ビューリフォー!―准教授久藤凪の芸術と事件 (メディアワークス文庫)

【ビューリフォー! 准教授久藤凪の芸術と事件】 波乃歌/toi8 メディアワークス文庫

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 学生から大人気のイケメン美術史研究者・久藤凪准教授。でもわたし、田之中花はその忠実な奴隷です……。
 ひょんなことから容姿端麗で頭脳明晰、温厚篤実で知られる久藤准教授の助手になってしまった、貧乏学生の花。
 一見好青年な久藤先生だが、花にだけはその悪辣な本性を露わにする。まさに奴隷なみにこき使われる花は、一方で彼を次々と、自分が首を突っ込んだトラブルへと巻き込んでいき――。
 名画『イカロスの墜落のある風景』の絵葉書に隠れた秘密とは? ピカソの人生が導く恋の処方箋とは? 奇妙で楽しいアート・ミステリ登場!
歴史的な名画をネタにして、こんな風に短編連作として綴っていく作品というと、まず真っ先に思い出すのが美奈川護さんの【ヴァンダル画廊街の奇跡】ですが、あれが人間ドラマが主題だったのに対して、こちらはあらすじにもある通り、ミステリ調。それも、他愛もない、というと語弊があるけれど、日常の中で起こる出来事にまつわるミステリ。まあ明らかに、今おなじメディアワークス文庫で大ヒットとなっている【ビブリア古書堂の事件手帖】を意識した作品ですねえ。ともあれ、ネタ元が絵画というのはビブリアみたいな古書やクラシックなどの音楽などと比べると、一つだけ明確な利点があるんですよね。それは、主題となる絵画が、ひと目でどんなものか判るというもの。書籍や音楽と違って、絵画はその絵の写真を掲載すれば、それがどんなものか明確に判別できるのです。実際、この【ビューリフォー!】にも、毎回取り扱われる絵画の絵が載っています。書籍や音楽だと、まず登場人物がその作品から感じ取ったものを表現する前に、その想いの元になった作品が一体どういうものか、作中の人物たちが感じたものの何割かでも共感して貰うために様々な形で言葉を尽くさなければなりません。それに対して絵画は……勿論、その絵の背景や描かれた意図や画家当人の在り様など、言葉を尽くさなければならない所は多々ありますけれど、前提として語るべき作品とはまずこういうものである、というのを「見る」ことで一先ず把握できる、というのはやっぱり大きいのです。
ただ、こればっかりは久藤先生と同意見なんだけれど、絵はちゃんと本物と同じ採寸と色彩で見たいですよね。印刷で潰れた縮尺の小さな絵だと、もひとつこう、絵のインパクトが伝わってこない。第一話の『イカロスの墜落のある風景』なんざ、この絵については全く知らなかったので、久藤先生の説明に度肝を抜かれて慌てて章の頭に掲載されていた絵に目を凝らしたんですが、ちっちゃくて見難いーー! それでも、肝心の部分を見つけた時には思わず笑ってしまったのでした。
改めてネットの方で検索して、それなりの大きさとちゃんと色のついた画像を発見して見直したんですが……、これ本当に凄い絵ですよね。普通に見てたら、タイトルの意味全然分からんよ、きっと。

しかし、大学の准教授なんて給料がいいなんて話、殆ど聞かないのにこの久藤先生ってやたら金回りがいいんですよね。性格のオモテウラが激しいと言っても、別にアコギな商売を裏でしている様子もないですし、裕福な家の生まれなんだろうか。外面の良さといい、スイーツが通好みなところといい、それっぽいけれど。
分からないといえば、先生ってばなんでわざわざ花ちゃんみたいな子を助手にしたんだろう。確かに、いびると反応が面白いけれど。好きな子をいじめて喜んでいる、という風情でもありませんし、先生が本性を露わにしたきっかけは、花ちゃんが先生を怒らせたからですしねえ。ダメ学生をこき使ってイビってるだけ、というにはお金に困っている花ちゃんに対して殆ど援助と言っていいくらいの給金を出してますし、この子が困ってたり悩んでたりしたら、まず見逃さずに、また彼女の方からお願いしたら、皮肉や文句付きではありますけれど、必ず手を差し伸べてくれますしね。
案外と世話好きなんかじゃないかと思えてくる。この花ちゃんという娘は、単純で直情的で頭の回りも良くないにも関わらず、しょっちゅう自分からトラブルに頭を突っ込んでいく子ですからね、放っておけない、という気にさせられるのはよく分かる。かと言ってただで火消しをして回るのは本人悪気がないけれど、いやむしろ無いからこそ腹が立つ。
故にイビってイジリ倒してストレス発散。うむ、なるほど納得した。花ちゃん、ある意味ガーガー文句言いながらもメゲないタフな子だから、ある程度やりすぎても大丈夫ですし。
懲りない小娘と性格ネジ曲がった准教授のコンビは、笑える意味でギスギスしたお世辞にも仲の良いものではありませんけれど、嫌味もないしサッパリして引き摺らず、何だかんだと認める所は認めあう良いコンビなんじゃないでしょうか。
ただ、この「ビューリフォー」という決め文句は微妙だなあ(苦笑
いっそ、アルファベット表記にしてしまえばよかったのに。どうもカタカナでビューリフォーとか言われると腰砕けになってしまうw