創世の大工衆(デミウルゴス) (このライトノベルがすごい! 文庫)

【創世の大工衆(デミウルゴス)】 藍上ゆう/ぴょん吉 このライトノベルがすごい! 文庫

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デミウルゴス―かつて武力ではなく圧倒的な建築技術で戦乱から民を救った伝説の大工。時は流れ、伝説に憧れながら亜人の国で奴隷工として暮らす少年・カナトの前に、一人の少女・シアが現れる。高度な建築技術を持ちながら、性格に超難アリの彼女こそデミウルゴスを継ぐ者だった。そんな二人の元に、この国の女王・シャロンからある建築の依頼が舞い込むのだが…。シアとカナト、二人が出会う時、新たな伝説の幕が開く。第2回『このラノ』大賞優秀賞作家が贈る新感覚・建築ファンタジー。
宝島社さまより献本いただきました。
デミウルゴスとは、ギリシア語で職人という意味を内包しているのだという。同時に、グノーシス主義の創造神話においては造物主に位置づけられ、不完全なる物質界を創造した神なのだという。
そして、本作においては、彼ら「創世の大工衆(デミウルゴス)」は過去において建築技術で完全な平和を実現せんとした集団だ。
果たして、作者はどういう意図で「デミウルゴス」なんて名前をつけたんでしょうね。グノーシス主義において、不完全性故に悪と見なされる物質界を創造したデミウルゴスは、一種の悪神と見做されている。彼の神が、イデアの模倣から物質界を創造し、それが完全な世界とは程遠い「悪」なる世界となったのは、意図的なものなのか、はたまた能力の欠如、愚かさに基づく意図しない結果なのかは、過分にして勉強不足なせいか解釈に迷うところなのだけれど。

で、面白い、というべきなのか、興味深いことに、本作におけるデミウルゴスが目指した完全な平和な世界というのは、どう見ても進化と発展が停止した緩やかな滅びを迎えつつ在る世界なんですよね。
デミウルゴス以降の建築関係の技術が、デミウルゴスの遺構のあまりの完全性によって存在する意味をなくし、一般的な大工技工も含めて失伝してしまった事など、その顕著な例でしょう。恐るべきことに、この世界には「大工」という職業が技術の失伝から、失われてしまっているのです。

満たされれば、それ以上のものを必要としなくなる。人間の文明の発展というのは、常に欲することを原動力にして促されてきました。彼らの望んだ完全な平和とは、相争うことすら必要としない完全に満たされた世界だったように思えるのです。
でも、そんな誰も先を見ない、満たされきった世界なんて、朽ちるのを待つだけの成長の止まった、余生みたいなものじゃないですか。
ものすごく、キモチワルイ。

で、よくわからないのが、作者がはたして、彼らデミウルゴスの思想を肯定的に扱っているのか、許容しがたいものとして捉えているのかが不明瞭なところなのです。全体的に、創世の大工衆の存在とその意志を肯定的に描いている以上、彼らの思想もまた正しいものとして描いているように見えるんですが……本当にそうなんだろうか。だとしたら、どうにもこのお話って居心地が悪いというかすわり心地がわるいというか、とにかくなんかヤなんですよね。

まあ、タイトルから期待した建築関係の専門的な技術や知識の取り扱いについては、殆ど描写もなく、魔工具を使ってジョバンニが一晩でやってくれました、みたいなそれ技術なの? と首を傾げる能力だよりで、殆ど知識欲を掻き立てられ、満たされるような話もありませんでしたし。会話や掛け合いも、杓子定規でお決まりのパターンを機械的に配置したようなもので、正直読んでて白々しいやら薄っぺらいやら、身も入りませんでした。
なにより、個人的な感情だけで国の行く末をぶん回そうという主権者。相手がにくいからせんそうだ。せんそうはわるいことだからやめましょう。仮にも一国の動向が、そんな幼稚な論理で動いてしまうなんて。
ともあれ、全体的に終始微妙でした。残念。