聖断罪ドロシー01  絶対魔王少女は従わない (角川スニーカー文庫)

【聖断罪(アダムヘッド)ドロシー01 絶対魔王少女は従わない】  十文字青/すぶり 角川スニーカー文庫

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帝国に攻め込まれ、滅んだレベルデッド魔王国。間一髪逃げ出した王女のドロシーは、護衛の魔法使いカルアと共に、追っ手をかわしながら逃避行を続けていた。しかし、身を隠さねばならないはずのドロシーは、各地で目にする帝国によって苦しむ民を見過ごせず、すぐに助けに入ってしまう正義感の持ち主だった!ついには「“絶対魔王”になって帝国を倒し、善政をしく!」と言いだし!?魔王の血を引く聖なる少女の世直し旅が開幕。
一番尖ってた頃の十文字さんなら、このシチュエーション、ドロシーの正義感と善意が原因となって主人公のカルアが落命してしまい、愛する人を自分の独り善がりで殺してしまったドロシーが精神的にズタボロになり自分をズタズタに切り裂いて這いずりながら懊悩する、なんていうキャラクターを追い込みまくることで内面を浮き彫りにしていく、という展開に持って行きそうなものなんだけれど……実のところ、それは一度【いつも心に剣を】という作品で、極限までやり尽くしてるんですよね。私、好きなキャラクターは徹底的に追い込んでナンボ、という趣向も少なからずあるんですけれど、そんな私も、そこまでやるか、と青褪めるほど容赦も救いもない、ひたすらに主人公とヒロインの女の子を精神的に惨殺しながら追い詰めていくストーリーでした。
あれは、書く方も一度きりでもう十分、と思うような内容だったんじゃないかな。あれは、本当にもう書けるところまで書き切った、というような代物でしたし。
あんなバッドエンドをもう一度繰り返すくらいなら、今度はハッピーエンドを手繰り寄せたい、そう思うのが心情です。少なくとも、読み手側としてはドロシーたちがユユやレーレのような末路を辿るのは見たくない……と、流れで書きましたけれど、正直言うと、見てみたいという暗い愉悦も少なからずあったりして。
ただ、この子、ドロシーは愚かな子ではありますけれど、救いがたい愚鈍な人間ではないので、致命的な失敗……カルアを死なせてしまう、或いは再起不能かそれに準じる大きなキズを負わせてしまう、という事は無い気がします。
この子、自分がどれだけ現実を見ない世間知らずで無責任な綺麗事を口にしているか、ちゃんと自覚しています。それなのに、何故なおも綺麗事に突っ走ろうとするのかと言えば、決して平和思想に囚われているわけでも、人の善性を信じ込んでいるわけでもありません。
この子はただ、カルアなら自分の願いなら、どんなお願いだって絶対に叶えてくれる、と信じているだけなのです。自分がどれだけ夢みたいな非現実的な事を言っても、彼なら実現してくれる、と。
でも、それも盲信や信仰の領域までには至っていません。カルアへの無邪気な信頼は、同時に常に現実との折り合いを考慮に入れています。好き勝手しているように見えるドロシーですけれど、本当に自重を要求される場面では、カルアや協力者の言を絶対に無視しませんし、自分の願いが本当にカルアの命を奪いかねないシーンでは、確かに彼女はカルアを優先しようとしていました。
その意味では、彼女は王の器ではないように思えます。この子は、多分、大義や信念などよりも、身近な大切な人を選ぶ普通の女の子です。それで、幸せになれる子なんだと思うのです。
彼女の不幸は、それこそ素朴な善意を実際に世間に差し向けられるだけの権威を持った立場に生まれてしまった事なのでしょう。市井の子だったなら、そこまで大きな視点で善意を執行しようという意識すら生まれず、ただ身近な人に幸いを分け与え共有するだけの人生を歩めたでしょうに。
彼女は絶対に叶わないであろう広義の善を執行する意志を持ってしまった。後は、痛みと苦味を味わいながら、現実との折り合いをつけていくしかない。
カルアに求められるのは、彼女の期待に最大限応えながら、彼女の無邪気な理想を厳しい現実にどれだけソフトランディングさせるか。或いは、カルアと夢想のどちらかを選ばなくてはいけない、取捨選択の場面を起こさせないようにするか。何れにしても、彼に求められている要求はひたすらに高く、彼は男の矜持を以てそれを達成するつもりでいる。
不平屋のひねくれ者のくせに、なんて見えっ張りな男なんだろう(苦笑
こういう歪んで真っ直ぐな、純真な頑固者は、好きなタイプなんですよ。自分の語る言葉が夢物語と知っている女の子に、それでもなお胸を張って夢物語を語らせ続けるだけの甲斐性を見せようと頑張る男の子。幾重もの挫折がカルアを待っているのだろうけれど、それでもこの子には最後まで意地を張り通して貰いたいなあ。

十文字青作品感想