EIGHTH(8) (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 8】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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貴方のために──、やさしく微笑んで…。

バチカンに響く、ルカの死を予感させる発砲音…。「後から行く」と約束したはずなのに…。動揺し、茫然自失となるセルシア。一方のナオヤは、科学アカデミーに呼ばれバチカンへやって来たアンジェラ博士と真理に付き添い、ルカを助けようと再度バチカンに入ろうとするが…。果たして、ルカの安否は──…!? コメディ展開で人気の番外編も収録!!
凄いなあもう凄いなあ。作者のキャラクターの追い詰め方がホントに半端無い。これでもかこれでもかと言わんばかりに精神の崖っぷちに追い詰めていく、追い込んでいく。ふと指先が触れただけで爆ぜてしまいそうなほどパンパンに膨れ上がった水風船を頭の上に載せられたかのように。或いは並々と注がれたカップを持たされ柵の上に立たされたかのように。さっきからバチンバチンと派手な音を立ててワイヤーが千切れている真っ最中の吊り橋の上に居るかのように。セルシアの心が今にも粉々に砕け散りそうになって行くのを、急き立てられていくのを、ただただ見守るしか無い現状に、胃がキリキリと締め上がっていく。読んでいるこっちまで冷や汗だか脂汗だかが止まらない。
もう、ほんとヤバイんだって。あの何だかんだと最悪の環境にめげずに頑張ってきたセルシアであったが、この一件で完全にボーダーを越えてしまった上に、あのルカの行動と別れである。さすがにセルシアでももうあかん、もうあかん。この娘、壊れてまう!!

元々、前作の【機工魔術士エンチャンター 】でも、哲学的問答を通じてこれでもかこれでもか、と主人公たちをアイデンティティーの根底から切り崩し追い詰めていく展開には、いろいろな意味で震え上がったものだけれど、相変わらずこの作者はキャラクターは鍛造して鍛えろ、とでもいう信条があるのかと思うほど、熱して冷ましてガツンガツン叩く叩く。それも、肉体的にではなく精神的に。これでもか、と叩き潰した上で単純な精神論ではなく、どこか哲学的な論述を持って、心を剣へと打ち直して行くんですよね。
普通は折れるよ、心が!!
リオ先生の病気の一件だけでもいっぱいいっぱいだってのに、そこにバチカンのこれだもんなあ。当事者のセルシアも去る事ながら、外枠の人間だからこそ軽々しく踏み込めず決断を強いられるナオヤもまた立ち位置がヘヴィすぎる。これって、わかりやすい正解なんて何処にもないんですよね。どの選択も、誰かを傷つけ、何かを決定的に変えてしまうことになる。結局、所長の言うとおり、そのとき立っていた場所によって何が最善なのか、というのは必然的に変わってきてしまう。絶対的なものなど何処にもないわけです。
その点、所長は自身の立場も含めて非常に俯瞰的に状況を見極めてて、勿論その判断はEIGHTHの所長としてのものなんだけれど、それ以外にナオヤやセルシアの近くにいる大人として物の理、現実の有り様というものを詳らかにすればこんなものなんだ、というのを教え諭すことを厭わないんですよね。一から十まで手取り足取り教えるなんて真似はせず、あくまで彼らが自身で直面し判断した結果がいかなるものか、その将来の展望も含めてわかりやすく解いて説いて問いてるだけ、というのもまた対応が渋いというか……大人としても教育者としても非常に尊敬できる立ち振る舞いである。胡乱すぎる、という声もあるかもしれないけれど、こういうのは結局実感しないと言葉を尽くされても内に浸透しないんですよね。かと言って、実感だけでもそれは理解には程遠いからこその所長の振る舞い、なんだよなあ。

ともあれ、今回はホントにきつかった。これまでの展開が生易しいと言っていいほど、セルシアの追い詰められっぷりの厳しいこと厳しいこと。ダムの決壊並みに、一気に来たもんなあ。
だからこそ、ナオヤの毅然とした態度、リオ先生の献身の聖性、シスターの愛情が染み渡る。
愛は、いつでもそこにあり、いつも注がれ続けていたのだ。どれほど悲惨な境遇でも、不幸を招く人生でも、自分が愛されていたと知ったなら、守られてきたのだと解ったなら、苦しくても辛くても生きていける。
セルシアは、ホントに頑張ったよ。もう、泣きそうになるくらいに健気に、絶望から立ち上がった。傷だらけになりながらも、自分を切り捨てなかった。偉かった。
だから、もうあのご褒美は貰えて当然だったと思う。
……あのシーン、目にした時には比喩抜きで全身から安堵で力が抜けた。いやもう、どれだけ体中強張ってたんだと、笑ってしまうくらいに。それだけ、そのシーンに至るまで読んでるこっちまで肩に力が入り、瀬戸際ギリギリの緊張感に息を止めてしまっていたわけだ。
もう、良かった。ほんとよかった。大好きだ、愛してる!! セルシアはぶちきれてオッケーです。ダンボール投擲は、なればこそ痛快であった。そこはもう、思いっきりぶつけなよし!!

河内和泉作品感想