秘密結社とルールと恋 (電撃文庫)

【秘密結社とルールと恋】 寺田海月/nauribon 電撃文庫

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「ラヴ」「ラヴ!」「ラヴ!!」「ラヴ!!」
放課後、怪しい宣誓が木霊する……。

 黒い三角の頭巾をかぶり、二つの穴から目だけを出した連中が集う。俺たちは秘密結社だ。今日も胸の前で指を組み、誓いの言葉を叫ぶ。
「ラヴ!!」と。
 不純異性交遊禁止の校則に逆らい、恋をするため。俺たちは今日も集うのだ。ああ、けれど俺の恋はきっと、秘密結社の力でも叶わない。なぜなら俺が恋する人は、校則を定めた張本人──生徒会長円城あかり、その人なのだから。
円城あかりは理想家でした。理想を実現するために、生徒会長となり意欲的に学校の在り方を変えていくなど、口先だけではない行動力に満ち溢れている。その抱いた理想の根源が、単なるヒーローへの幼い憧れでしかなかったのだとしても、彼女はずっと信念を持って正しい道を歩いてきた。
しかし、正しさをゆく道は決して安穏な道ではあり得ない。正しさは他の正しさと軋轢を生じ、現実に衝突して、多くの傷つく人を生んでしまう。それがどんなに綺麗な理想だったとしても、そうであればあるほど人間が誰しも持っている負の側面を浮かび上がらせ、摩擦を生じさせてしまう。
彼女が戦おうとしたのは、悪でも敵でもなく、人の善性を信じない社会システムそのものだったと言っていい。だが、それ故に彼女は彼女が信じようとした善性に裏切られ、自らを含めて多くの傷つく人を生むことになってしまう。
それでもだ、彼女を現実を知らないおめでたい夢見がちなロマンチストで、浮ついた理想家などと言う人はいないだろう。彼女は、幼い頃から幾度も傷つき、傷つけ、挫折してきたのだから。きっと、何度も何度も失敗して、上手く行かずに痛みを生んで、それでも一つ一つうまくいくように努力を重ね、ようやく高校で生徒会長の座を勝ち取り、その地位で理想を一つの形にしたのだ。彼女は、傷だらけの理想家である。
そんな彼女を、ずっと傍で見守ってきたのが主人公だったと言っていい。彼――いじめられっ子の小学3年生だった会津優介と、小学四年生の円城あかりの出会いと相対、そしてそれぞれが得た解答のエピソードは感動すら覚えるものだった。
人と人は、理解し合えるものなのだ。
きっと、あかりが高校にあがり此処に至るまで理想を捨てずに居られたのは、この時の体験があったからなのだろう。人と人が話し合うことで理解し合えるという体験が、そしてその相手である優介がその時からずっと今に至るまであかりの理解者であり協力者で在り続けた事が、彼女を支え続けたのだろう。それが、彼女が自分は正しいのだ、という確信につながっていたのだろうと思う。
その時点で、彼女は多分少し間違っていたのだ。あかりと優介は、思わず感動を覚えるほどの、心の理解を交えた。でも、彼女は優介を本当に理解しきっていたわけじゃなかった。それが、微妙な齟齬を生んだまま彼女の理想の崩壊にまで届いてしまう。
彼女はまだ、優しさよりもエゴこそが力強い肯定を生む事を知らない。

この物語に登場する人たちは、皆が皆眩しいくらいに誇り高い生き様を貫いている。歯を食いしばって、痛みを堪え、自分の至らなさ、弱さ、未熟さに悶え苦しみながらも、一度として恥ずべき振る舞いに陥らず、信じた想いに殉じている。あかりも、優介も、ことねも、稲沢も、皆自分の弱さを誰よりも自分自身が認めている子たちだ。時に挫折し、時に道を歪め、時に泣き崩れて膝を折ることもある。
それでも、這って這って前に進み、最後には立ち上がる、その姿が直視できないほど眩しくて仕方がない。理想を追い求めるとは、こんなにも輝かしいものなのか。誰か大切な人を想い、その人のために身命を擲って駆けまわる事が、こんなにも尊いものだったのか。
パワー・オブ・ラブ、なんて言葉もあるけれど、最初から最後まであかりの為に影に日向に駆け回り、泣いてる女の子に胸を貸し、彼女の心を支え、そして理想を守りきった少年の愛の力は、本当に素晴らしかった。

ド直球の青春恋愛譚のようで、1つ年上の幼馴染との近くも煩悶が混じった交流の描写に、細く白い指先のような繊細な移ろいを感じさせてくれた、勢いと柔らかさが同伴した素敵な作品でした。