スワロウテイル/幼形成熟の終わり (ハヤカワ文庫JA)

【スワロウテイル/幼形成熟の終わり】 籐真千歳/竹岡美穂 ハヤカワ文庫JA

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関東湾の自治区に男女別で隔離されている人間たちは、人工妖精と共に暮らしていた。その一体の揚羽は亡くなった後輩が葬式で動く死体になってしまった事件の謎を追う。一方、自警団の曽田陽平は人工妖精の顔剥ぎ事件の痕跡を捜査していた。どちらも当初は単発的な事件だと思われたが、突如自治区を襲ったテロをきっかけに、これらの異変が自治区の深い闇のほんの一端であることを二人は思い知る…。話題の人気作第二弾。
ああ、なるほどそういう事だったのか。お陰でようやく、冒頭から抱いていた違和感を解消できた。何しろ、読み始めから、「あれ? これって続編じゃなかったっけ?」「スピンオフ? それとも前日譚? なんか前作とところどころ辻褄が合ってないような。キャラが違っているような」と、クエスチョンの嵐でしたから。それでも、違和感を感じるところが限定的だったり、読み進めると確かに本作は前作の【人工少女販売処】の続きであり時系列的にもその次である事を示す内容が確認できて、とりあえず違和感に首を傾げながらも疑問を保留して読み進めることにしたのだけれど……その可能性は頭の中にはなかったなあ。考えてみれば、凄くシンプルだったんですよね。ある一点さえ入れ替えてしまえばスッキリと全部が当てはまったのに、その一点を疑いもしなかったためにずっと首を傾げるはめになってしまった。でも、陽平も悪いんですよ。肝心のあんたが気づいてないんだから、こっちだって疑うわけにもいかないじゃない。このおっさんが、年甲斐もなく浮つきやがって。中学生か、初な中学生かこの。オマエみたいなおっさんが、そんな少年めいたときめきを覚えてるなんて、そりゃ揚羽だって思わんがな。思うはずがないんだから、そんなヤサグレて不貞腐れるんじゃありませんよ、まったく見っともない。
まあでも、「揚羽」ならそんな陽平の不貞腐れっぷりに気づかない、という事もなかったんだろうなあ、と思うとやっぱり結構大きな異なりが隔てているようにも思える。なんか、前作の彼女を美化して見ているかもしれないが。何しろ、読んだのが1年以上前だからして。あの彼女はもうちょっと世慣れていた、というか世間を斜めから見ていた上で、それでもなお人を愛してくれていた、という複雑ながらも奥深く真っ直ぐな熱情があったような気がします。その点、今作の彼女は何かしら初々しく、献身的でありながらも見つめている方向性が以前とはどこか違っていて、愛憎の濃さが薄影っていたように思えたのでした。
端的に言うと、ちょっとキャラ的に幼くなったかな、と。
その原因について、私はあの事件を経た事によってある種の精神的な純度が増した、というか色々と鬱積したものが逆に吹っ切れたのかな、なんて風に考えたりもしてたんですが、よくよく考えてみればこの変化って、成熟とは真反対とは言わずとも似て非なるものだったんですよね。もうちょっと疑ってみるべきだった。

ともあれ、前作で私は揚羽は絶対に幸せになるべきだと思っていたので、途中の展開はかなりショックを受けてへこんでましたし、ラストのワンシーンには心底安堵させられました。まったく、陽平くんはあれだね。もっと献身的に揚羽に尽くすべきだよね。再婚したっていいじゃない。

とまれ、肝心のストーリーですが、どうも全体に散漫としていた気がします。大山鳴動して鼠一匹、じゃないですけれど、国際規模のスケールの大きい政治勢力のぶつかり合いかと思われた展開が、幾つもの流れが1つに修練していくに連れて、逆にスケールダウンしていってしまったのはちと残念。なんか、一気に個人個人の心の置所の問題へと移っていっちゃった気がする。SF作品として前作は大枠に、人類の進む方向性と、人工妖精というパートナーが向けてくる人類への比類ない愛情、という種そのものの行く末に纏わるような大きなスケール感が揚羽という担い手によって表現されていたような印象を今も抱いているのですけれど、今度の揚羽は視点が極々小さな範囲で果たすべき役割に傾倒していたせいか、そのサイズに収まってしまっていた、という感じ。
大きな歴史の流れの上において、本来なら個人の果たす役割など誤差の範囲に過ぎないというAIの、一種のレゾンデートルにもつながる思想の上で、それを覆しかねない存在として定義された、という意味では、彼女個人の果たす役割というのはどれほど意志も言動も動機も個人的なものだったとしても、本来ならそれすべてが大いなる未来に繋がっているはずなんですけどね。

色々とモヤモヤとした部分が残ってしまっているので、それを解消スべくぜひまた続きを出してほしいなあ。ってか椛子のターンをもっともっとw 前半あれだけ煽りに煽っておきながら後半殆ど出番なしってどういうことよw いっそ、彼女を主役にもう一本、と思わないでもないくらい。しかし、鏡子さんてばそこまで娘を愛してたのか。まさかこの人が、椛子のピンチにあれだけ躍起になるとは思わなかった。顔合わせたら、傍で聞いてるだけで余波で精神的に死んでしまいそうなほど、凄まじい罵倒の応酬を繰り広げそうな母娘だっただけに、意外も意外な鏡子さんだった。でも、根本的にひとでなしだよな、この人も。

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