勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。3 (富士見ファンタジア文庫)

【勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。3】 左京潤/戌角柾 富士見ファンタジア文庫

Amazon

勇者試験直前に魔王が倒されてしまい、勇者になれなかった少年ラウル、父親である魔王が倒されて居場所がなくなった魔王の娘フィノ、そしてラウルの勇者予備校時代のライバル・アイリの三人は、王都にあるマジックショップで、なぜか一緒に働いていた。そんなある日、店長の提案で三人はミスコンに出場することになって―。「…ミスコンって、女の子が出るコンテストですよね?」「ええ。もちろんそうですよー」「俺っ、男なんですけどっ!?」勇者の卵と魔王の卵が織りなす、ハイテンション労働コメディ。
さて、当初から危惧していた作品のコンセプトに対する構想の練不足が露呈してきた感のある第三巻。
ラブコメとしては、正の感情に無知で無垢なフィノが恋心を知る、というそれなりに重要な展開ではあるものの、本来この作品のコンセプトであったと思われる夢破れた者が新しい道で自分の夢を見つけていく、という流れと訪れた平和の中に色濃く残された永年戦争の傷跡――「未だ終わらない戦後」というものが、今回殆どスルーされてしまっていた。ラウルの元勇者候補生という過去は、彼が魔法ショップ店のしがない店員にも関わらず侮れない実力を持っている、という力量の保証としてしか意味を無していなかったし、フィノに至ってはラストシーンで魔力タンクとしてしか魔王の娘であったという出自が関連してないんですよね。つまり、アイリを含めても単にスペックが高い理由としてしか、その出自が扱われておらず、ぶっちゃけ今回の話においては店長を含めて、彼らの持つそれぞれの背景というのは全くこれっぽっちも活かされない形で終わってしまっているのです。番外編、と言ってしまってもいいくらい、一巻から示されていた本作品の趣旨とは無関係のお気楽なドタバタ劇に終始してしまっているのである。
確かに、元勇者候補生と魔王の娘が、市井の名も無き販売店の一員として、未だに戦争の影を引きずったままの戦争当事者たちと向き合い、今はもう新しい時代なのだと示していく、なんて結構ヘヴィな話を上手く広げていくというのは難しいと思う。特に、ただのチェーン店の魔法道具店の一般店員なんて立場で、社会の歪みと相対させつつ毎回バトルも挿入する、なんて考えるだにハードル高いんだけれど、それを放棄してしまうと作品そのものの特徴まで放棄してしまうことになるので、なんとか粘って逃げずにしっかりと描いてほしいなあ。

ラブコメ的には、店長と副店長が意外といい雰囲気になってたのがちょっとビックリ。幼馴染とはいえふたりとも、そういう気はないと思ってただけに。店長の、副店長とふたりきりだと何話したらいいかわからない、というのは単に副店長ディスってると思うのじゃなく、もうちょっと甘酸っぱい方で捉えてみると、みんな幸せになれるんじゃないだろうか。

一方で、フィノは順調に恋する少女として成長している模様。ふっ、ヤキモチを知る歳か。無知な分、本能に忠実で、自分の中に生まれつつある感情に対して戸惑いながらも自分を偽ろうとしないのは、やっぱりかわいいよね。その点、アイリの方は小難しい性格もあってか、自縄自縛もいいところ。まあ彼女に関しては、未だにラウルから名前で呼ばれず「オールA」呼ばわりサれ続けているのは、ちょっとかわいそうだと思うところも無きにしもあらず。
新キャラ? はて?

しかし、あの店長。女性なのによくまあ男であるラウルと平気で身体交換するよなあ。それも、ミスコンに出場させるため、って。ラウル当人にその気が無くても、女性の肢体を意識してしまう状況ですし、かなり大胆ですよね。それだけ大らかなのか、ラウルを男とも思ってないのか。ただ、この人の強さの基準もよくわからない。この人の力からすると、今回みたいな失態はちょっと考えられないんだが。ラウルも、一般店員にしてはスペック高すぎるんだよなあ。もっとスキルを生かした職につくつもりはないんだろうか。と、転職を考えるにもそれなりに懐に余裕ができなきゃ無理なのか。適正云々を考えたくばまずは働け、という世の中は何処も変わらず、か。
世知辛いですねえ。

1巻 2巻感想