選ばれすぎしもの! (電撃文庫)

【選ばれすぎしもの!】 峰守ひろかず/京極しん 電撃文庫

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伝説の勇者は週休1日のシフト制!?
日替わり勤務で異世界ヒロインズを救え!

 伝説の勇者に選ばれた僕を待っていたのは、お姫様にくノ一にアンドロイド、マッドサイエンティストに獣耳少女にガンマンという、異世界から来た6人の女の子たちだった!?
 それぞれの世界を救ってほしいというのは分かるんだけど、さすがに週6シフトの勇者生活はキツすぎますって! しかも全員うちに住むって、一体どうなっちゃうの!?
 異世界ヒロインズ盛りだくさんでお届けする、こき使われ系ブレイブストーリー!
こき使われ系はちょっと言いすぎ。むしろ、自分をあんまり顧みない主人公にヒロインたちの方が気を遣っているくらいですし。それに、週6シフトってそれだけ聞くと相当にハードなように聞こえますけど、午前と午後にシフトが別れてちゃんとお昼休憩はありますし、日帰りですからちゃんと夜までには家に帰れる上に、皆が住み込んでいるお陰で家事のサポートも十分。そして何より、日曜日はちゃんと休養日に設定されているという事実! 
最初にヒロインたちが頭をつき合わせてシフトを決めた時には「え? 休日ちゃんとあるの!?」と素で驚きましたもんね。斯くのごとく、ハードはハードなんだけれど、それなりに配慮が行き届いた勇者業だと思われる。下手に勇者として異世界に召喚されてしまうと、平気で年単位は出張しなきゃいけないし、事前に準備なんかサせて貰えないし、もちろん一時帰宅とか定期的なお休みなんかはもらえるはずもない、という過酷な労働環境を鑑みるならば、6つの異世界を股にかけ、と忙しなく見えるけれど、意外とやってやれなくはないシフトだというのが知れる。
これで、ちゃんと労働報酬があるのなら、割の良いバイトくらいの感覚でも収まるのではないだろうか。ところが、これを選ばれし者である護少年の意向で、ボランティアとして請け負ってしまうんですね。
そんな彼の生きる上での信条というかポリシーは、困ったときはお互い様。正直、初見ではゲートを潜って現れた女の子に、勇者となって私達の世界を助けて下さい、と言われて間髪入れずに即答、それも6連発で、という節操のないようにすら見える安請け合いをしてしまうこの主人公は何なんだ? と不信感が募ってしまったものでしたが……読み進めていくと彼のそれはお人好しではあっても、決して流された結果じゃないことが分かってくると、印象も変わってきたのでした。
この子、軽く請け負ったように見えましたけれど、決して頼まれごとを軽く考えている訳でも、特殊なシチュエーションに浮ついている訳でもありませんでした。事が事だけに、幾ら適切なシフトが敷かれていても、戦い自体が楽で危険性も少なくても、緊急自体となれば非常に過酷で非人間的なまでのパフォーマンスを要求されるような自体も起こりえますし、生命を脅かされるような状況にもなります。でも、そうなった時にでも彼は決して逃げなかったんですね。それどころか、愚痴の一つも零さず、自分が請け負った事を果たそうとボロボロになりながら全力を尽くしていた。
そもそも、彼は勇者なんて代物に祭り上げられながら、一切驕ることもなく、武器が優秀で案内役のヒロインたちや彼女たちの支援者たちが適切に指示してくれているから勇者として熟していけているだけで、自分は全然大した事なんてないんだ、という謙虚なスタンスを最初から最後まで崩しませんでした。そうして、ニコニコと朗らかな雰囲気を崩すこと無く、集まったヒロインたちの切羽詰まった心を解きほぐしリラックスさせながら、世界を助けて回っていたのです。
大した主人公だったと思います。別に、峰守さんの主人公なのに女の子の顔を見ても反射的に口説き出さないなんて、なんて落ち着いた健全な主人公なんだろう、と感心したのとは関係ありませんとも! あとがきでも自分でこれまでの二人の主人公の性格の差異に言及しているあたり、作者さんにも相当の自覚があった模様ですが(笑
ともあれ、そんな主人公の護少年のスタンスは【選ばれすぎしもの!】というタイトルと、各世界で唯一侵攻者に対抗できる武器を起動できる鍵となる勇者の証の適合者という事実の裏に秘められていた真実との対比とも相まって、大きな意味が見出される事になります。
読み終わってからこのタイトルを振り返ると、なかなか意味深であることに気付かされるんですよね。
彼は選ばれたのではなく、自ら選んだ者だったのですから。

最初からヒロインがまとめて6人押し寄せて、いきなり人口密度が非常に高い流れになってしまいましたけれど、それは【ほうかご百物語】で大量のキャラクターを捌ききった峰守さん。徐々に人数を増やしていった前作と違って、今度は最初から自分の得意なフィールドで、という意識もあったのかもしれない。そうだとしたら、その思惑は的を射ていたように思われる。かなり初期の段階で、主人公と6人のヒロインの間に家族的なアットホームな雰囲気を構築できていましたし。皆が皆、護くんに異性に対する好意を寄せる、という形にならなかったのも、作者らしくてよかったんじゃないでしょうか。ドクターなんて、幼馴染付きでしたしねえ。忍者姉さんも、微妙に他の人とフラグ立っちゃってましたし。基本的に、護はメインのフラウディアとだけルートが構築されていた気がします。
面白かったのが、自然の野生児であるキトラがみんなのお姉ちゃん役として年下たちの面倒を見たり、年上の暴走を窘めたり、悩む主人公たちに至言とも言うべきイイ言葉を投げかけて、教え導いたり、というポジショニングを構築していたところでしょうか。野生児なのに!(笑
実際、普段は奔放すぎるくらいに本能に任せた束縛されない気ままな行動に明け暮れ、天真爛漫にみんなを振り回してケラケラ笑う自由人なんですが……しがらみが無い所からちゃんとみんなの事を見守っていて本質を見逃さない、という感じがするんですよね。大らかで屈託ない態度だから警戒心が湧かない分、するりと懐に入り込んできて、悩みなどに強張っているそれぞれの心を解きほぐしてしまう器の大きさ。性格が難しいアーニーが懐いてたり、難しいというより小捻れてる節のあるコルリが素直に接していたり、と度々護をはじめとした皆のメンタルケアを果たしてたりするのを見ると、このメンツで要となってるのてキトラなんですよ。
普通、野生児なんてマスコット扱いばっかりなのに、面白いw

これまでは割りと助走期間の長い人だったので、最初は準備段階かなと思ってたのですが、殆ど初っ端から峰守ひろかずワールドが展開されていたのは、この人の描くアットホームな雰囲気が大好きな身の上としては望外の喜びでした。イラストの方が【ほうかご百物語】の京極しんさん再び、というのもすぐに作品に入り込めた要因だったのかもしれません。表紙のデザイン、SDキャラを配置するなど【ほうかご百物語】と同じ手法でしたしね。
ある程度世界観の構築については今回で固めることに成功できているだけに、次からはよりじっくりとそれぞれのキャラに焦点を当てていって欲しいですねえ。ラストに登場した新キャラも含めて。
続き、楽しみにしております、はい。

峰守ひろかず作品感想