ブラック・ブレット―神を目指した者たち (電撃文庫 か 19-1)

【ブラック・ブレット 神を目指した者たち】 神崎紫電/鵜飼沙樹 電撃文庫

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滅亡寸前の人類を救えるのはたった一人の少年……!?

 ウィルス性の寄生生物との戦いに敗北した近未来。人類は狭い国土に追いやられ、絶望とともに生きていた。そんな暗闇に閉ざされた世界で──。
 東京エリアに住む少年・蓮太郎は、対ガストレアのスペシャリスト「民警」として、相棒の幼女・延珠とともに、日々、危険な任務を遂行していた。二人はある日、東京を壊滅させかねない極秘任務を受けるのだが……。
 スリリングな近未来ヒロイック・アクション、ここに開幕!
こーれーはー、面白いわ。しまったな、完全に出遅れてしまった。既に既刊は三巻。最新四巻も8月に発売を控えている状態で、なんとか来月までに追いつきたいところ。とりあえず二巻はこの第一巻読んで即座に入手した。
本作、なんで回避したかというと、サブタイトルがあまりにもちょっとアレな感じだったんで、こうちょっと「クール」を勘違いした少女漫画のイケメンみたいなのが主人公な、痛々しく酔っ払った感じの話なのかなあ、と思っちゃったんですよね。実際読んでみると、全然そんなことはなくて、三枚目に片足突っ込んだ二枚目半の愛嬌のある主人公で、話の方もハードさとコミカルさが絶妙にハイブリットされた、実にワタシ好みのそれでした。食わず嫌いはいかんねえ。ただ、言い訳させてもらうなら、このサブタイ、全然中身と合ってなくないですか? 誰も別に神様なんか目指してなかった気がするんですが。或いは、ただ人であることを求め、許しを請う純真な願いへのアイロニー、なのかしら。

ともあれ、一番ツボを突かれたのはやはり元名家のお嬢様でありながら、貧乏に落ちぶれてしまったメインヒロインの片割れ、木更さんでしょう。貧乏系ヒロインというのは今までも珍しくはなかったけど、どちらかというとそれらは清貧系か銭ゲバの類であって、こういうそれ女としてどうよ、というレベルの生き汚さのわりに妙にプライドも残しているというタイプは見たこと無くて新鮮だったなあ。
チワワからビーフジャーキー強奪するお嬢様って、ヒロインとしてどうなんでしょう(爆笑
リムジンの件と合わせて、木更さんのなさりようには腹を抱えて笑ってしまった。一応この人、主人公・蓮太郎の幼馴染で義理の姉で所属する民警会社の社長で上司で、その上蓮太郎が恋する相手なんですけどね……貧乏って怖いね!!
とは言え、ちゃんと格好良い女性なんですよ。自分の意志で実家と縁を切って家を出て、病弱な体に無理をさせながら信念と情念を以てなりふり構わず目的を果たすために邁進するその決然たる背姿は惚れ惚れするばかり。……まあ、貧すれば鈍する、という言葉もある通り、微妙にそのリソースが自転車操業状態の会社の維持の方と、その日暮らしの生活に持ってかれてる気もするのだけれど。
貧乏って怖いね!!
……木更さんが日々の食べ物にも困るような状態でいるのに、そう言えばなんで蓮太郎の方はわりと生活に余裕がありそうなんだろう、とふと疑問に思ったんだが、そう言えばこいつ、スポンサーが居るんだったな。しかも、女性の。
……この主人公、幼女を囲って嫁と名乗らせながら、金銭的には金持ちのヒモとなり、貧困に喘ぐ義理の姉に秋波を送っているのか。こいつ、客観的に見るとなかなか素敵に最低だな♪

一方で、この物語の世界観は終末もいいところである。何しろ、一部の都市部を除いて地球人類はほぼ壊滅しているのだから。モノリスに囲まれた都市内部は一応の平安が保たれているためになかなか実感は得られないけれど、一歩領域外を出れば、寄生生物ガストレアが跋扈する絶滅した大地、というのはなかなかに極まっている。そのガストレアからして、単なる怪物ではなく、人間に寄生し理性を崩壊させ怪物化させてしまうというパンデミック型。ゾンビものをよりハードモードにしたような設定なんですよね。
そんな追い詰められた人類の最後の拠り所の一つが、イニシエーター――「呪われた子供たち」と呼ばれる幼子たち、というのは皮肉は話だ。この子たちは生まれる以前からガストレアに感染してしまった者であり、それ故に超人的な力を有する存在である。その力は、ガストレア感染者と真っ向から戦える存在ではあるものの、ガストレアによってこの世の地獄を見た人類からすると、まさに怪物の子であり嫌悪と恐怖の対象であり、被差別者なんですね。この子たちは子宮内でガストレアウイルス因子によって肉体改造されてしまうために、DNA検査でも実際に産んだ母親との親子関係を証明出来ず、それもあってかその多くは親から見捨てられた孤児であり、また通常感染者よりも進行状況は遅いものの、ウイルスの侵食率が50%を超えればガストレア化してしまう、という運命を負わされた子供たちだ。
ヘヴィーどころの話じゃない。まだ、10歳になるかならないかという子供にすぎないというのに。
こういう、子供たちに向けられる社会の残酷で無慈悲な視線を、いや視線どころじゃない憎悪の腕を真っ向から描き、相棒の延珠を背に庇う主人公・蓮太郎を逃げずに向きあわせるスタンスは、深みにはまるを自ら良しとする真剣極まる本気の書き筋で、非常に好みだ。

出遅れたのは痛恨だが、逆に言うとすぐに続きが読めるということ。遅ればせながらも、これだけに快作を見逃さずに済んだのは幸いでした。面白かった、うん。