戦国妖狐 9 (BLADE COMICS)

【戦国妖狐 9】 水上悟志 ブレイドコミックス

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星より綺麗と言わしめる神をも魅了す剣の舞。
よくぞ来た。利剣の林に挑む勇者。
全霊以ってもてなす故、心行くまで舞うがよい。
剣神に奉じる、血の舞いを。

永禄の変、それは剣豪将軍・足利義輝の最後の戦いである。

そして一方で、ついに記憶を取り戻した千夜と黒龍・ムドとの月湖を取り戻すための戦いが。否、ムドと遊び、月湖を迎えに行く道程が、雲の間で巻き起こる。
楽しもう。俺の知ってる武の極みは、笑顔だ


記憶を失って以来、ずっと自分の力を厭い、自分が兵器で化け物だという事実に悩み、戦わないことで人間になろうとしていた千夜。それでも、力がある以上災厄は向こうから現れ戦いは避けられない。血が血を呼び、力が戦いを呼ぶ。その戦いを遠ざけるために、また力を振るわなければならない。そんな矛盾にずっと苦しめられていた彼の無明の前に最後に立った人こそ、足利義輝その人でした。
兵器だった千夜に心を与え、温もりを教えたのは真介であり、月湖でした。彼が記憶を取り戻せたのも、兵器だった千夜を、ただの子供と泣いてくれた真介が居たから。千夜が人間になりたいと思ったのは、月湖の愛があったから。
そして、そんな彼がもうずっと前から人間だったのだと知らしめてくれた人こそ、将軍だったのです。かの剣豪は、その先の道をも千夜に指し示します。戦いの日々に、もう戻りたくないと俯く少年に、笑顔を与えてくれたのです。

千夜が、笑っていました。あの千夜が、子供のように笑ったのです。

戦いに狂乱しながらも龍を恐れていた千夜の中のかたわらたちも、そんな千夜と殴り合い膝突き詰め合って話し合い、いつしか龍と戦うための小さな勇気を得るのでした。恐れ怯えた先にある一掴みの勇気、それこそが最強に至る強さだと、かたわらたちは知っているのでしょうか。
勇気によって結ばれた、それはかけがえのない絆の強さ。
行こう、友よ
そうして行った拳の先にもまた絆が生まれてく。殺しあうのは敵同士、そして遊び相手は友達同士。
図らずも、龍の涙もまた、嬉し涙か。

五月雨は 嬉し涙や 不如帰 
   我は至れり 雲の上まで


月湖が嬉し涙を浮かべながら差し伸ばした両手と、華寅様が将軍様を抱きとめたその姿が、少し重なって……読み返しながら目尻が潤む。
その武の魂は、男の誇るべき生き様は、見事に次の世代に引き継がれた。
少年の生誕と、満天たる剣豪将軍の完結。それがここで描かれた一部始終である。さらば、さらば。

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