B.A.D. チョコレートデイズ(3) (ファミ通文庫)

【B.A.D. チョコレートデイズ 3】 綾里けいし/kona ファミ通文庫

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どうしてこうなった……。七海【ななみ】が挑発し、白雪【しらゆき】がプライドを賭け、繭墨【まゆずみ】が油を注いだ料理対決という惨状に、僕は頭を抱える――『クッキング・オブ・ヘル』。学校の時計塔で少女たちが消えてゆく。友人を助けるため、立花梓【たちばなあずさ】は再び嵯峨雄介【さがゆうすけ】に助けを求めるが――『さよならの時計塔』。桜の下で、繭墨あざかはただ不吉に美しい。それ故に僕は絶望するしか出来なかった――『僕が彼女を理解できない不条理』他、全4編で贈るチョコレートデイズ・セレクション第3弾!
本編で雄介が辿ったあまりにも残酷な末路を前にして、私は涙に暮れながらもずっとしこりのように思っていました。彼を正気の世界に留める、日常の世界に押しとどめる最後のくびきのような役目を果たしていたあの後輩ちゃん、立花梓はどうしてこの顛末に寄与する事がなかったんだろうと。
小田桐くんとはまた別に、あの梓という子は純粋なまでの真っ当さを以て雄介に接し続けることで、雄介を絶望から救い続けていたんですよね。彼女は本当に唯一と言っていいくらい、雄介の正気の部分を見抜き、まっすぐに信じ続けてくれていた子でした。雄介は戸惑いながらも、彼女の真っ直ぐさを眩しそうに見守り続けていたのです。そうして、彼は普通の学生というくくりの中に半ば逸脱しながらではありますが、片足をとどめ続けていたんですね。
そんな、雄介にとって重きをなしていた梓が、どうして雄介の破滅に一切関わることがなかったのか、ずっと疑問を抱いていたのです。
その答えが、この短篇集の中で綴られていました。
皮肉にも……彼女の純朴なまでの真っ直ぐさが、雄介を遠ざける結果になっていたなんて。彼女は、梓はあまりにも真っ当すぎたんですね。それも狂ったような真っ直ぐさ、真っ当さなんかじゃなく、朴訥で普通なまでの真っ当さ。それでいて、とても強靭でしなやかな意志を持つ、陽の光の下で後ろ暗い事など何もなく生きていける少女でした。
この子、本当に良い子なんです。普通に負の感情だって持ってます、でもそれに飲み込まれない、怒りや憎しみや絶望に染まり切らない、いつだって俯かずに上を向いて笑える子でした。だからこそ、雄介の本質を見逃さず、彼の見てくれの恐ろしさ、発狂した言動に惑わされず、心から懐いてくるような子でした。
だからこそ、雄介は闇を抱えた自分とは、相容れないと、自分なんかとは関わってはいけない子なのだと、思ってしまったのでしょうか。
梓が巻き込まれた、少女たちのおぞましいまでの捻くれた負の感情に端を発する神かくしの怪異の事件は、この【B.A.D.】においては在り得ないような、誰もが救われ拗れていたものがすべて解きほぐされ、皆が笑顔になり幸せになって終わることができた、奇跡のようなハッピーエンドで幕を下ろしました。
そして、そんな奇跡のような結末を手繰り寄せたのは、立花梓その人だったのです。その事実こそが、【B.A.D.】ではありえない、四方が丸く収まり、闇の残らぬ終わり方を導いた事こそが、梓がこの作品の異端であることを示しているのでしょう。彼女が、繭墨あざかが鎮座し、小田桐くんが首まで浸かり、雄介がたゆたい続ける、腐った血の海の地獄に似た闇の世界とは、決して相容れない人間である証明だったのでしょう。決して、こちらがわとは関わってはいけない、太陽の子だったのです。
闇に落ちた人間には、まぶしすぎる子だったのです。

この子は、とても強い子でしたけれど、本当にただの普通の女の子でした。この子をこれからも傷つけないまま守るには、自分たちのような外側にいる人間は関わらずにいるのが一番だ、と雄介が判断したのは、多分間違っていないのでしょう。この世界の闇は、あまりにも冷酷で嗜虐的で残虐です。数々の事件の悲惨な顛末が、真理を物語っています。これ以上関わり続けるなら、梓も決して無傷では居られない。いつか、致命的な闇を覗きこんでしまうでしょう。
雄介の判断は正しかった。自らの救済を求めず、この子を守るために遠ざかる。その姿は、紛れもなくヒーローです。梓にとって、危ない時にいつでも颯爽と現れてくれた、危なっかしいヒーローは、最後までその雄姿を損なわないまま去っていったのでした。去ったまま、二度と戻って来なかったのでした。
それは安堵を伴う、胸を疼かせる切なさ。
すべてが断ち切られていた事に納得し、ようやく、今になって雄介の末路を飲み込めたような気がします。彼は、戻らぬ先に逝ってしまったのだと。
でも、それがひたすらに哀しいのです。哀しいのです。

シリーズ感想