聖剣の刀鍛冶13 (MF文庫J)

【聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) 13.Barbanill】 三浦勇雄/屡那 MF文庫J

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騎士団のみならず都市にまだ残っていた市民たちからも結婚を祝福されるセシリーとルーク。その宴の片隅に佇む聖剣アリアは困惑していた。たとえ聖剣と呼ばれようとも"凶器"であることにかわりない自分に対して、親しげに声をかけてくる者たち。彼らは“魔剣の”アリアや銘無しと一体どんな関係だったのだろうか……? 一方、帝政列集国は移住を始めた都市市民たちを見逃し、非を負わずに総力を注げる“都市が兵士のみとなる”時を待っていた——。そして——決戦の刻!! 騎士の運命と剣の使命が研ぎ澄まされる最新巻!
新婚さんいらっしゃ〜い。と、言わんばかりの新妻スタイルなセシリーさん。前巻のウェディングドレスの後をどうするのかと思ってたら直球で家庭に入ったセシリーさんをやってくれちゃいましたよ。エプロンに包丁ほっかむりって、また定番中の定番で攻めて来ましたか。流れ的にクライマックス突入の勢いだっただけに、ここまで落ち着いた装いでこられるとは思っていませんでした。もうこれは、流れ的には次はマタニティドレスですね、わかります。
と、言いたい所だったのですが、この場合子作りをしてしまうと明確に死亡フラグを踏んでしまうので、自主回避ですよ、自主回避!! くー、なんというフラグ倒しだ。尤も、最終決戦を前に本当に結婚しちゃったのだって、それこそこの戦いが終わったら結婚するんだ、という最大の死亡フラグを折る最良の手段を選択したってことなんだから、それぐらいは楽勝か。でも、もう名実共に夫婦なんですから、えっちぃことしてもいいんですよ? 一緒にお風呂はいるとか、ね? もげろとか言わないから。ルークにはもげろとか言わないから。
とまあ、これから最終決戦だというのにむしろ幸福の絶頂を満喫しているセシリーの影で、逆にネガティブスパイラルに陥ってしまったのが、聖剣として復活したアリアでした。
魔剣アリア……転じて聖剣として復活して何が変わったかと言えば……メンタル弱くなりました。っておぉい!!
魔剣だった頃のアリアも、聖剣の材料となった「銘無し」も、こんなにメンタル弱くなかったよ? いやあ、まあ考えてみればアリアもあれで精神的に脆かったり不安定なところもあったけれど、それを踏まえた上で毅然と立つことのできた女性でした。それが、キオクを失ったとはいえここまでヤワヤワになってしまうとは。
記憶を失ったということは絆をも見失ってしまったということ。アリアを支えていたものが全部取っ払われた今、彼女には剥き出しの脆弱性しか残されなかったということか。不幸にも、周りの連中は彼女が「アリア」だと疑いもしなかったから、自分たちと彼女との間に繋がっている「絆」もまた健在だと疑いもしてなかったんですよね。それが、アリアのメンタルケアを怠り、彼女に「魔剣アリア」として接することで「聖剣アリア」の自己をないがしろにしてしまい、その成長を促すことに失敗してしまっていたわけだ。
魔剣アリアを大事にすることは間違っていなかったとは思うんですけどね。アリアや銘無しに向けていた思いを聖剣アリアに語りかけた時、最初は確かに霧中にあった彼女の心に光が差し込んでいたのですから。そのまま行けば、彼女はちゃんと統合された「アリア」としての自己を確立できていたのかもしれません。ところが、いつの間にか「魔剣アリア」「銘無し」と自分「聖剣アリア」に隔たりを感じ、周りから向けられる感情に逆に疎外感を募らせるようになってしまっていたのでした。
だから、そういう精神性が、アリア自身が力説する自分は凶器にすぎない、という自己主張と矛盾し、大きく逸脱してるんだってば。
でも、こういう細かい機微をセリシーに気づけ、というのも難しい所。じゃあ誰が気づいて然るべきだったのか、と問うてみると……そういうメンタル担当って誰でしたっけ?
なんか、わりと誰も彼もが勢いの良さで閉塞をぶち破っていた気がするので、こういう繊細なケースを担当する人が思い浮かばない!! むしろ、それこそがアリアの担当だったんじゃないかと思うくらい。なんとなく記憶が美化されていて、アリアもわりと勢いだったよ、と思わないでもないけれど。頼るべきはリサくらいのものだったのかもしれないけれど、アリアの相棒はセシリーだもんなあ。何とかするのもセシリーであるべきなのだろう。まあ、新婚さんはそれどころじゃなかったんでしょうけどね。
……ぶっちゃけ、浮かれてやがったな、この女(苦笑

様々なものを犠牲にしながら、それでも出来る準備は整えて、万端敵の軍勢を迎え撃とうという時になって露見する、致命的な準備不足。
結婚した程度で死亡フラグは潰えない、などという展開にはならないで欲しい、と別口で結婚しちゃったカップルを横目に見ながら、願うばかりである。
サブタイ、Barbanillとついたからには本当にクライマックスか、と思ったら、そこまで行かない準備回だったとは。これ、よっぽどクライマックスが分厚くなったからなんだろうけれど、DVD特典の短編が2つついて、というのは色々な意味でやられた、うんやられた。
でも、「少女と少女王」、シャーロットとゼノビアの馴れ初めのお話は、ぜひ知りたかったエピソードでもあったので、読めてよかったです。本編では他国のことなので、いつの間にかゼノビアの側近となり仲良くなった状態で再登場したシャーロットたちでしたけれど、思いの外シャーロットってゼノビアの在り方に影響与えてたんだなあ。シャーロットと出会うまで、ゼノビアってもっと肩肘張って生きてたんですねえ。初登場した時から、幼いのに優秀、という以上に考え方に柔軟性があって心に余裕がある人だな、と感心しきりだったんですが、それにはシャーロットの存在が関わっていたんですねえ。
良い出会い、だったんですね。


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