僕は友達が少ない 8 (文庫J)

【僕は友達が少ない 8】 平坂読/ブリキ MF文庫J

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聖クロニカ学園学園祭本番、前座のような体育祭はつつがなく終わり、いよいよ文化祭当日となった。自主製作映画を上映する予定の隣人部だったが、映画の仕上げを担当していた理科が倒れてしまい、映画は未完成となり上映は中止に。残念な結果となった学園祭ののち、これまでの馬鹿馬鹿しいけど賑やかで楽しい活動の日々へと戻っていく隣人部。互いに絆を深めていく隣人部の面々と過ごしながら、小鷹は隣人部への思いをいっそう強くする。そんなおり、星奈を敵視する生徒会の遊佐葵が隣人部に対して不穏な動きを見せ、小鷹、夜空、星奈、理科、幸村の関係にも大きな転機が訪れる――。残念系コメディ、ついに終幕……!?
わはははは、へたれだ。見事なくらいに華麗なヘタレが居る。みっともなくて無様で不細工で根性なしで勇気がなくて情けない、これほど完璧なヘタレが居ただろうか。
隣人部を壊したくなかったから、なんて言い訳をしていたけれど、とても本気だとは思えない。それこそただの言い訳、言い逃れ、それも自分への言い訳だ。必死にそれらしい理由を探しだして縋り付いていたようにしか見えない。逃げ出したことにすら言い訳で繕わなければ心を保てないこの情けなさ。
本当に、もうどうしようもない奴である。何処に出しても恥ずかしい、完璧なヘタレである。
でも、そのヘタレさが痛々しい……じゃなくて、愛おしい。ここまでかっこわるい姿を見せてくれると、なんかこう突き抜けちゃうんですよね。下手に繕って格好良いこといって状況をごまかしてなあなあで済ます中途半端な凡百のヘタレに比べれば、羽瀬川小鷹は徹底して無様である。情けないことこの上ない。ダサくてかっこ悪くて悲惨で失笑モノで、笑いものにされて晒されても文句が言えないくらいに酷い体たらくだ。
醜態である。
羽瀬川小鷹という人間の底の底のどん底までひっくり返してぶち撒けた、彼の本当の姿だ。
それを見て、指さして、「あはははは」と笑えるか? …………冒頭で思いっきり「わはははは」と笑っていたが、それはノーカウントで。
無様さにも、格好悪さにもきっと色々あるのだろう。見ていて、嫌悪を催す醜悪さがある。虫酸が走る愚行がある。ドン引きして関わり合いたくなくなる不細工さがある。失望してしまう情けなさがある。
でも、不思議と小鷹のそれには負の感情や黒い想いは浮かんでこない。どこか苦笑いとともに生暖かい眼差しを送ってしまうみっともなさだ。彼がそういう人間だと知っていたのを加味しても、不思議なくらい穏当な気持ちで居られている。
さて、それは最初から彼に期待していなかったからなのか、その無様さを踏まえてなお彼はそれを乗り越えられる男なのだと信じているのか。……どちらかというと前者なような気もするけれど、彼にはヘタレであることを許容してしまう愛嬌のようなものが備わっているのかもしれない。或いは、彼のヘタレさの当事者とも言うべき彼女たちが、彼がヘタレ者であることを許容した上で親しんでいるからなのかもしれない。大体彼女たちからして、小鷹にとやかく言えるような大した人間ではないのだから、似たもの同士それでいいのかもしれない。
いや、だった、と過去形で言うべきなのだろう。
少なくとも、理科と星奈は現状維持を良しとしなかったのだから。

理科って子は、何なんでしょうね。本来なら、この娘は外野から野次を送り物を投げ込んで状況を引っ掻き回して楽しんでれば、それでいいはずの子だったんですよ。中心核となる小鷹、夜空、星奈があとほんのちょっとまともであったならば、彼女はいらん労力を傾ける必要はなかったはず。でも、この三人は異端者にして破綻者である理科からしてなお、まともに見ていられない、口を出して手を出してちゃんとしてあげないと、と思わざるをえない残念な子たちだったのです。なんかあれだね、結局まともな人が割り食うんですよね。知らんぷりしてりゃいいものを、理科って子は我慢できなかったんだろうなあ。キャラじゃなかろうに。なんで、女の子にも関わらず、親友の男キャラみたいに主人公と殴り合いして馬鹿の目を覚まさせてやらにゃあならんのですか。ヒロインがやらなきゃいけない仕事じゃないですよ。でも、それをやってくれる人は周りには他に誰もおらず、挙句に当の小鷹からして、それを理科に期待している節があったのです。糾弾者は、弾劾人は、理科意外にないだろうという、無形の期待。
天才というのは、もっと人心を理解できない人間であるべきなんでしょうに。この娘は残念ながら、人として残念になりきれなかった子なのでしょう。
それを、そんな貧乏くじを引く、苦労を引いてしまう、孤高の天才に在るまじき自分を、理科は果たしてどう思ったのか。満足し、充足を覚え、自分はよくヤッた、と思えているのならいいのですが。泣いてなきゃいいのですが。
間違いなく、最大の功労者は彼女であり、報われて然るべき子のはずなんですから。

そして、もう一人。もうあらゆる意味で空気を読まざることメテオの如しな柏崎星奈。
この女、ガチで凄いわ。前々から人間的に矮小極まる夜空と違って、この娘は本当の大物だと思うこと度々だったのだけれど、それでもまだ舐めてたのかもしれない。
テンプレなんて欠片も意識してやがらねえ。あまりにも行動が突拍子なさすぎて、本気でぽかんとなってしまった、あのシーンは。小鷹が全くリカバリーできなかったの無理はない。あれは、絶対に無理だ。奇襲も奇襲、殺されたのも気づかない完璧な不意打ちである。
果たして、あんな奇襲を余人がなし得るものか。ちょっと、同じマネが出来るような馬鹿を他に思いつかない。こいつ、本気で空気とか読まないよな。予兆とか前ふりとか全然なかったし。
平坂読ってちょっと違うよな、と思うところはこういう所である。パターン繰り返しておきながら、時々突然完全な奇襲を仕掛けてくるのだ。まずもって、こういう時の一手を読めた試しがない。それも、小手先の一手などではなく、物語の前提をひっくり返しかねない凄まじい必殺の一手を、ポンと肩を叩くみたいにさり気なく仕掛けてくるのだ。この、読者の期待通りに話を転がしているように見せかけておいて、突然裏切って方向転換して泡を食わせるスタイルは前々からのものだったけれど、回を重ねるごとに洗練されていっている気がする。
ともあれ、今回については本気で不意打ちだった。あれは、あのタイミングは予想できんわーー。

今回は、というか今回も引きは凶悪極まるものでしたけれど……果たしてアレ、小鷹吹っ切れたのか? 本当に吹っ切れたのなら、この【はがない】という作品は決定的な方向転換を迎えたことになるんだけれど、なんかテンプレどおりに進むに見せかけて気がつくと全く予想通りに転がしてくれない作者だけに、疑心暗鬼が募るんですが。根っからのヘタレがヘタレ解消出来るのか? あれだけ大見得切っておいて次巻に続く、と引いておいていざ本番となってまた逃げたら、さすがに踊るぞ(笑


平坂読作品感想