やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。5 (ガガガ文庫)

【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 5】 渡航/ぽんかん(8) ガガガ文庫

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間違い、すれ違い……少しずつ変わる景色。

長いようで短い夏休みも、もうすぐ終わり。小町といつもの日々を過ごす八幡の家に、結衣が訪れる。さらには戸塚からの誘い、クラスメイトからの頼み事……。そして花火大会で偶然再会したのは、雪乃の姉・陽乃だった! 群れない、期待しない、押してダメなら諦めろ――。人間関係において間違った悟りの境地に達し、孤高を貫く“ぼっちの達人"八幡のスルースキルをもってしても、見過ごせない、やり過ごせない事実が雪乃、結衣、八幡の3人の関係を少しずつ変えていく。間違い続ける青春模様、ターニングポイントの第五弾!


雪ノ下雪乃の居ない夏。

ボランティアで参加したキャンプ以降の八幡の夏休みに、雪乃と顔を合わせるというイベントは存在しなかった。誰とも約束もなく長い長い休日を一人で家に引きこもって過ごす八幡だけれども、それでも結衣をはじめとして、幾人かの知人友人と顔を合わせ、同じ時間を共有する機会は一度ならずともあったにも関わらず、雪乃だけはその姿を見せない。その近況も伝わってこない。
この巻において、彼女がその姿を現すのは夏休み明けを待たなければならない。彼女がこの休みの間どうしていたのか、八幡は元より頻繁に連絡を取り合っていた結衣すらも音信が途絶えがちで、その詳細が見えてこない。唯一それを知っているだろう雪乃の姉・陽乃は意味深な事を口にしながらけむにまくばかり。
孤高の中にじっと佇んでいた少女は、この長期休暇を気にまたその背姿を霧の向こうに隠してしまった。それが彼女自身の意志なのか、望まぬ形なのかも伝えないまま。

でも、会わないことで、その姿を見ないことで、八幡は雪ノ下雪乃という少女のことを意識から遠ざける事ができたか、というとむしろ逆だったのかもしれない。人は、距離を置くことで逆により強く鮮明に、普段から顔を合わせ続けたその人について、思いを巡らしてしまう事がある。
常にその人の事ばかりを考えているわけではない。普段通りに過ごし、退屈極まる日常の繰り返しの中で、あるいはふとした遭遇をきっかけに、意識の端に泡のように浮き上がるようにして、その人の事を思い出すのだ。

雪ノ下雪乃とは、どんな人間なのか。

今更に、当人が居ないところで考えても答えの出ない疑問について、ふと思い巡らせてしまう。それは八幡に限ったことではない。この夏休みの終盤、八幡と顔を合わせた人たちはひとしきり彼と他愛のない時間を過ごしたあと、ふと思い出したように雪乃の話が話題に登る。彼女についての話題は、各章においてさしたる重要性も分量も割いているわけではない。それどころか、特に意味のない雑談の中で紛れてきた小さな話題の一つだったり、別の話の引き合いとして雪乃の事が持ちだされたり、とその程度のものだ。そしてその話題は、そのまま掘り下げもされずにただの話の接ぎ穂のようにして、次の会話の中に埋もれていってしまう。
本当に小さな小さな、会話の中の流れの一つ。
でも、誰しもが必ず一度は、雪ノ下雪乃の事を口端に登らせるのだ。彼女を忘れている人は、誰一人としていなかった。

だからだろう。この巻には雪ノ下雪乃は一切登場しないにも関わらず、この巻の初めから最後まで雪ノ下雪乃の影がずっと視界の端に揺らめいているかのようだった。恐らくそれは、比企谷八幡という男の心象そのものだったんじゃないだろうか。この男は、ずっとなんでもない振りを他人にも自分にも徹底して貫きながら、その心の奥ではずっと傷つき続けていたんじゃないだろうか。
4巻の最後に知ってしまった事実は、それほどまでに大きかったのだ。それだけ大きくなってしまうほど、比企谷八幡という男にとって、雪ノ下雪乃という孤高は憧憬の対象だったのか。
裏切られた、なんて思ってしまうほどに。

しみじみと思うところなんだけれど、この作者―渡航さんの作品構成って凝ってて面白いんだ。全体のストーリーラインの整え方といい、登場人物の心情描写といい、視点を変えると景色が変わってくるというか、何枚もヴェールが被せられていて、捲るごとに違う意が込められているというか。積層プリズム化しているというか。ともかく、一筋縄では行かないんですよね。それでいて、そうした物語の意が輻輳している点については極力意識させないように埋没し、でも読んでいると自然に頭の片隅に染み込んでいるような卓抜した仕込みが行われている。直裁的な表現に慣れて言うといささかもどかしいと思う人もいるかもしれないけれど、噛めば噛むほど味わいがあるスルメみたいなスタイルは、物凄い自分好みなんですよね。
なんで自分、この作品凄く好きなのか、ようやく解った気がする。

さて、全体を俯瞰してみなくても、雪乃の件がなくても、個別エピソードそれぞれを覗きこむだけでも十分以上に面白い出来栄えに仕上がっているのがこの短篇集。
こうしてそれぞれのキャラが個別に八幡と時間を過ごすエピソードを見ると、一学期間とこの夏休み中盤までの時間で、みんな八幡との関係性は完成といっていい領分にまで至ったんだなあ、と実感する。とはいえ、完成図は言ってもそこで停止するのではなく、ある種の流動性、あるいは常の伸展を保っているのは実に面白い。特にその辺が激しいのが結衣であり、興味深いことに妹の小町だったりするんですよね。小町の場合は、むしろ兄・八幡の周辺が近年に無く騒がしいのに合わせて積極的に動いているんだろうけれど。この娘、ほんとにイイ妹ですよね。というか、妹の分際でこれだけ兄に対して「愛を乞う」のではなく「与える愛」を実践してる子は滅多といないですよ。好きな兄だからこそ、自分で捕まえておこうとせずに自分じゃない誰かに任せようと、マメに動き回っている。それだけ、今までの兄貴の状態に危機感を抱いていたのかもしれないけれど、それでも打破の結論として、自分が兄離れするような形になるのが最良、と考えて行動できるとか、なかなか凄いですよ。
なんていうんだろう、これ最優の妹なんじゃないだろうか。

本作で一番の萌えキャラは誰ですか? とアンケートを取ったなら、まず間違いなくこの人が一番だ、と挙げる自身があるのが、平塚先生でしょう。
……行き遅れで婚期を気にする残念女教師、というジャンルは古今珍しくもないけれど、正直ここまでモテないのが納得出来ない人も居ないよなあ。平塚先生、なんで結婚できないんだ?
教師としても人間としても女性としても、びっくりするくらい魅力的だと思うんだが。
いや、確かに地雷女的な側面はあるけれど。あるけれどww
それでも、その危険性を無視して構わないくらい可愛くてかっこよくて美人な女性なんだけどなあ。なんだけれど、着々と八幡とフラグ立てていくのはやめてください。そいつ、生徒ですから。あんた、教師ですから(笑
数いる女性キャラの中で、なんで平塚先生が一番自分で八幡とのフラグ積み立てっていってるんだよw 結衣ですら、かなり慎重を期しておっかなびっくり丁寧にやってるというのに。この教師と来たら、勢い余って八幡がほだされない勢いでフラグ立てるからなあ。これが、ガツガツと飢え剥き出しであからさまな年下狙い、という見っともないフラグの立て方ならドン引きするだけなんだが、この人ときたらちゃんと教師として接する一方で無意識かつ無防備に、非常に可愛らしく尚且つナチュラルにポンポンポンとフラグ立てていくもんだから、もう溜まったもんじゃないんですよね。あれあれあれ?と思ってるうちに、本当に八幡が貰っちゃっててもおかしくないくらい。卒業したあとにラーメン屋連れてってやる、って約束するその意味、この人わかってるのかわかってないのか(苦笑

逆に本当に四苦八苦しているのが、結衣なんでしょう。この子の一生懸命さは、毎度毎度心が震える。自分がどれだけリスク負っているか、危ない橋渡ってるか他人の顔色を伺っていきてきたこの子が一番わかってるだろうに。自分の感情に従うことが、どれだけヤバいことかわかってるだろうに。それでも、折り合いがつくところを必死で探し回りながら、そんなもの無いのを薄々感じ取りながら、だからこそ悩みながら、その先に踏み出そうとしているこの子のいじましさには、ほんとうに胸打たれる。

本当に八幡のこと好きなんだな、結衣って。
同時に、同じくらい雪乃の事も心配している。

八幡、どうするつもりなんだろう。……どうするもなにも、こいつも平塚先生の言うところの優しい奴だからなあ。ぼっちのくせに、ひねくれ者のくせに優しすぎる奴だからなあ。もうちょっと無神経で、他人の心の機微なんか疎くて、自分の都合を優先してしまえる奴だったら、もっと楽だったろうに。でもぼっちだからこそ、彼は潔癖にそういう人間の無神経さをこそ許せないんだろう。憎んですらいるはずのそれらを、自分に許すなんて絶対に受け入れられないんだろうなあ。
比企谷八幡とは、そんな誇り高いボッチなのだ。
その誇りを、今八幡は必死に抱きとめようとしている。自分が唾棄している在り様を必死に拒絶しようとして、湧き上がるそれを抑えられずにいる。
違うのに。
その思いを押し殺すことは、なかったコトにしてしまうのは、プライドを護ることとは違うのに。

さあ、本当に嘘をついているのはいったい誰だ?

シリーズ感想