉妹の魔紋修復士の人と微妙に仲良くないというか、ギスギスまではしてないけれどえらくサバサバとして距離置いた関係なんですよね。こいつら、こんなんばっかしかよ(苦笑

一巻感想