スクリューマン&フェアリーロリポップス (電撃文庫)

【スクリューマン&フェアリーロリポップス】 物草純平/皆村春樹 電撃文庫

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「だから、貴方に決めた──」
いま、恋と変革のおとぎ噺(フェアリーテイル)が始まる!!

 それは或る雨降りの日。玖堂卓巳に突然の口づけを与えたのは、旧態依然とした異世界"妖精郷(ティル・ナ・ノーグ)"を改革する野望を抱く"翅族(アルフ)"の王女ロロットだった。
 改革に尖りすぎな彼女は向かうところ敵だらけ。そして、彼女とのキスをきっかけに不思議な力を得た卓巳もまた、"保守派"に狙われることになり──。
 強烈に危険で凶悪にキュートなお姫様(ロリポップ)が巻き起こす、異世界改革系ファンタジック・アクション、ここに開幕!
な、んちゅう尖ったお姫様だ。見た目の世間知らずで頭の中お花畑のホワホワな印象とは裏腹の……本当の危険人物じゃないか、これ。あらすじ読んでも見た目の印象に引きずられて、改革すると言っても平和で夢見がちなみんな仲良くしましょうよ、みたい理想論を振りかざしてニコニコしているような子なんだと思ってた。
思い込んでた。
「改革に尖りすぎ」という表現は、何一つ過小な表現ではなかった。ヤバいわ、この子。改革派の急先鋒、なんてレベルじゃないよ。こういう本能に任せ感情や感性によって思想信条を立ち上げながら、その実現においては冷酷なほど理性的に立ちまわり、悪辣なほど計算高く狡猾な手口で優位を確保し、敵を陥れる事を厭わず、そも手段すら問わず、利用できるものはなんでも利用し、成果の果実をもぎ取っていくような人物は……損得勘定抜きで、既存の社会システムを破壊した上で再構築しようと目論む者は……自覚を持って自らを悪と見做し、破壊者と呼ばれることを三日月の笑みで受け入れるような人物は……。

総じて、革命家と呼ばれるのだ。

その中でも、彼女は特に悪辣だ。何しろ、彼女が欲する光景というのは不特定多数の誰かの為でも、世界の為なんかでもなく、ただひたすら彼女個人が欲し求める絵なのだ。現在の妖精郷は見るに耐えないという美意識からくる傲慢な破壊衝動。自らの欲望に誠実すぎる、情熱の塊。
彼女をよく知る人物は、主人公にこう忠告する。彼女は稀代の悪人だ。それも、自分について来れない者たちも見放さず、そっとしておいてやることもできず、その尻に片っ端から火をつけてまわるような、と。
現状に満足している者も平和を甘受している者も反対者も傍観者も敵も味方も意見を持たない者たちすらも、無関係だろうと関係なく、誰も彼をも巻き込んで、既存の安定を守ってきた枠組みを土台からぶち壊し、世界を振り回そうとする大悪人。
これは、毒をたっぷりと含んだ徒花だ。
それでいて、彼女は間違いなく純真無垢で天真爛漫な妖精そのものの少女でもある。
ちょうど、作中184ページに描かれているロロットのイラストは、表紙絵との対比となって、彼女の二面性を良く伝えているのではないだろうか。キラキラとした眼で夢見るみたいにニパッと微笑む表紙のロロットを裏返したような、作中の挿絵は蠱惑的で艶然とした愉悦の笑みに彩られている。
あのイラストを見た瞬間に感じたのは、ゾクゾクッと、背筋が泡立つような感覚だった。

底抜けの無邪気さと邪まな可愛らしさを同伴した、天使の様な悪魔、或いは悪魔の如き天使。すなわち、妖精姫ロロット・ニエンテ・アートレア。
流星のように降誕した、本年度屈指のスペシャルヒロインだ、これ。

そんな彼女に見初められてしまった主人公・玖堂卓巳。かと言って、彼は巻き込まれた訳ではなく後々何度も自身で力説しているように、自ら踏み入った主人公。見初められて魅入られて、初めて出会った二人は、その瞬間に恋に落ちていたのでした。
つまりは一目惚れ同士。まさしく運命の出会い。
ここまでキッパリと恋情の発端を「一目惚れ」にした作品というのも珍しいかもしれない。卓巳に「妖精使い(チェンジリング)」としての資質があった事も、所詮は結果であり因果ではあっても恋に落ちた「理由」ではない。同時に、卓巳がロロットの「共犯者」になったのも彼女の思想に共感したからではない。両者とも、まず一目惚れによる「恋」があったわけです。
お陰様で、もう初っ端からこの二人ときたら、イチャイチャしっぱなし。それを傍から間近で見守るはめになったロロットの親友にして従者である燎にはご愁傷様としか言いようがない。だいぶ、辟易とさせられているようだったし。
だいたい、主人公の卓巳って普通にしてたら無愛想だし可愛げもないしふてぶてしいし、とどちらかというと木石な人柄なんだけれど、それがロロットの事になったら惚気る惚気る。思いっきり二人の世界になってしまうので、色々とたまったもんじゃありません。
とは言え、惚気ているばかりではなく、むしろこの主人公の見所は可愛げの無さにある気がするんだ。棋士だったという母親の影響からか、土壇場になるほど頭が冴え渡り冷静沈着に、しかし大胆に動ける生まれながらの勝負師気質という性格に、ロロットによって与えられた卓巳という人間の根源に根ざす「妖精使い」としての力『矮小鬼工の職人団(スクリューマン・ファクトリー』という能力が相まって、非常に面白い動きを、物語としてもアクションシーンの担い手としても見せてくれるのである。
主人公とヒロインのみならず、脇を固める真崎燎にアルマン・レイニードという魅力的な大敵、モブで終わらないそれぞれに戦う理由を持った敵役たち、と物語の中を登場人物たちが縦横無尽に走り回り、全体に躍動感が漲っているんですよね。
正直、展開もぬるくて筆力もスカスカの作品なんだろうな、とあまり期待もせずに手にとっただけに、まったくのダークホースでありました。これは、すこぶる面白かった。新人作品にしては、なんて前置きしませんよ? そんなの抜きで、とびっきりのエンターテイメントでした。これで突端ということは、まだまだこれから伸びて充実して大きくなるってことですよね?
続きを、これからを、楽しみにしてますよ。