はたらく魔王さま! 5 (電撃文庫 わ 6-5)

【はたらく魔王さま! 5】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫


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 修理の終わった魔王城(築60年・六畳一間のアパート)がなんと地デジ対応に! テレビなど贅沢品と思っていた魔王だが、ついに薄型テレビ購入に踏み切る。家電に詳しくない魔王たちは、恵美の会社の同僚・梨香を誘い、大型電気店に向かうことに。なぜだか異世界の聖職者・鈴乃もそれに便乗し、魔王一行の“お買い物ツアー”がスタートする。
 そんな中、魔王に恋する女子高生・千穂に危機が迫っていた──!
 フリーター魔王さまが繰り広げる庶民派ファンタジー、第5弾登場です。
そうかー、本作が鈴木梨香を通じて阪神の大震災について触れている以上、東北の震災についてどうするのか、という問題があったのか。どうやら、本作ではそれについては起こらないものとして描いてくと決めたようですけれど、そもそこまでリアルな日本を描くことについて深く考えているということにこそ好感が持てる。元々、びっくりするくらい生々しい生活感を作中の端々、或いは隅々から感じ取れることこそこの作品の醍醐味だと思ってましたけれど、そのリアリティにはちゃんと作中の世界が西暦の何年何月という細かいところまでキッチリと定めた上で描かれていたのだという事実に驚嘆すると同時に納得したのでした。いやあ、もっと曖昧に「現代日本」という適当な括りでやってるのかと思ってた。でも、確かに事細かに作中時間を決めておかないと、何気なく使ってる日用品の流行り廃りや、社会時勢の流れ、物価や電気水道代などの料金時価など、ナマの生活の声を感じ取れなくなってしまうのかも。
今回は魔王城の地デジ化、というお話なんですけど……価格からして作中の時期と現在とではやっぱり値段違うんですよ!! 私もこの春、ようやく液晶テレビをBDレコーダーと合わせて購入したのですけれど、魔王様たちの購入プランと比べると、かなり自分が買った時のほうが安かったんですよね。自分の時でも、まだ魔王様たちが出した金額ならもうワンサイズかツーサイズ大きなサイズのテレビが買えたはず。そう考えると、液晶テレビの値崩れがどれほどの規模で進んでいたのかというのを、なんだか生々しく実感させられてしまった。そりゃ、家電業界のテレビ部門、悲鳴上げるわ。

とまあ、今回は魔王様たちは働く側ではなく、むしろお客様としての立場で家電売場や外食店を回ることになるのですが、これはこれでまた生活感溢れてて面白いなあ。さらに、客の立場から販売者側の様子を見るという視点の転換的な意味合いも篭ってて、これもまた「働く」の一つの意味合いの範疇に収まるのではないかと。
そして、それとは別に、恵美がもう完全に若いお母さんなんですけど(笑
なんかもう、一番の山場を乗り切って赤ちゃんの扱いに心身ともに慣れきった頃の、手慣れた様子で赤ん坊の世話をする若いママさんそのもので、とてもじゃないけどこの勇者がまだ誰とも結婚していないどころか、恋人すら居ない独身女性、なんて見えないよ! 降って湧いたような突然の両親の存在の有無も、なんか勇者とか天界との関係とかそっちのけで、子育てに独りで頑張っていたシングルマザーが、突然両親の消息を聞いて動揺しているようにしか見えない!! これで、ちゃんと結婚してたら、旦那さんに相談できるんだろうけれど、そこは真奥と恵美、籍を入れていないしがらみもあってか、気軽に相談もできず恵美も一人悶々と悩む日々。あれで素っ気ないながらも真奥は真剣に悩みを打ち明ければ、親身になって相談に乗ってくれるようなイイ男だと思うんですけどね、赤ん坊アラス・ラムスの事ならまだ母親と父親として相談もできるんだろうけれど……っていうふうに書くと、えらく微妙で繊細な男女関係にある二人みたいに見えるけど、こいつら今のところほんとに恋愛関係とか無いんだよなあ(笑
でも、この二人がアラス・ラムスを挟んでいるとはいえ、仇敵同士この微妙な関係を続けていけているのも、本来異世界と関係ないにも関わらず、深く彼らに関わることとなった千穂の存在が橋をかけているんでしょうね。巻を重ねるごとに、彼女の重要性というのはあがっている気がする。真奥にしても、恵美にしても、芦屋さんや鈴乃といった周りの連中にしても、一番肝心な時の判断の基準として千穂の存在や考え方、自分たちの中での立ち位置というのを目安にしてるっぽい所があるんですよね。客観的にも主観的にも、損得勘定としても情の面からしても、千穂の存在は彼らの中でとてつもなく大きくなっている。だからこそ、彼女に危機が迫った時今までになく迅速かつ積極的に、両者が一致団結して事にあたる事に躊躇がなかったように見えるのだ。
今回の千穂の扱いについては賛否両論あるのかもしれないけれど、個人的には彼女が力を手に入れることに関しては、割りとどうでも良い、と言ったらおかしいかもしれませんが、重要ではないと思うんですよね。彼女は一般人で居て欲しかったとか、力を手に入れて深く事に関われるようになったから良かったとか、もう千穂はそういう括りで捉えるキャラじゃないと思うわけです。どっちでもいいんですよ、本作は別段能力のあるなしが物語を左右するような作品じゃありませんし、能力が無いからと言って本筋からハブられるような話でもない。既に、千穂は無力に対するコンプレックスを自力で克服して前を向いていた節もありましたしね。
ならば、話を回すのに都合がいい、というかやりやすい展開を持ってくることに何の不備もないように思います。ちーちゃんも、うぬぼれたり暴走したりせず、いつも通り自分の身の丈にあった自分に出来る事を一生懸命にやる、という彼女らしいスタイルは全然変わっていないわけですし。

さて、天界の事情、というか天使の素性も徐々にベールを脱ぎ始め、漆原が実はガチで大物だったという事実に目を剥きながら、物語が大きく動き出している状況を今、目の当たりにしているのですが……。
今回、何気に鈴乃さんも当番回だったのかなあ。表紙の一番前は彼女でしたし。ってか、鈴乃さん、魔王城への差し入れにうどんばっかり持ってきていたのは、単に引越しそばを誤解したんじゃなくて、うどん好きな面もあったのか。完全にマニアじゃないかw
そして、一番の見せ場は、あの天使への啖呵でしょう。信仰厚い聖職者が、その信仰の対象を己の信仰に基づき断罪する……聖職者であらんとするが故に、たとえ神であろうと天使であろうと、その教えに背くものを許さない。この異端審問官としての振る舞いは、林トモアキ著【お・り・が・み】のクラリカを彷彿とさせて、実にすこぶるカッコ良かった。悪との慣れ合いの結果だけじゃなく、自らの信仰に忠実であるが故に天と矛を交えるを厭わない。正義や善、ってのはこれだよなあ、これ。

今回、鈴木梨香がついに履歴書登場で顔出しまであったんですが、ショートカットでけっこうボーイッシュなんだ。もっと女っ気強い印象あったんだけれど、むしろ元気よすぎて男慣れしてなさそうな感じで……この娘が、あの芦屋に対して初々しい乙女みたいな反応してるのかー。やばい、ニヤニヤしてきた。
意外と、二人の関係については恵美よりも真奥の方が鷹揚というか、なるようになると考えているのが面白いなあ。いや、恵美がショック受けるのは相手が悪魔大元帥だし、というのもあってよくわかるんだけれど。それに、異世界の悪魔と現代日本の友人が結ばれるとか、異世界を跨いだ恋という現実に戸惑うのもわかるんだけれど……それを、真奥の方があんな風に考えてるとはなあ。伊達に魔王、というか王様をやってなかったって事なのかな。そのぶん、千穂との関係を今後どうしようと思ってるのかが気になるところだけれど、というかそもそも彼に関しては、まだ彼の言う「世界征服」がどんなものかわからないだけに、なんとも言えないのだけれど。
わりと本気で千穂を悪魔大元帥として魔王軍の重鎮に据えようと思ってるのかもしれない。
それはそれで面白そう、と思えるようになってきた昨今でしたw

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